映画『四十九日のレシピ』タナダユキ監督インタビュー
演じ手に葛藤を求める役柄

(2013.11.18)

 『四十九日のレシピ』©2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会

亡くなった母のため四十九日の大宴会開催を決心した父と娘。形見の「暮らしのレシピカード」片手に少しづつ心の穴を埋めていく物語 『四十九日のレシピ』。監督のタナダユキさんにお話をうかがいました。

■タナダユキ プロフィール
1975年生まれ。福岡県北九州市出身。初監督作『モル』が、PFFアワード2001グランプリとブリリアント賞(日活)の二冠に輝き、自主映画ながら劇場公開を果たす。フォークシンガー高田渡氏のドキュメンタリー『タカダワタル的』(’04)は東京国際映画祭に特別招待作品として出品された。その後、『月とチェリー』(’04)、『赤い文化住宅の初子』(’07)、『俺達に明日はないッス』(’08)と順調にキャリアを重ね、『百万円と苦虫女』(’08)でウディネファーイースト映画祭・My Movies Audience Award、第49回日本映画監督協会新人賞を受賞する。2012年、『ふがいない僕は空を見た』が公開。キネマ旬報日本映画ベストテン 7 位となる。北九州を舞台にした小説『復讐』(新潮社)が発売中。

『四十九日のレシピ』ストーリー

義母の介護に勤しむ平凡な主婦 百合子(永作博美)がある日電話に出るとそれは夫 浩之(原田泰造)の不倫相手からのショッキングな内容だった。子供ができたので別れてほしいという。身を引く決心を揺るがせながら実家に戻るとそこには父 良平(石橋蓮司)が、見知らぬ少女 イモ(二階堂ふみ)とお風呂に入っていた。またもやショック! の百合子。聞けばイモは亡くなったばかりの百合子の母 乙美が勤めていた更生施設にいた少女で、乙美が生前残したレシピカードが家のどこにあるか知っているという。レシピカードには、良平の大好物のコロッケサンドやラーメンの作り方、掃除のハウトゥまで手描き、しかもおとぼけなイラストまでついている。イモがレシピ通りに料理を再現すると、その懐かしい味に百合子、良平の心がほどけていく。乙美の遺言通り、四十九日の大宴会をやろう、ということになるが……。

オファーされた
俳優が葛藤しそうな役柄。

ー主人公の三十代の主婦 百合子を演じた永作博美さん、その父 良平役の石橋蓮司さんはじめ配役が出色です。タナダ監督想定通りのキャスティングだったのでしょうか。

タナダ監督:プロットの段階で、脚本の黒沢さんとそうだといいよね、と言っていた配役です。映画監督って欲深い。他の監督もそうだと思うのですが、(俳優さんに)自分の作品で演じてもらう役は、その人がかつて演じたことのない、初めてのもの、演じることに葛藤がありそうな役を演ってもらいたいという欲があります。

永作さんも石橋さんも過去作品を観ていて、実はこういう役も合うんじゃないか、演ったことないんじゃないか、と思いました。


離婚問題を抱え傷心の百合子(永作博美)、妻 乙美に先立たれ呆然自失の父・良平(石橋蓮司)

百合子が実家に戻ると、良平はすっとんきょうな少女イモ(二階堂ふみ)と入浴中だった。

タナダ監督:永作さんは数多くの役を演じていらっしゃいますが、主演映画でもいわゆる「普通の人」、揺れ動く等身大の女性を演じているのは見たことないなと。

以前、永作さん出演の『月桂冠』のコマーシャルがありましたが、あの短い時間の中で(登場する)ふたりの関係性を表現し切っていてすごい力を持った女優さんだと思いました。あの時のCM音楽は『四十九日のレシピ』と同じ安藤裕子さんの『のうぜんかつら』という曲でした。

石橋さんはこれまでクセのある役が多い。でも、こういう普通のお父さんを演じてもらったらたぶん凄く面白いと思ったんです。ご本人は「いつもだいたい出てきて15分くらいで死んじゃう役が多いのに、今回は最後まで生きてるなぁ」って(笑)。

ー石橋さんは、冒頭の畳にひっくり返っているシーンがすごかった(笑)。叔母 珠子役の淡路恵子さんも格好良かったです。

タナダ監督:淡路さんが決まった時はやっぱり嬉しかったです、イメージ通りの配役。60年間女優をやっている方です。最初は緊張しましたが、本物の大女優の方ってて大女優ぶらないんですね。本当に気さく。気づけば緊張も解けていましたが、実は淡路さんがほぐしてくださったのだと思っています。


良平の姉 珠子(淡路恵子)の口の悪さは、百合子と良平を思いやるゆえ。
なかしましほさんの料理、
七字由布さんのイラストで再現『暮らしのレシピカード』

ー妻に先立たれて意気消沈の良平や、傷ついた百合子を乙美の残した暮らしのレシピのメニューが癒していきます。劇中には『暮らしのレシピカード』のページ登場しますが、このイラストが思わず笑いを誘います。また、イモ(二階堂ふみ)がレシピにもとづいて再現する料理メニューの数々は実においしそうです。料理は料理研究家なかしましほさん、イラストは七字由布さんによるものだそうですね。

タナダ監督:なかしまさんの『まいにち食べたい“ごはんのような”クッキーとビスケットの本』を持っていて、あまりに簡単な手順で本当にできるのかな? と思って実際にクッキーを作ってみたらすごく美味しかった。次に『ごはんですよ』という料理のレシピを買ってみたら、可愛らしいけどちょっと毒のある七字さんのイラストがありました。巻末に料理用語集がついていて例えば「乳化」「分離」の項目はヤンキーと文化系男子がくっついたり離れたり。

「暮らしのレシピカード」は、このおふたりにお願いしたいと決めていました。


「暮らしのレシピカード」には良平が大好きだったコロッケパンやラーメン、掃除のHow toまでイラストつきで描かれていた。

百合子は「暮らしのレシピ」の料理を味わいながら幼い日に思いを馳せる。継母としてやって来た乙美になつかなかったこと、一緒に行った動物園、乙美の残した言葉……。


四十九日の大宴会の手伝いに、乙美のパート先の自動車工場にいた日系ブラジル人ハル(岡田将生)も駆けつける。


宴会用に乙美の人生年表を作るが、空白だらけ。空白は埋まるのか? 宴会は成功するのか?

演劇から映画にシフト
映画の嘘の方が向いている。

ーそもそもタナダ監督が映画を志したきっかけというのは?

タナダ監督:最初は演劇をやっていたのですが、自分のやりたいことがだんだん映画にシフトして行った感じです。自分のやりたいことを表現するために辿り着いたところが映画。

ー映画と演劇のちがいと言いますと……

タナダ監督:発声法からしてちがいます。演劇を観るのは好きです。ですが、自分の作品を作るとなった時に、なんというか映画でつく嘘の方が自分にはやりやすいんです。演劇もそうですが、映画はたくさんの人の力を必要とするところがめんどうでもありますけど、そこもまた面白さでもあるのかなと思います。

ーちなみに好きな映画監督などは?

タナダ監督:増村保造監督、成瀬巳喜男監督、岡本喜八監督、相米慎二監督……海外ではコーエン兄弟ですね。

ー最後に映画作りにおいて大切にしていることを教えてください。

タナダ監督:……柳のような、でしょうか。柳ってどんなに風が吹いても幹は折れない。枝はちゃんと風に反応して揺れる。そういう人になりたいなと思います。幹が折れなければ周りも迷わずについてきてくれると思うんです。

かたくなに相手の意見を突っぱねるというのは映画の可能性を縮める気がします。ちゃんと人の意見も一旦飲み込んで、じゃどうするか決断する。柔軟さを持ちつつ幹が折れない柳のような監督になりたいんです。

『四十九日のレシピ』

新宿バルト9・有楽町スバル座 他 全国ロードショー公開中

出演:永作博美、石橋蓮司、岡田将生、二階堂ふみ、原田泰造、淡路恵子 ほか
監督:タナダユキ 
脚本:黒沢久子
撮影:近藤龍人
音楽:周防義和
編集:宮島竜治
フードコーディネート:なかしましほ
イラスト制作:七字由布
原作:伊吹有喜(ポプラ社刊)
主題歌:安藤裕子『Aloha ‘Oe アロハオエ』
衣装提供:TOGA PULLA(トーガ プルラ/TOGA 原宿店 03-6419-8136)
©2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会