映画『四十九日のレシピ』タナダユキ監督インタビュー
演じ手に葛藤を求める役柄
(2013.11.18)
亡くなった母のため四十九日の大宴会開催を決心した父と娘。形見の「暮らしのレシピカード」片手に少しづつ心の穴を埋めていく物語 『四十九日のレシピ』。監督のタナダユキさんにお話をうかがいました。
■タナダユキ プロフィール
オファーされた
俳優が葛藤しそうな役柄。
ー主人公の三十代の主婦 百合子を演じた永作博美さん、その父 良平役の石橋蓮司さんはじめ配役が出色です。タナダ監督想定通りのキャスティングだったのでしょうか。
タナダ監督:プロットの段階で、脚本の黒沢さんとそうだといいよね、と言っていた配役です。映画監督って欲深い。他の監督もそうだと思うのですが、(俳優さんに)自分の作品で演じてもらう役は、その人がかつて演じたことのない、初めてのもの、演じることに葛藤がありそうな役を演ってもらいたいという欲があります。
永作さんも石橋さんも過去作品を観ていて、実はこういう役も合うんじゃないか、演ったことないんじゃないか、と思いました。
タナダ監督:永作さんは数多くの役を演じていらっしゃいますが、主演映画でもいわゆる「普通の人」、揺れ動く等身大の女性を演じているのは見たことないなと。
以前、永作さん出演の『月桂冠』のコマーシャルがありましたが、あの短い時間の中で(登場する)ふたりの関係性を表現し切っていてすごい力を持った女優さんだと思いました。あの時のCM音楽は『四十九日のレシピ』と同じ安藤裕子さんの『のうぜんかつら』という曲でした。
石橋さんはこれまでクセのある役が多い。でも、こういう普通のお父さんを演じてもらったらたぶん凄く面白いと思ったんです。ご本人は「いつもだいたい出てきて15分くらいで死んじゃう役が多いのに、今回は最後まで生きてるなぁ」って(笑)。
ー石橋さんは、冒頭の畳にひっくり返っているシーンがすごかった(笑)。叔母 珠子役の淡路恵子さんも格好良かったです。
タナダ監督:淡路さんが決まった時はやっぱり嬉しかったです、イメージ通りの配役。60年間女優をやっている方です。最初は緊張しましたが、本物の大女優の方ってて大女優ぶらないんですね。本当に気さく。気づけば緊張も解けていましたが、実は淡路さんがほぐしてくださったのだと思っています。
なかしましほさんの料理、
七字由布さんのイラストで再現『暮らしのレシピカード』
ー妻に先立たれて意気消沈の良平や、傷ついた百合子を乙美の残した暮らしのレシピのメニューが癒していきます。劇中には『暮らしのレシピカード』のページ登場しますが、このイラストが思わず笑いを誘います。また、イモ(二階堂ふみ)がレシピにもとづいて再現する料理メニューの数々は実においしそうです。料理は料理研究家なかしましほさん、イラストは七字由布さんによるものだそうですね。
タナダ監督:なかしまさんの『まいにち食べたい“ごはんのような”クッキーとビスケットの本』を持っていて、あまりに簡単な手順で本当にできるのかな? と思って実際にクッキーを作ってみたらすごく美味しかった。次に『ごはんですよ』という料理のレシピを買ってみたら、可愛らしいけどちょっと毒のある七字さんのイラストがありました。巻末に料理用語集がついていて例えば「乳化」「分離」の項目はヤンキーと文化系男子がくっついたり離れたり。
「暮らしのレシピカード」は、このおふたりにお願いしたいと決めていました。
演劇から映画にシフト
映画の嘘の方が向いている。
ーそもそもタナダ監督が映画を志したきっかけというのは?
タナダ監督:最初は演劇をやっていたのですが、自分のやりたいことがだんだん映画にシフトして行った感じです。自分のやりたいことを表現するために辿り着いたところが映画。
ー映画と演劇のちがいと言いますと……
タナダ監督:発声法からしてちがいます。演劇を観るのは好きです。ですが、自分の作品を作るとなった時に、なんというか映画でつく嘘の方が自分にはやりやすいんです。演劇もそうですが、映画はたくさんの人の力を必要とするところがめんどうでもありますけど、そこもまた面白さでもあるのかなと思います。
ーちなみに好きな映画監督などは?
タナダ監督:増村保造監督、成瀬巳喜男監督、岡本喜八監督、相米慎二監督……海外ではコーエン兄弟ですね。
ー最後に映画作りにおいて大切にしていることを教えてください。
タナダ監督:……柳のような、でしょうか。柳ってどんなに風が吹いても幹は折れない。枝はちゃんと風に反応して揺れる。そういう人になりたいなと思います。幹が折れなければ周りも迷わずについてきてくれると思うんです。
かたくなに相手の意見を突っぱねるというのは映画の可能性を縮める気がします。ちゃんと人の意見も一旦飲み込んで、じゃどうするか決断する。柔軟さを持ちつつ幹が折れない柳のような監督になりたいんです。
『四十九日のレシピ』
新宿バルト9・有楽町スバル座 他 全国ロードショー公開中
出演:永作博美、石橋蓮司、岡田将生、二階堂ふみ、原田泰造、淡路恵子 ほか
監督:タナダユキ
脚本:黒沢久子
撮影:近藤龍人
音楽:周防義和
編集:宮島竜治
フードコーディネート:なかしましほ
イラスト制作:七字由布
原作:伊吹有喜(ポプラ社刊)
主題歌:安藤裕子『Aloha ‘Oe アロハオエ』
衣装提供:TOGA PULLA(トーガ プルラ/TOGA 原宿店 03-6419-8136)
©2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会