マーティン・スコセッシ監督初3D作品
『ヒューゴの不思議な発明』

(2012.02.27)
来日記者会見にプレゼンターとして登場した小雪とともに。©2012 by Peter Brune
来日記者会見にプレゼンターとして登場した小雪とともに。©2012 by Peter Brune
男の美学を描いて来た
マーティン・スコセッシ監督の3Dとは。

『ヒューゴの不思議な発明』というタイトルから、まず、ヒューゴって誰、発明って何の発明なの?と思わせる、この作品。あのマーティン・スコセッシ監督の最新作で、しかも、3Dだということになると、またまた、なぜ? と興味が湧くのは当然です。私にとっては、この作品の存在そのものがミステリアスでありました。

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スコセッシ監督と言ったら、『タクシードライバー』(’76)のロバート・デ二―ロ、そこに、ちょこっと顔を出していたハーヴェイ・カイテル、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(’02)ではレオナルド・ディカプリオに加え、引退していたダニエル・デイ=ルイス(映画界を離れていたダニエルを映画界へ連れ戻したのはスコセッシ監督といわれます。)。『アビエイター』(’04)で再びレオナルド・ディカプリオ、そして、『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』(’08)でミック・ジャガーとストーンズというように、私のお気に入りの男たちを、より男らしく、かつ色っぽく輝かせる才能が顕著な存在です。

それら作品にグッときていた私にとって、今回は主人公ヒューゴ演じる天才的子役エイサ・バターフィールドに魅せられ制作したということなので、いよいよ大人の男にはピリオドを打ち、成熟する前からの男子を育てるというような境地に達せられたに違いない、また、子役の時代と言われて久しいこのところでもあり、この作品の登場は、とにかくワクワクでした。一般的に3Dは、やはり、お子ちゃま向きという思い込みがあるわけで、それをどう料理するのかにも、期待大。

3Dを手がけるなら監督として早いもの勝ちなのか、後からのほうが、技術的にも得があり、後乗り勝ちなのか、タイミングとしてはいかがなものか、そんなところもちょっと意地悪く見てみようなんて気持ちも当然ありました。

百聞は一見にしかずで、観終わった感想は、声を大にして、
「3Dじゃなければ、映画ではない」
と言いきってしまいそうな、そんな気持ちを抱かせる映画であったということ。

その一言でした。


3D映像で新境地に挑んだスコセッシ監督。2/17、ザ・リッツ・カールトン東京で行われた来日記者会見より。©2012 by Peter Brune
3Dに観飽きたなんて言わせない、映像美

思えば、3Dって、いったいなんのために作られるの? と当たり前のように観ることが出来るようになった今、私たちはそこに、何を見出したのでしたっけ?

手を伸ばせば触ることが出来そうに飛来する蝶々だったり、恐いもの見たさを満たしてくれる怪獣がこちらに突進してくるとか、サーカスやお化け屋敷的好奇心をどのくらい満たしてくれるかを期待していたように思います。

スコセッシ監督のこの作品は、それを期待しても応えてはくれません。
なぜなら、作品全体が3Dなんですから。

幕開けの雪のシーン、1930年のフランスのパリ、モンパルナスの駅構内に、いつも漂う芥、塵などをきめ細かく臨場感そのままに再現していて、あっという間にそこに私たちをいざなってくれます。

『アバター』(’09)の時は、スコセッシ監督よりはるかに3Dの先駆者となったジェームズ・キャメロン監督がイメージするアバター世界へ誘い込まれ、私は欣喜雀躍(きんきじゃくやく)、そう、子供に帰って大喜び、興奮したものです。

しかし、そういう体験とはまた、全然違うのです。
3Dの映像美を完璧に極め、未来形映画の在り方を示したように思います。

そして、実は3Dは、21世紀よりはるか以前、とっくの昔にあったんだよ、と教えるためにも、この作品を作ったということが、観た人だけにわかる仕組みになっています。

ストーリー展開は、原作『ユーゴの不思議な冒険』を越え、お子ちゃま向けどころではなく、監督曰くの7歳から108歳まで楽しめる内容で。アガサ・クリスティーばりの、ミステリー仕立て。

なので、あれこれ説明しすぎると、観る方々の面白みを半減する恐れがあると思われ、あまりここで、詳細にお話することは控えます。


『アバター』と全く異なる3D映像美『ヒューゴの不思議な発明』


パリの街、モンパルナスの駅構内の臨場感そのままに再現。

19世紀パリの空気感が、たまらなくオシャレ。

主人公は少年ヒューゴ。

ジュ―ド・ロウ演じるヒューゴの父親は、時計職人。博物館入りとなった機械仕掛けの人形を修理中に火事で焼死してしまいます。その日暮らしの様な伯父に引き取られ、モンパルナス駅構内にある時計台に住み込んで手伝いをさせられますが、貧しく寂しい生活を送らねばならなくなったヒューゴは孤児同然。

ヒューゴの楽しみはと言えば、時計台から見渡せるモンパルナス駅の賑わいや、そこに生きる市井の人々の暮らしぶりを見ながらも、父の遺品となった機械人形を、何とか動かしてみたいという想い。

犬好きのカフェのマダムに恋するお客や、駅公安官と、彼が結婚相手に想う花屋の売り子などの毎日を、余すところなく掴んでいて、その間を盗んで、ちゃっかり、カフェのパンをくすねたりして、飢えをしのいでもいます。

が、戦災孤児などを救済する意味でも、子供が一人でうろつけば保護して孤児院送りにする駅公安官に捕まらないように生きる毎日でもあるのでした。

ある日、おもちゃを扱っている店にのぜんまい仕掛けのネズミをくすねようとし、老店主に捕まってしまったことから、思ってもいなかった父の秘密に触れ、運命的な絆を担うことになるヒューゴ。

ベン・キングスレ―演じるおもちゃ屋店主は、奇しくも、ヒューゴの父が大切にしていた、機械人形の存在を知るやいなや、ただ事ではない挙動と、恐ろしいばかりの行動を見せるのです。さて、このおもちゃ屋店主は、何者なのか?


父の遺品となった機械人形を、何とか動かしてみたいヒューゴ。


ヒューゴは駅のカフェのパンを失敬したりで飢えをしのぐ。

映画の魔術3Dの元祖は、ジョルジュ・メリエス。

ここらあたりから、この映画が予想もつかない展開となり、単なる少年の冒険物語ではなく、スコセッシ監督の映画を愛する者たちへの熱いメッセージと、かつて映画に情熱を傾け、その生涯を全うした“映画の恩人”へのリスペクトの思いが紡がれていきます。

大人のための見どころ満載、目から鱗ですぞ。
ヒントは、そのおもちゃ屋。

そして“映画の恩人”、ジョルジュ・メリエスが登場します。

1902年に作られた『月世界旅行』という作品名など知らなくとも、あのお月さまの右目に、残酷にもロケットが突き刺さっているシーンは、映画愛好家なら、知らないはずがありません。
手品師から映画製作者となり、さまざまな映画制作・開発を試みて、現在の映画の創設者の一人とされているフランス人です。

彼の実人生を元に書かれた原作に感動したスコセッシ監督は、現在12歳になる自身のお嬢さんから映画化をせがまれて、この原作を読むことになったということです。

そこには、忘れてはならない、誰もがそうであった少年時代の思いがイキイキと描かれていて、監督自身の父との関係、すなわち映画を見まくっていたその頃を想い起すことになったそうです。

また、少年、少女が持つ独特のパワーが、多くのモノづくりの源であり、この力は時代とは関係なく普遍的なものであることを再確認することが出来たと言います。

映画の中で、ヒューゴに味方する少女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)は、賢く勇気があり、ヒューゴとの出会いで、落ちぶれ世捨て人の様になっていた養父に幸せをもたらすことになります。


永遠に残るサイレント映画『月世界旅行』。

スコセッシ監督の唯一無二の映画づくり。

さあ、そこに至るまでの流れを3Dだからこその描き方は、スコセッシ監督、唯一無二の映画づくりです。その素晴らしさは、言葉では言いつくせるものではありません。

まさに、映像のマジック。

そこには、5年ぶりで来日した監督が来日記者会見で語ったように、19世紀にあって、SF的な冒険小説の大家として『海底二万里』など多くの作品を生み出し、さらには『海底二万里』原作者として今も世界中の人々に知られるジュール・ベルヌの持つ美意識がイメージされています。

3Dが描くものというと、多くは未来の世界というイメージが多かったのですが、その概念を打ち破り、過去の時代にまで逆のぼり、その時代の空気感を緻密に再現したというところが、3Dの可能性をも高め、広げた快挙と言えましょう。

世界で初めての、動く映像を生み出し、映像の魔術師として一世を風靡したメリエスは、いわば3Dの創設者であるとスコセッシ監督は言いますが、尊敬すべきその人の傍らに、21世紀3D時代の今、スコセッシ監督は、“隣に座った”のです。

そして、スコセッシ監督もまた、映像の魔術師となった。

メリエスの存在を風化させることなく、3次元的に進化していく映画の素晴らしさを見せつけることに成功したスコセッシ監督なのであります。

そんなわけで、思ってもいなかった素晴らしい宝物を見つけ出す冒険物語がこの映画なのですが、小さい頃から映画を愛する私にとっては、目から鱗の大発見。

『ヒューゴの不思議な発明』は幸せな発明でした。

スコセッシ監督 ありがとう、と言いたいです。


映画全編が3次元的マジック世界。 少年、少女の冒険に惹きこまれます。
『ヒューゴの不思議な発明』

2012年3月1日(木・映画の日)TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー(3D/2D同時公開)

出演:ベン・キングズレー、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ジュード・ロウ ほか
監督&製作:マーティン・スコセッシ
製作:グレアム・キング、ティム・ヘディントン、ジョニー・デップ
脚本:ジョン・ローガン
撮影監督:ロバート・リチャードソンASC
プロダクション・デザイン:ダンテ・フィレッティ
ビジュアル・エフェクト・スパーバイザー:ロブ・レガト
衣装:サンディ・パウエル
音楽:ハワード・ショア
ステレオグラファー:ディミトリ・ポーテリ
©2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
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