「あの頃に戻っても、私は私を止めたりしない」人生の意味を見つめ直す大人のための“エデュケーショナル”映画『17歳の肖像』

(2010.04.23)

ストーリー

1961年、ロンドン郊外。ビートルズが世に知られる前の頃。16歳のジェニー(キャリー・マリガン)はオックスフォード大学を目指す優等生。苦手なラテン語もチェロの練習も、すべては進学のため!と、学校と家とを往復する退屈な毎日。唯一の息抜きは、部屋でシャンソンを聴きながら、憧れのパリと自由な未来への想いをめぐらせることだった。
ある日、彼女は倍も年の離れた魅力的な男性デイヴィッド(ピーター・サースガード)と出会い恋に落ちる。初めてのナイトクラブや音楽界……刺激的な大人の世界に幻惑されてゆくジェニー。未知の世界への憧れを抱く少女にとってそれは、学校の授業とは異なる、心ときめく“エデュケーション=教育”だった。しかし、17歳の誕生日を前に、もう後戻りできない大人への入り口で、ジェニーは苛酷な現実を知ってしまう。大切な選択を迫られた彼女が、最後に自ら選んだ道とは……?

昨年度のアカデミー賞で主要3部門(作品賞、主演女優賞、脚色賞)にノミネートされ話題を集めた本作で、映画初主演とは思えぬきめ細やかな演技で世界中の人々を魅了し「新たなオードリー・ヘップバーン」との呼び声も高い、期待の新星キャリー・マリガン。まさに蛹が蝶に変貌を遂げるかのごとく、制服姿のあどけなさと、年上の女友達のコーディネートによる洗練されたハイファッションの対比が実に見事で、スクリーンに登場するや鮮烈な存在感を放ちます。

辛口で知られる英国の人気ジャーナリスト、リン・バーバーの回想録を基に、「思春期の少女が遥か年上の男性に惹かれ、今まで全く知らなかった世界に足を踏み入れる」という極めて普遍的なテーマを、思わず息を呑む脚本に仕立ててみせたのは、『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』などのベストセラーを生み出したニック・ホーンビィ。そして監督を務めるのは『幸せになるためのイタリア語講座』のロネ・シェルフィグ。今回、舞台をデンマークから「夜明け前」の英国に移したシェルフィグは、衣装や小道具はもちろん当時流れていた空気をも、綿密な時代考証と選び抜いた音楽によって甦らせ、シクスティーズの狂騒を迎える直前の「退屈な」日々を確かな演出力でみずみずしく描き出します。ジェニーを未知の世界へと導くデイヴィッドが、単なる「ワルい大人」に成り下がらないのは、演じるピーター・サースガードが醸し出す、憎みきれない男性像にほかならず、さらに、校長役のエマ・トンプソンをはじめとする実力派俳優陣が脇を固め、この物語により一層の深みをもたらしているのです。

「読書」は苦手だけれど、オシャレ偏差値なら誰より高い、女ともだちのヘレンの上級者ファッションにも注目ですが、ジェニーがパリで着ている、まるで印象派の絵画のような柄のワンピースがなによりキュート!ナイトクラブのシーンでは、おめかしした二人はもちろん、ステージ上に歌手として登場するベス・ロウリーの歌声も聴き逃がせません。

まわりの心配を余所に「教育するなら、その意義も教えて下さい」「答えは用意しておくべきだわ。わたしのような生徒はまた現れるから。」と、啖呵を切って校長室を後にするジェニー。

部屋に寝転びジュリエット・グレコのレコードをかけながら憧れのフランスに想いを馳せていた少女が、わずか数カ月後には愛する人とともにパリを訪れることになるのだから、それまでの平凡な学生生活に意義を見いだせなくなるのは無理もありません。

目の前の享楽に身を任せた刹那的な日々が、そう長くは続かないことを知ったジェニーが、かつて反目し合った女教師の住まいを訪れ、本と絵葉書に囲まれただけのシンプルな室内を見渡し、「十分だわ」とつぶやく。この短いセリフこそが、真の「エデュケーション=教育」の意義を、わずかな期間で身をもって学んだ彼女の成長の足跡である、と捉えることが出来ます。

「あの頃に戻っても、私は私を止めたりしない。」

とはこの映画のキャッチコピーですが、本物の教養を身に付けた大人は、どんなに痛手を負った過去も、決して否定はしないもの。だって今の自分を支えているのは、間違いなく「あの頃の愚かな私」なのだから―。

本作のために書き下ろされた、ダフィーの切ないエンディングのナンバーが、劇中のジェニーの心境とぴったり重なって、じわりじわりと効いてくる。そんな、大人のための“エデュケーショナル”映画です。

『17歳の肖像』

2010年4月17日(土)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

出演:キャリー・マリガン、ピーター・サースガード、エマ・トンプソン、アルフレッド・モリーナ、ロザムンド・パイク、オリヴィア・ウィリアムズ、ドミニク・クーパー
監督:ロネ・シェルフィグ
脚本:ニック・ホーンビィ
製作:イギリス    
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
www.17-sai.jp