The world is my oyster #01 それぞれの場所を探して
〜映画『マジックユートピア』公開。

(2016.07.15)

エディター・池田美樹が、さまざまなカルチャー、アート、テクノロジー、イベント、フード、ワインなどから「伝えたい!」と感じたものを紹介する連載コラム。

ラストシーンは海。
『マジックユートピア』より。ラストシーンは海。ふたりが見つけたユートピアとは…。
 
映画という詩を紡ぐ。

熊本・八代出身の新進気鋭の映画監督・遠山昇司と、映像作家の丹修一。2人の監督によって綴られる映画「マジックユートピア」が渋谷・ユーロスペースにて2016年7月16日から上映開始となります。各日21:10〜のレイトショー。

登場人物は3名。幼いころに母親を亡くし、3つの名前を使い分けながら生きる少女・リサ。高校時代の友人マユミの死を引きずり続ける男・佐藤。そして、17年前に娘を亡くした一人暮らしの老人。リサが佐藤と出会い、突然身体が宙に浮き始める…というところから運命が交わり始め、孤独な3人の現在と過去、現実と非現実が錯綜します。そしてまだ見ぬユートピアへ…。

撮影の舞台は熊本と東京。でも、作品に地名が出てくるわけではなく、あくまでも映像のなかでそれはまるで見たことのない土地のように抽象性をもって描かれています。

作品は、2015年に第15回アンカレッジ国際映画祭コンペティション部門審査員特別賞、2016年には第49回ヒューストン国際映画祭コンペティション部門審査員特別賞を受賞するなど、いち早く海外で認められました。2016年3月26日に熊本のDenkikanで先行公開。その後、熊本地震が発生—。熊本でこの映画を見た人のなかに「なぜだかわからないけれど、涙が出てしまいました」と話すご婦人の姿もあったといいます。

映画を見せていただき、熊本から東京に戻ってきたばかりという遠山監督と話す機会がありました。話題は次第に映画を離れ、夭折した佐賀県有田町の歌人・笹井宏之の作品の浮遊感と視点の美しさや、お互いの故郷・熊本のまだ知られざる景色についてなど「このかたは、映画監督というより詩人なのではないか」と感じました。

九州中央山地の奥深くに点在する集落、熊本・五家荘を舞台にした短編映画『冬の蝶』を見てさらにその思いは強くなりました。

映画『マジックユートピア』より。
映画『マジックユートピア』より。
 
人生の小さな句読点。
短編映画『冬の蝶』より。
短編映画『冬の蝶』より。

私は映画について語る資格をもつほどの鑑賞者ではないのですが、長年、俳句を作り続けてきた経験から、作品の鑑賞は「違う視点の獲得」なのではないかと感じています。詩も映画もアートも、作者が世に放った瞬間に、鑑賞者の手に委ねられてしまう。つまり、読んだり、見たり、聞いたりしてどう感じるかは、100%、鑑賞者の自由なのです。ただ、人がその作品に触れた後には、その前とはちょっとだけ違う視点が生まれているのだと思う(し、そう信じたい)。

そうやってひとびとの生活に、小さな句読点を打つことができるのが、「作品」の存在する意味なのではないかと…。

そして制作者は、作品をつくることによって自らの生を紡いでいるという一面もあるのだと思います。

7月20日(水)、27日(水)、8月3日(水)の21:10〜からは、『冬の蝶』(2016)と、遠山監督初の長編フィクション作品である映画『NOT LONG,AT NIGHT-夜はながくない-』(2012)が上映されます。

夏の夜に、小さな句読点を打ちに出かけてみませんか。

短編映画『冬の蝶』より。
短編映画『冬の蝶』より。

映画「マジックユートピア」公式サイト
http://magic-utopia.com/
映画「冬の蝶」公式サイト
http://winters-butterfly.com/