聖なる一日に愛しい映画のプレゼント
『クリスマスのその夜に』

(2011.12.17)

ノルウェーの小さな町に訪れる、
あるクリスマスの夜の物語。

ヒューマントラストシネマ有楽町で現在公開中の、ベント・ハーメル監督最新作『クリスマスのその夜に』。

これまで『キッチン・ストーリー』『ホルテンさんのはじめての冒険』といった作品で、まじめに生きるひとたちの可笑しみと哀しみを描いてきたハーメル監督が今回テーマに選んだのは、ノルウェーの小さな町に訪れる、あるクリスマスの夜の物語。

クリスマスツリーを求めて外を歩く少年が銃で狙われる緊迫したシーンから始まる本作は、6つのエピソードが織り成す群像劇の形式で構成されている。

妻に家を追い出されたパウルは、子どもたちにプレゼントを渡したい一心からサンタの衣装でかつての我が家に忍び込み、年上の少女ビントゥに恋する少年トマスは、「イスラム教徒だからクリスマスのお祝いはしない」という彼女に合わせ、「自分もそうだ」と嘘をつく。ホームレスのヨルダンは何年ぶりかで故郷に帰るため、盗みにかかったトレーラーの持ち主と思いがけない再会を果たし、あたたかな食事とワインを差し出される。そして同時進行で描かれる、長年連れ添った妻の喪の作業を淡々と進めるひとりの老人の姿と、典型的な不倫カップルのちょっと怖い顛末、ワーカホリックの医者クヌートが取り上げる新たな命の物語。

北欧ならではのあたたかな光を生み出す間接照明と、木のぬくもりが感じられる暖色系のインテリア、そして思い思いの聖夜を演出するクリスマスのオーナメントが、雪の降り積もる街に住む人々の暮らしに彩りを添える。


イスラム教徒だからクリスマスのお祝いはしない、という少女に恋する少年。家族とのクリスマス・ディナーはさておき……。

小さなお話が、見事に交錯。

実は一見ランダムに映るこれら6つのエピソードの中には、人が生まれてから死ぬまでの間に体験する、折々の日常の場面が巧みに盛り込まれている。

さらには、家具を二階から降ろそうとして、階段の途中でつかえてまた引き返したり、ショウウインドに飾ってある洋服に合わせて自分の顔を写してみたり…と、誰もが思わずやってしまう何気ない行動を所々に散りばめることで、観客にリアリティと親近感を与えてくれるのだ。

決して特別な訳ではない普通の人たちが抱える悩みや苦しみ、そして歓びが、クリスマスのその夜に人生というひとつの大きな像を結び、やさしく降り注ぐオーロラをバックに流れてくるエンディング・ソング『Home for Chiristmas』(Maria Mena)の歌詞 “I wanna go home for Christmas , Let me go home this year…”へと集約されていく。

twitterで流れてくる誰かの日常の断片を横目に、「クリスマスなんて関係ない」と自分に言い聞かせているような人にこそ、この映画はささやかなプレゼントになるにちがいない。


クリスマス・イブの夜、それぞれのお話のドラマが静かに、たくさん重なっていく。冒頭のこのシーンの謎がラストに明かされる。

 

『クリスマスのその夜に』

監督・脚本・製作:ベント・ハーメル
原作:レヴィ・ヘンリクセン 
後援:ノルウェー王国大使館 配給:ロングライド
2010年 /ノルウェー=ドイツ=スウェーデン / ノルウェー語、英語、セルビア語 / シネマスコープ / ドルビーデジタル / R15 / 原題:Hjem til Jul / 英題:Home for Christmas / 日本語字幕:石田泰子
ヒューマントラストシネマ有楽町にて上映中
http://www.christmas-yoru.jp/


聖なる夜、みんな、メリー・クリスマス!