『イングマール・ベルイマン3大傑作選』 5年後は生誕100周年
ベルイマン監督作品に再会する。

(2013.07.30)

ヌーヴェルヴァーグの監督たち、ウディ・アレン、フランソワ・オゾン。名だたる映画人から大きくリスペクトされるイングマール・ベルイマン監督。特に1950年代に製作された『第七の封印』、『野いちご』、『処女の泉』の3作が現在公開中。配給を手がける ㈱マジックアワーの有吉さんに今、なぜベルイマンなのか? 書いていただきました。

なぜ今、ベルイマンか?

海外の映画を買い付けて配給する人間にとっては、その映画(あるいは監督)が好きだ、というのが何よりまず有りきです。そのあと、これは日本の観客に受け入れられるだろうか(つまりはヒットするだろうか)、ということを考えて、その映画を買うべきかどうか悩むわけです。

私にとってのベルイマン映画は、高校生の時にロードショーで観た『叫びとささやき』(’72)が最初ですが、40年たった今でもいくつかのシーンの記憶が鮮明に蘇るほど強烈な体験でした。それまで、ほとんど娯楽映画しか観ていなかった田舎の高校生にとって“芸術映画”とでもいうものの初めての洗礼だったわけです。

1年半ほど前、別の打ち合わせをしていたとき、ベルイマン映画の大半は日本での配給権が切れていて、且つスウェーデンで順次デジタルリマスターしていることを偶然知り、瞬時にやりたいと思ったのです。これは神の啓示だと(笑)。

その時点で全作品の半数位進んでいたリマスターの中で、円熟期の傑作『野いちご』(’57)と『処女の泉』(’59)の2本をやるということは直ぐに決めました。好みはさておき、初公開当時2年連続でキネ旬のベストワンを獲ったこの2作が、日本において最も知名度の高いベルイマン映画という確信がありました。


『野いちご』©1957 AB Svensk Filmindustri

資金的にもう1本大丈夫と考えた時、昨年がバーグマンの没後30周年だということに気づき、『秋のソナタ』(’78)を買ってその年のうちに公開しようと決めたのです。

バーグマンで話題作りをした上で、ベルイマンに向いてもらおう、という姑息な考えです(笑)。

『秋のソナタ』の公開は思ったほどうまくいきませんでした。しかし、私の中で上記2本に先立つ傑作との認識があった『第七の封印』(56’)を買い足して、ベルイマン特集の予告編も同時に作ったこともあり、一部のマスコミと興行者と観客はベルイマンを強く意識してくれました。

なぜ今、ベルイマン監督作品を観るべきなのか、という問いに対しての答えはありません。“映画”とは、私にとって“人間”と同義語なので、出会いが全てです。今、私はベルイマンと再会してしまったのです。

世界的にベルイマンを回顧するムーブメントは、5年後の生誕100周年の時のはずです。5年も先駆けて今この傑作3本を劇場で観られるなんて、日本は贅沢ですね(笑)。

『第七の封印』、『野いちご』、『処女の泉』
3大傑作といわれるワケ。

今回、『第七の封印』、『野いちご』、『処女の泉』を「ベルイマン3大傑作」と言ったのは私です。そう言い切って、豪華にも3大傑作を一気にやるのかと観客に思わせる戦術(笑)。でも、この3本であれば、誰からも大きな不満は出ないとは考えました。この3本によってベルイマンの世界的な知名度&評価が上がったのは紛れもない事実ですから。

50年以上前のほんの数年間に、全くタイプの違う恐るべき3本の傑作を撮ったベルイマンの才能は、世界的なレベルにおいても傑出したものでした。さらにその周辺10年間くらいの作品のクオリティの高さを考えると”ベルイマンの時代”と呼ばれたのは当然です。

トリビア〜ベルイマン? バーグマン? Bergman?〜

この記事の編集担当者に「イングマール・ベルイマン監督のアルファベット表記はIngmar Bergman。同じスウェーデン出身の世界的女優イングリッド・バーグマンのアルファベット表記はIngrid Bergmanで、Bergmanは同一なのに、それぞれベルイマン、バーグマンと日本語表記が異なるのはなぜ?」と聞かれました。お答えしましょう。

このふたりの苗字が同じ表記なのにその発音が異なるのは、たぶんバーグマンがアメリカで花開いた女優さんだからでしょう。もし彼女がスウェーデンで大女優になっていたとしたら、イングリッド・ベルイマンだったのだと思います。
色々な国の姓名の日本語表記ほど難しいものはありませんね。有名人の名前の場合、最初に誰かが決めて表記され、それが一般的になった場合、より正しいと思われる表記に途中で改めるのは大変に難しい。

因みに、今回出会ったスウェーデン人は、ベルイマンでもバーグマンでもなく「バリマン」と発音してましたね。それが100%正しいとしても、今更ふたりを「バリマン」と呼ぶことはできません(笑)。

『イングマール・ベルイマン3大傑作選』
配給会社は「マジックアワー」です。

『イングマール・ベルイマン3大傑作選』の配給は「マジックアワー」です。

社名の「マジックアワー」は、映画人なら誰でも知っている撮影用語から付けました。「マジックアワー」のみで撮影したと言われるテレンス・マリック監督の『天国の日々』(’78)が大好きだったからです。そのまま直訳すると、魔法の時間。なんて映画的な言葉。

三谷幸喜監督『ザ・マジックアワー』(’08)が公開された頃、弊社に次の上映時間は?という問い合わせが数件ありました(笑)。あの映画が社名の由来ですか?と聞かれることがありますが、弊社の設立のほうが早いのです。

再度言いますが、配給を手がけるのを決めるのは、まずは自分がその映画が好きかどうか、です。1本の作品を世に出していくためには、どうしても数百万円以上のお金がかかってしまいます。好きだと思えなければ、そんなリスキーなことに関われません。

そのリスキーなビジネスを、ほとんど個人の力で20年以上にも渡って続けて来ている「ザジフィルムズ」、「セテラ・インターナショナル」、「クレストインターナショナル」の3社の仕事がお手本です。

*マジックアワー 日没直後の数分間訪れる、魔法のように美しい映像を撮ることができると言われる時間。
●●● ㈱マジックアワー 会社概要 ●●●

2001年設立。’05年 プロデューサーとして参加した日本映画『誰がために』から配給・宣伝 業務スタート。これまでの主な配給作品 クリスティアン・ムンジウ監督『汚れなき祈り』(’12)、アスガー・ファルハディ監督『別離』(’11)、マチュー・アマルリック監督『さすらいの女神たち』(’10)、グザヴィエ・ボーヴォワ監督『神々と男たち』(“10)、ケン・ローチ監督『エリックを探して』(’09)

㈱マジックアワー

『イングマール・ベルイマン3大傑作選』
ユーロスペースにて公開中 4週間限定連日3作品上映 全国順次公開

後援:スウェーデン大使館 
協力:コムストック・グループ 
配給・宣伝:マジックアワー
スウェーデン / モノクロ / デジタル / スタンダード / モノラル
翻訳:桜井文

ユーロスペース タイムテーブル
7月27日(土)~8月2日(金)
11:00『野いちご』 / 13:00『処女の泉』 / 15:00『第七の封印』 / 17:00『野いちご』 / 19:00『処女の泉』 *7月30日(火)19:00の回は休映
8月3日(土)~9日(金)
11:00『処女の泉』 / 13:00『第七の封印』 / 15:00『野いちご』 / 17:00『処女の泉』 / 19:00『第七の封印』
8月10日(土)~16日(金)
11:00『野いちご』 / 13:00『処女の泉』 / 15:00『第七の封印』 / 17:00『野いちご』/19:00『処女の泉』

『第七の封印』

出演:マックス・フォン・シドー、グンナー・ビョーンストランド、ニルス・ポッペ
監督・脚本:イングマール・ベルイマン 
撮影:グンナール・フィッシェル
上映時間:97分
©1957 AB SVENSK FILMINDUSTRI
第10回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞


『野いちご』

出演:ヴィクトル・シェーストレム、グンナー・ビョーンストランド、イングリッド・チューリン
監督・脚本:イングマール・ベルイマン 
撮影:グンナール・フィッシェル
上映時間:91分
©1957 AB Svensk Filmindustri
第8回ベルリン国際映画祭 金熊賞
1962年度キネマ旬報 外国語映画ベスト・テン第1位

『処女の泉』

出演:マックス・フォン・シドー、ビルギッタ・ヴァルベルイ、ビルギッタ・ペテルソン
監督:イングマール・ベルイマン 
脚本:ウッラ・イーサクソン 
撮影:スヴェン・ニクヴィスト
上映時間:89分
©1960 AB Svensk Filmindustri
第33回アカデミー賞 外国語映画賞
第17回ゴールデン・グローブ賞 外国語映画賞
1961年度キネマ旬報 外国語映画ベスト・テン第1位