今、世界が最も注目する才能、ファティ・アキン監督『そして、私たちは愛に帰る』

(2008.12.27)

ドイツとトルコ、2000キロに渡ってすれ違う3組の親子が、愛する者の死を乗り越えて生きる希望を見出すまでを描いた名作。大学講師の息子と、息子を男手ひとつで育てあげ余生を娼婦と過ごす父。トルコからドイツに出稼ぎし娘のために娼婦となった母と、反政府活動家としてトルコを追われた娘。友を救うためイスタンブールに旅立つ娘と、彼女の身を案じながらも愛情を示せない母。この3組の親子が運命に導かれるままめぐり合い、別れ、そしてつながってゆく。「喪失」を経た彼らが、人を憎むのではなく、許し、受けいれ愛することを選ぶ姿に深い感動をおぼえるでしょう。
監督・脚本のファティ・アキンは、トルコ系移民2世として’73年ハンブルクに生まれ、『愛より強く』(04)でベルリン映画祭金熊賞を受賞した若き俊英。巧みな構成力とストーリー展開のすばらしさはカンヌを圧倒し、2007年カンヌ国際映画祭最優秀脚本賞を見事受賞し、いま世界が最も注目する才能のひとりです。

私が特に好きなのは、ラスト近く、イスラム教のお祭り「犠牲祭」にまつわる小さい頃の想い出を話しながら、どんなに父親が自分のことを愛してくれていたか、愛情を注いで育ててくれたか、息子が初めて気づくシーンです。親と子という関係だけでなく、ドイツとトルコ、イスラム教とキリスト教といったそれぞれ別の個性をもつふたつの人(国)が憎み合うのではなく分かり合おうとする姿勢が描かれていて、
じわじわとあふれ出る「希望」に、心がじーんとあたたかくなります。
(ビターズ・エンド 大島美樹)
 

『そして、私たちは愛に帰る』
12月27日(土)よりシネスイッチ銀座 ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ファティ・アキン 
撮影:ライナー・クラウスマン 音楽:シャンテル 
出演:バーキ・ダヴラク、ハンナ・シグラ、トゥンジェル・クルティズ
後援:トルコ大使館、ドイツ連邦共和国
提供:ビターズ・エンド、ポニーキャニオン  
配給:ビターズ・エンド
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