『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』 デンマークから世界へ
N・アーセル監督 インタビュー

(2013.04.18)

18世紀デンマーク王室を舞台に、国王クリスチャン7世と王妃カロリーヌ、そして待医ストルーエンセの三角関係、政治的陰謀を描いた映画。デンマークでは7ヶ月にわたるロングランヒットを記録、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされました。デンマーク国民なら知らぬ者はいないという歴史的な実話を映画化したニコライ・アーセル監督にお話をうかがいました。

●ニコライ・アーセル監督

Nikolaj Arcel 1972年、コペンハーゲン生まれ。ナショナル・フィルム・オブ・デンマーク卒業。長編デビュー作品『KING’S GAME』( ’04)がデンマーク国民の5人にひとりが見たといわれる大ヒット、国内の数々の賞を受賞、イタリア ヴィアレッジョ・ヨーロッパ映画祭では共作のラスマス・ヘイスターバーグとともに脚本賞を獲得。’09年、同じくヘイスターバーグとの共同脚本『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(ニールス・アルデン・オプレヴ監督)が大ヒット、世界的に注目を浴びる。続いて『TRUSH ABOUT MEN』(’10)、本作『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』も脚本共作、次作はドン・ウィンズロウの長編小説『犬の力』。アーセル監督はA・ヒッチコック監督の『レベッカ』のリメイクも手がける予定。本作ではベルリン国際映画祭で脚本賞、男優賞(ミケル・ボー・フォルスガード)を受賞した。

●『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』ストーリー

18世紀後半、精神を病んだデンマーク国王クリスチャン7世(ミケル・ボー・フォルスガード)の侍医となったドイツ人医師ストルーエンセ(マッツ・ミケルセン)。王の唯一の理解者であり、親友となる一方で彼は、孤独な王妃カロリーネ(アリシア・ヴィカンダー)をも虜にし、禁断の恋に落ちる。啓蒙思想を信奉する彼は、やがて国王の言動を操り、事実上の摂政として数々の改革を推し進めていくが、不満を募らせた保守派貴族たちは密かに政変を起こそうと画策していた………。欲望渦巻く宮廷の権力争いの行方、そして侍医と王妃の許されざる愛の結末は?

世界に紹介された
デンマークの知られざる歴史。

ー18世紀後半、デンマーク国王クリスチャン7世とカロリーヌ王妃、待医ストルーエンセが繰り広げた恋愛談はデンマークではよく知られたお話だそうですね。このお話の映画化はデンマーク国民の悲願ともいわれていたとも。どうしてそれほどデンマークの人々の心をとらえたのでしょう?

N. アーセル監督:この物語は日本をはじめ世界の国々ではそれほど知られている話ではないと思うのですが、デンマークでは学校で教えられるほどで、知らぬものはいない。これまでオペラ、書籍、バレエなどの作品化がなされて きましたが、やはりそれを映画として見たい、というのはみんなが願っていたことでしょう。その事実はみんなが知っていますが、この裏にはどんな真実の物語があったのか、私はそれを見せたいと思いましたし、みなもそれを見たかったのでしょう。


1768年、ドイツのデンマーク領に暮す医師 ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセ(マッツ・ミケルセン)はデンマーク国王クリスチャン7世(ミケル・ボー・フォルスガード)の侍医となる。

クリスチャン7世とカロリーヌ王妃、待医ストルーエンセ
デンマーク民主主義の礎を作った3人。

ー皆が知っているこのストーリーの、特にどのようなところが監督は面白いと思われたのでしょう? 

N. アーセル監督:私が一番興味をひかれたのは政治です。このクリスチャン7世、カロリーヌ王妃、ストルーエンセの 3人はいわば現代のデンマーク民主主義の礎を作ったともいえる人物です。彼らが政治的に成し遂げたことを描きたいと考えました。3人はある種の革命家であるともいえます。それは外部からの変革ではなく、王室や政治中枢の内部からの変革でした。

それが映画化のいちばん大きな動機ですが、製作を進めていくうちに3人のキャラクターに惚れ込みました。それぞれがユニークで個性的。その3人がたまたま出会って惹かれるようになる、彼らの関係と政治とのミックスが面白いと感じたのです。


匿名で啓蒙思想の本を出していた進歩的な考えの持ち主のストルーエンセ。演じるマッツ・ミケルセン(右)はデンマークの国民的俳優で『偽りなき者』ではカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。

撮影風景より。ニコライ・アーセル監督(左)は『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の脚本で注目された。共同脚本のラスマス・ヘイスターバーグともに本作の脚本も手がけた。

ーこの3人の関係がたいへん興味深かったです。いわゆる三角関係で、女性ひとりに対して男性2人の関係。しかし中心になっているのは女性ではなく男性のストルーエンセです。国王は彼を父、あるいは兄のように慕い、王妃は彼に恋をする。ストルーエンセがふたりにとって精神的支柱になっているような三角関係です。この関係について監督はどのように感じますか?

N. アーセル監督:王宮では病んでいるとされる国王のもとに、非常に現代的な考えを持った医者ストルーエンセがやって来る。ストルーエンセはストレートに国王の聡明さ、繊細さを理解しました、そこに生まれた友情は本当のものであったわけです。そこが単なるラブ・アフェアーの三角関係とは違うところでしょう。

また国王が王妃を愛していたのかといえば、それはちがって愛ではなかったと思います。だからストルーエンセとカロリーヌ王妃が愛しあうようになっても、国王はある意味彼らを許しています。しかしラストに国王は恐ろしい行動をとることになります。これは国王の王妃に対する愛が原因ではなく、ストルーエンセに嘘をつかれたという国王の怒りからだと私は思います。

3人の織りなす愛憎関係というよりは、(3人の間には)小さなファミリーのような絆ができていた、それがあることをきっかけに壊れていってしまった物語である、と考えています。

12歳で映画監督デビュー!?
スーパー8片手に家族総出演アクション映画を。

ー監督がこれまで手がけて来られた作品を見てみると、’02年の『キッズ・ミッション』は子供向け、 ’04年の『キングスゲーム』はポリティカル・スリラー。’09年『スルー・ザ・バッドマン』はコメディ、そして大ヒットとなった『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(脚本)と、非常に多岐に渡るジャンルの作品を手がけられることが特徴のように思えます。監督には全ジャンルを制覇したいというような願望があるのでしょうか?

N. アーセル監督:映画を作ることが大好きです。ある時、自分は映画作りのキャリアに置いていったい何をしたいのかと自問したことがありました、その時に思ったことは、毎回ちがうことをしていたいということです。

私はよい映画を作るのに必要なのは好奇心だと思うのです。毎日新しいジャンルに挑戦するということは、毎回新人監督が第一回作品を作る時のようにイノセンス(純粋な心)と好奇心を持って臨めるということです、とても美しいことだと思うのです。

***

ーイノセンスと好奇心というのが監督の映画作りのキーワードかもしれませんね。そもそも映画監督を志したワケは? どんな映画を見て監督になりたい、と思ったのでしょう?

N. アーセル監督:子供の頃、8~9歳ですけど、映画が大好きで、よく観ていました。でも10歳の時に見た『E.T.』(’82)はパワフルで衝撃的でした。「こんなに泣いて、感動できる映画ってどうやって作るんだろう? あのクリーチャー(E.T.)はどうやって動いているんだろう?」と初めて作り手の側に興味を持つきっかけを作ってくれた映画でした。その様子を見た父が、12歳の時に8ミリカメラをプレゼントしてくれたんです。そこから一家総動員で映画作りが始まりました(笑)。

ー家族総出演の映画とは面白そうです(笑)。どのような作品を撮っていたのでしょうか?

N. アーセル監督:だいたいが追跡ものでしたね(笑)。父が車を運転していると、なぜか殺人鬼に追われるとか、ギャングが追ってくるとか、アクションものなんですね。あまり出来はよくなかったのですが、作るのは楽しかったですよ(笑)。

エンターテインメントから
リアルを追求する映画作りへ。

ー12歳にしてアクション映画監督デビューを遂げていたとは(笑)。アクションやサスペンスは、観客を楽しませる非常に重要な要素となりえますが、監督は現在でも観客をエンターテインさせる、楽しませる、ということを念頭に考えますか。

N. アーセル監督:確かに10年前はエンターテインメントということを強く意識していました。しかし脚本家、監督としてちょっと成長した現在では、真実を模索する、ということに魅了されています。何がリアルか? ということを探しながら映画を作っています。とはいっても映画はエキサイティングで人を楽しませるものであるべき、という考えは変わりません。

ー真実の模索という意味で今、アーセル監督が好きな作品や、映画作りにおいて尊敬する監督は?

N. アーセル監督:今はデンマークだけでなく世界の映画作品に触れる機会がとても多くなってきて、好きな作品というともう100作品くらいになってしまいます(笑)、だから作品名や監督名を具体的にあげることはできないですよ。

最近見た映画で心を打たれたものはミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』。ハネケ監督のこれまでの作品は、私にとってはちょっと暗すぎるものが多かったのですが、今回の作品は年をとっていくことを描いた非常に美しい作品でした。

これまで私は原作の小説があるもの、歴史的事実を脚色して映画を作ってきましたが、いつかは原作から手がけるオリジナル・ストーリーの作品をと思ってます。


英国王ジョージ3世の妹で、15歳でクリスチャン7世に嫁いだカロリーネ王妃。ストルーエンセとの道ならぬ恋に落ちることに。演じるのはスウェーデン出身のアリシア・ヴィカンダー。『アンナ・カレーニナ』(ジョー・ライト監督)のキティ役も記憶に新しい。

撮影風景より。アリシア・ヴィカンダーはスウェーデン出身。本作のためにデンマーク語を猛練習。アリシアは元々バレリーナを目指してクラシック・バレエを学んでいた。2011 シューティングスターズを受賞。
『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』

2013年4月27日(土)Bunkamuraル・シネマほか、全国順次公開
出演:マッツ・ミケルセン、アリシア・ヴィカンダー、ミケル・ボー・フォルスガード
監督・脚本:ニコライ・アーセル 
脚本:ラスマス・ヘイスターバーグ
編集:ミケル・E・G・ニールセン、カスパー・レイク
衣装デザイン:マノン・ラスムッセン
美術:ニールス・セイエ
制作総指揮:ラース・フォン・トリアー、トリーヌ・ディルホム、デヴィッド・デンシック 

製作:ルイーズ・ヴェス、シセ・グラム・ヨルゲンセン、ミタ・ルイーズ・フォルディガー
音楽:ガブリエル・ヤレド、シリル・オフォール 
英題:A Royal Affair
日本語字幕:古田由紀子

2012年 / デンマーク映画 / デンマーク語 / 137分 / シネマスコープ / デジタル5.1ch  / R-12

後援:デンマーク大使館、スカンジナビア政府観光局 
提供:ニューセレクト 
配給:アルバトロス・フィルム