2010年カンヌ国際映画祭、その変わらぬエスプリを「活写」で感じとりました。

(2010.05.28)

リアルタイムに報道され、コンペの結果も発表されたカンヌ映画祭。そのエスプリは、勝ち負けだけにあるわけもなく、フランスが誇る美意識に裏打ちされて、誰をも感動させるストーリーが読みとれます。

毎回、意表を突く審査結果が、いかにもカンヌらしいと定評もある世界一エレガントで芸術的な映画祭が、カンヌ国際映画祭です。

世界一エレガントで芸術的な映画祭、カンヌ映画祭。photo / Masami kato

今回は、ティム・バートン監督が審査委員長ですから、パルムドールを獲得したタ
イの監督作品の受賞も納得ずくという感じでしょうか。

『Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives』(英題)で、みごと栄冠をゲットしたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督は、今思えば『トロピカル・マラディ』と言う作品でも、虎に変化してしまう男を登場させていましたから、文学の名作『変身』で知られるカフカのような芸術家なのかもしれないし、私もその作品を観て、とても印象深かったのを思い出したところです。数々のファンタジックな作品を手がけ、かねてよりカンヌ映画祭から注目されていた監督です。この作品でも、すでに2004年にカンヌ国際映画祭審査員賞を賛否両論の中、受賞しています。

『ブンミおじさん』のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督。photo / Yuma matsukawa

受賞後、日本では、すでに『ブンミおじさん』と呼ばれるこの作品は、
「とにかく幻想的と言うべきか、不思議な映画で、腎臓病を患い余命いくばくもない男の元へ、妻や息子の幽霊が現れて看病し、男は彼らを洞窟に連れていき、そこで人生を終える。雪男みたいな目の光る動物が、洞窟に住んでいて、その動物達が見守るのです。『スクリーン』や『フィルム・フランセ』での批評は低得点でしたが、ティム・バートンの好きそうな映画がなかった今年のコンペの中で、一番彼好みなのでは?とは受賞が決まるまでは、単なる噂話だったのですが、それが冗談ではなく本当になりました。でも、そういうティムが、ますます好きになりそう」

と、我が巴里映画から毎年参加しているマダム・カト―からも、リアルなレポートが寄せられ、私も多いに同感です。

だって、ティムの最初の作品、『ビートル・ジュース』を思い出せば、誰もが最初の頃は自由闊達に映画を作り情熱をぶつけることが出来るが、カンヌの審査員ともなる頃には、『アリス・イン・ワンダーランド』のような、観た人誰もが、わかり万人に受ける映画を作らねばならない宿命にあるのですから、難解、変と言われているうちが華とも言えそう。もちろん、最大の誉め言葉です。また、そう言う作品に光を与えるのがカンヌ映画祭なのだし、さすがはティム監督です。日本では少なくともいずれかの映画祭で観ることが出来るでしょう。楽しみです。

そう言う私、髙野はと言うと、今回は1月に出版していただいたココ・シャネルの本の続編の執筆を7月に控え、参加は断念。もうひと方、ジャーナリスト参加を果たした我がチーム、マドモアゼル・理恵からの情報もデイリーに知り得て、東京に居ながらにしてのカンヌ映画祭を充分に味わっていました。

思えば、昨年のカンヌ映画祭のクロージングを飾ったのが、『シャネル&ストラヴィンスキー』。この作品の登場に啓発され、私はココ・シャネルに改めて興味を持ち、彼女の生きざまを言葉によって明らかにしていくエッセイ集を書くことになったわけでした。映画が与える影響力は相も変わらず大きいものです。

で、今年のカンヌのスタートの『ロビン・フッド』。理恵嬢からの情報で一番納得、同感したのは、ここんところ。

「イギリス出身のリドリー・スコット監督に、ニュージーランド出身のラッセル・クロウ。そしてヒロインはオーストラリア出身のケイト・ブランシェット。何?! この“英国連邦”が仲良く手を取り合ったような顔ぶれは……。しかも劇中ではフランス人が敵役として描かれる。さすが世界の映画の祭典、カンヌ国際映画祭!この映画を華やかなオープニング作品に選ぶとは。その懐の深さに恐れ入りました」

悪役を引き受けることが、懐の広さに感じさせるフランスとは、自嘲気味だったり、自虐的だったり、独特のスノビズムだったりと、大人の持つ美意識が見え隠れする存在。それをアピールするかのような『ロビン・フッド』という作品もまた、カンヌ好みであり、オープニングを飾るにふさわしい最高の作品だというわけなんです。しかし、『グラディエイター』返り咲きですか。写真を見る限りでは、まんま、ですね。共演したケイト・ブランシェットとのツー・ショットで二人ともサングラスをかけていますが、ホント、カンヌではサングラスはサマになります。

『グラディエイター』? 『ロビンフッド』です。
photo / cannes international film festival press
ケイト・ブランシェットとラッセル・クロウ。
photo / cannes international film festival press

そんな幕開けで展開した今年のカンヌ映画祭、我が邦の北野監督へのフランス映画界のリスペクトは留まるところを知らずで。

また、ここ数年来のカンヌで流される血糊の量は並大抵のものでなく、目を覆うシーンも、芸術なんだから気にすることはないとばかりに、エスカレートしていました。そこで、今回の北野監督作品、『アウトレージ』も、

「暴力シーン満載で、歯医者とか箸とか使って……。だから、目を覆うこと多々。」

という我がマダムからのニュースを聞くにつけ、カンヌで大暴れした北野監督だったのだなと、手に取るように分かりました。

パレと呼ばれる会場で、千人単位の観客を喜ばせる、驚かせる、嫌悪させることの喜びを一本の作品が自由自在にできること、これこそが映画作りの最高の喜びです。賞を取ることだけを計算高く作るものではない。そんなふうな、北野監督のエスプリが感じられ、カッコいい。かなり写りが悪いのですが、大接近で撮った生写真の面構えからもそんな自信が漂います。

自信が漂う北野監督。 photo / Masami kato

さて、開催中に栄光のレッド・カーペットを踏みしめ輝く女優たちは、数知れず、今年は映画祭ポスターをはじめとする、イメージ・ビジュアルのミューズとなり、最初から最後まで、アイコン的存在となったジュリエット・ビノッシュ(写真⑥)をはじめ、クロージング作品と共にクロージング・セレモニ―に登場したシャルロット・ゲンズブール、審査員としてのケイト・ベッキンセール、オープニングを飾ったケイト・ブランシェット、他にもメラニー・ティエリー、サルマ・ハエック、ショート・フィルム出品も果たした、キルスティン・ダンスト(写真⑦)、ミシェル・ヨー、ナオミ・ワッツ……(敬称略、順不同!)と、まだまだ数え切れないほどです。まあ、そのあでやかなこと。華やかさでも世界一を誇るカンヌの面目躍如たるところです。

ジュリエット・ビノッシュ。photo / cannes international film festival press
キルスティン・ダンスト。photo / Masami kato
『ロビン・フッド』で存在感を見せたレア・セイドゥ。photo / cannes international film festival press

その中で、旬と言えば旬なのは、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』に端役で出ていたレア・セドゥ。『ロビン・フッド』では、暴君ジョン王の妻イザベラを演じ、美人ではないが人を魅惑するほどの抗しがたい強さと存在感があり、批評家週間の“BELLE EPINE”では早くも主演女優として活躍していました。マドモアゼル理恵情報によれば、

「彼女、フランスの大手映画会社パテの会長の孫娘で、大叔父は同じくゴーモン社の社長という、女優になるために生を受けたかのようなお嬢様だということです」
 
注目していきたいですね。

気になる女優たちが出演しているものは、どれもすべて観たいわけですが、観きれないのもカンヌ映画祭。監督週間の作品『Lily  Sometimes/英題』は、ダイアン・クルーガーとリュデュヴィーヌ・サニエが姉妹役。

これから仕上がる作品と言うものもカンヌ映画祭ではマーケット部門で情報を得ることが出来、フランソワ・オゾン監督の制作中の作品、『Potiche/原題』ではカトリーヌ・ドヌーブが工場のオーナー夫人となって組合のストライキと戦うコメディだというから面白そう。ドヌーブの装いが裕福なマダムなだけに、見どころのようです。

これからの新作については、売り手のブースで情報をいただき、記念写真までも活写してしまうマダム・カト―。

仲良しのニュージーランド・フィルムの男子と2ショットです。

マダム・カト―とニュージーランド・フィルムの男子。photo / Masami kato

今年もカンヌにフューチャーされ、クロージング・セレモニーの上映作品、『The Tree』(英題)に出演し、受賞のプレゼンターとしても招かれたかたちのシャルロット・ゲンズブール。昨年はラース・フォン・トリアー監督作品『アンチ・クリスト』での“熱演“が認められ、栄えある最優秀女優賞に輝いたけれど、(未だ日本でも公開が実っていず、残念です)今年は戦うことなく優雅なる登壇。結果、ジュリエット・ビノシュが同賞獲得となって、久々の二年連続のフランス女優の栄誉獲得を実現させたわけです。

シャルロット・ゲンズブール。photo / Yuma matsukawa

受賞関係者として注目の星は、才能も多面的、男盛りで才能盛りのマチュー・アマルリック。『On Tour』(英題)で、とうとう、カンヌの監督賞を獲得です。多くの監督たちを前にかっさらった感じです。トレビアンです。

「マチューが主演・監督を成しとげた、ショー・ガールの興行師の話。生マチュー至近距離でゲットです。40歳になって、すべてを捨ててストリップ・ショーに賭けアメリカに渡り、巴里凱旋ツアーを夢見て奮闘する男の物語。
 ストリッパーたちの芸はすごいものがありましたが、皆ふくよかなおばさんストリッパーたちばかりで……」

と、いう報告と共に活写が髙野に送られて来たのでした。
若い女じゃないところが、哀愁があって、いいじゃないですか。
なんて感じで写真を見たら、
な、なんとその写真は栄光を手にしたマチューではなく、“オバ・ショー・ガール”達のレッド・カーペット登壇の晴れ姿でした!

マチュー・アマルリックのオバたち入場。photo / Masami kato

男優賞のハビエル・バルデム。いつも注目していたい男。『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作、『ビューティフル』で、多面的で、目の離せない演技力を発揮したとのこと。実はもうひと方、『アワー・ライフ』のエリオ・ジェルマノも、同時受賞なのですが、すみません、あくまで好みでハビエルと監督だけを生撮りです。監督もいい男で、撮影中の姿がカッコいいんです。

『ビューティフル』のハビエル・バルデム。photo / Masami kato

いよいよ真打ち登場です。ジュリエット・ビノッシュ。まあ、今回の映画祭のアイコンにもなっている以上、また、キアロスタミ監督作品に出演となれば、予想のとおりと申せましょうか。思えば、昨年のフランス映画祭で団長として、日本を訪れた彼女が、その後日本に滞在し、ダンス・パフォーマンスの舞台を公演。その際にドローイング展をも開催しました。その時の描く様子をそのままリスペクトしたかのような、今年のカンヌのアイコン的ビジュアル。もう、それだけで今年のカンヌは彼女のもの、決まりではないですか。

この作品のプレスにも載せられた「映画監督というものは、女の中に隠れている、もう一人の女を暴きだすのよ。カメラを使ってね」というようなビノッシュの言葉が活かされた、この作品は、「1日の情事」が、胸を打つテーマであるのだとか。例えば、それはアラン・レネ監督の『去年マリエンバード』での幻想的な男女の愛とは全く違うものであり、リアルな女の姿が描かれているのです。彼女のアップ多用が特徴的。イランの監督がトスカーナを舞台にフランスの大女優を主演に撮った映画、まさに国際的であります。

ジュリエット・ビノシュ。 photo / Yuma matsukawa
素顔のジュリエット・ビノシュ。photo / Masami kato

彼女の晴れ姿は、すでに各媒体で報道されましたが、大女優たる堂々の貫録。ここではまたまた、オリジナルの活写、生写真をご紹介しましょう。飾らない、言わば彼女のもう一つの顔を無礼講で活写させてくれる懐の広さ、カンヌ映画祭のエスプリは、始まりから終わりまで変わらない。やはりこの映画祭の、他には真似のできないエレガントだけでは済まされない大人のスマートさが、このへんなのです。

だからこそ、一度でも行けばまた、必ず行きたくなるのもこの映画祭。カンヌ映画祭は最高です。

さて、ここでご紹介した、2010年のカンヌ国際映画祭で輝いた女優たちのお話を、よりくわしくライブでお伝えするセミナーもあります。髙野プロフィール欄にてお知らせいたします。ふるってご参加くださいませ。