『ジミーとジョルジュ』『毛皮のヴィーナス』M・アマルリック出演2作。
(2015.01.22)複雑怪奇な人間の心理の奥深くに
分け入る人物像。
『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』、『毛皮のヴィーナス』と出演作が続けて公開中のマチュー・アマルリック。いずれの作品でも複雑怪奇な人間の心理の奥深くまで分け入る冒険的な人物を演じています。
『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』は、アルノー・デプレシャン監督の最新作。マチュー・アマルリックの鮮烈な登場を印象をづけたデプレシャン監督『そして僕は恋をする』(96)から実に20年、デプレシャン作品への出演は5作品目。ベニチオ・デル・トロ演じる心に傷を負ったネイティブ・アメリカン系帰還兵ジミーの精神を解き明かしていく民族学者にして医師であるジョルジュを演じています。
ジミーの話を細かく聞きながらメモをとり分析、その得体のしれない頭痛と連夜の悪夢の原因を解き明かしていくのですが、おぼつかない記憶を手繰り寄せながら訥々と語るジミーの悶々とした表情と対照的に飄々、軽妙なジョルジュがユニーク。
手の甲にお金を乗せ落とさないようにしながら紙の鍵盤でのピアノのお稽古をし、はたまたお湯を張ったウォッシュボウルに足を浸しながら執筆に勤しんだり。一風変わっているけど、実にチャーミングな人物像を披露しています。
アルノー・デプレシャン特集上映で
辿る輝跡。
『毛皮のヴィーナス』はマゾヒズムの語源ともなった作家ザッヘル=マゾッホの原作『毛皮を着たヴィーナス』からモチーフを得たデヴィッド・アイヴスの戯曲の映画化。『毛皮を着たヴィーナス』の演出を手がける舞台演出家 トマとそのオーディションに現れた女性 ワンダの会話劇です。『テス』(79)、『戦場のピアニスト』(02)のロマン・ポランスキー監督最新作で、その愛妻にしてミューズ エマニュエル・セニエを稀代の妖婦 ワンダ役に配しました。マチューはそのオーディション中に自らの精神の迷宮に入り込んでしまう舞台演出家トマを演じています。
マゾッホ原作の『毛皮を着たヴィーナス』の主人公ワンダ役のオーディション終了後のステージで物語は進行していきます。自称女優のヴァンダに押し切られ、トマは仕方なく追加オーディションをすることになるのですが、やってみるとこのワンダがはまり役。セリフは完璧。読み合わせにトマも付き合うのですが、ちょっとした合間に覗かせる役に対する理解も深い。なぜかトマ自身へも深い理解も示し、トマはその妖しい魅力に堕ちていきます。
読み合わせで、毛皮を来たヴィーナス=ワンダ に心酔していくクシェムスキー博士のセリフを読むトマ。クシェムスキー博士が毛皮にまつわる幼い頃の記憶を語るセリフを口にするうち、虚構と現実の境界があやふやになり、トマの舞台が現実の中に溶けていく……「毛皮」を手にした瞬間のトマの表情が見ものです。
これまでにデプレシャン作品では傷ついた魂を持った人物を多く演じてきたマチュー・アマルリック。22日(木)からは『アンスティチュ・フランセ』でアルノー・デプレシャン特集上映もあり、スクリーンでお目見えの機会も多くなっています。また『さすらいの女神たち』に続く自身の監督・主演作『La chambre bleue』(14)の公開も期待されます。フランス映画界きっての作り手の軌跡と現在をぜひこの機会に確認してみて。
『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』
シアター・イメージフォーラム 他全国順次公開中
出演:ベニチオ・デル・トロ、マチュー・アマルリック、ジーナ・マッキー
監督・脚本:アルノー・デプレシャン
音楽:ハワード・ショア
共同脚本:ジュリー・ベール、ケント・ジョーンズ
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
編集:ローランス・ブリオー
原題:JIMMY P. : PSYCHOTHERAPY OF A PLAINS INDIAN
2013年 / フランス / カラー / DCP / 117分
提供:コムストック・グループ
配給:コピアポア・フィルム
© 2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio
『毛皮のヴィーナス』
Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ他全国公開中
出演:エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
2013年 / フランス、ポーランド / シネマスコープ / 5.1ch / 96分 / G /
原題:VENUS IN FUR
字幕翻訳:松浦美奈
提供:ショウゲート、ニューセレクト 配給:ショウゲート
© 2013 R.P. PRODUCTIONS – MONOLITH FILM