『フランス映画祭 2010』 団長ジェーン・バーキンに、最新のフランス映画魂と近況を語ってもらいました。

(2010.04.01)

今年のフランス映画祭からいただいた、1本、1本からの幸せ。
フランス映画にこだわるフランス魂のほどを、来日した映画人たちに、インタビューで、うかがいました。2回シリーズでお伝えします。

 

今年のフランス映画祭の団長でもあった、ジェーン・バーキン。もちろんイギリス人なのですが、フランス人以上に、フランスとフランス文化を愛する、何歳になっても私たちにとってはパリジェンヌとしてのアイコンでいて欲しい、素敵な人。

どう考えても、あの着こなしは、フランス流ですからねー。あるがままの歳の重ね方も、そう。今回フランス映画祭でご披露くださった新作は『テルマ、ルイーズとシャンタル(原題)』。ブノワ・ぺトレという若手監督からのオファーに応え、アラ・フィフ世代の女性の生き方をコメディ・タッチで演じて、映画祭でも人気となりました。

この映画祭おなじみの上映後のトークショーはもちろん、そのあとのサイン会にも、ごくごく平易で対応する、その彼女のフランクさが、日本のファン層をますます広げていくというのも、カリスマとしての所以でしょう。

作品の中でもこのヘアスタイルだが、お嬢さんたちには不人気だそう。誰にも真似できないカッコよさで、そこにあこがれる日本のファンは多いというのに。

インタビューでも、癒し系どころか、脱力系というほどのその気どりのないファッションと物腰、どんな時もリラックスして楽しんでいるような、余裕のあるスタンスがこちらの緊張感を緩めてくれて、感謝、感謝という感じ。実はとても私たちに、気を遣ってくれているのです。このへんで気づくことは、結局はサービス精神旺盛の大人の女なのだということ。

お気に入りのいでたちは、Tシャツの重ね着。日本メイドを二枚重ねて着ていて、スーチー女史解放バッジをつけているのですが、一枚脱いでも大丈夫なように、下のシャツにも、「ほら、バッジがついてるのね」
と、自慢げに見せながら、少女のように笑いかけるところがチャーミングそのもの。

『テルマ、ルイーズとシャンタル』という映画は、監督のお母さんと、その女友達たちがモデルとなった、もう若くはない女性たち三人のロード・ムービーで、
「リドリー・スコット監督のあの、『テルマ&ルイーズ』へのオマージュでも何でもない」とは、監督の弁。(バーキンの前に、お会いしておき、この監督にも、お話を聞きました)

「ただ、あの作品は、ロード・ムービーの草分け的作品なわけですから、今回の作品がロード・ムービーであることが一目瞭然であることを伝えるためには、あえてこのタイトルにこだわった」
のだそうです。

監督の母もそうであったように、離婚しても、再婚相手が見つかるわけでもない年齢に達し、女性としての自分に自信が持てなくなってしまっていたり、結婚は続けているが、不満だらけ、自己嫌悪にもさいなまれ、希望が持てない毎日を怠惰に続けているなど、未だに自分の生き方にモガイテいる、フランス女性といえども、まるで日本のオバサンたちとちっとも変らないところに、意外性を感じたり、親近感も持てたりして、若い女性も含めて、勇気や元気もいただける映画として、とても素敵な存在でした。

いわゆる、ダメなオバンたち物語なのですが、どうダメでダサイかは、さすがに日本とは違い、おフランス。「アムール」と言うか、子どものことや、夫のことで悩むだけではなく、あくまで男のこと、自分のこと。つまりは、恋すること、メイク・ラブのことについてのコンプレックスで、ダメになっていることが大きいのです。日本のオバサンと違って、そのへんをまだ諦めていないところが、可愛いわけ。

ブノワ・ぺトレ監督は、俳優でもあり、「キッシュ」という演劇グループを結成し活躍もしている。photo / Kaori Sasaki

監督曰くは、
「撮影中は、母と女友達たちは見学に来ていて、どんな内容になるのか、ものすごく気にしていましたね」
少女魂を失っていない、キャピ・キャピぶりが想像できますね。
そんな、ダサダサのオバサン“そのイチ”を演じて見せてくれた、カリスマ、バーキンの貴重なお話は如何に?……。

「私の役どころは、だいたいがアンニュイなものが多くて、歳を重ねるごとに暗いものが来るわけ。演じていても落ち込みそうになるので、困っていたところ、そこに今回のオファー、これは楽しそうで、すぐ引き受けました。私にこんな役をさせるなんて、私にとっても別の世界で遊べるようなもの。

とにかく、格好からして、普段は、一度も着たことないようなものを着させられ……。普段の私のイメージをぶち壊せという命令。でも、そんなことも楽しいわけなのね。だから、どんなことも監督の言うとおりにして、身を任せて、本当に楽しめた撮影でしたよ。受け身で、口下手というキャラクターでもあったから、これまた、しゃべりは少なかったし(笑)、ほかの二人はいつもメイクを完璧にしている女性なのに、私はノー・メーク風の女性ですから、15分で支度が終わる。その分ゆっくり寝られたし、まるで林間学校に出かけてた感じですね」

そう、とにかくファッショナブルなバーキンに、なんなのこの格好は!というほどのダサい服を着せて、観ている私たちをガッカリさせる演出なのです。しかし、これにこそ、拍手すべき。なんたって、バーキンは、日本の女性にとって若い時から現在、還暦を迎えた今でも、ファッション・リーダーの座をゆるぎないものにしている存在なのですから、そのイメージを打ち破る勇気と演出は、お手柄もの。ぺトレ監督を褒めてあげなくては。

そのうえ今回は、還暦を過ぎた彼女の裸も拝めたのですから、同年代の女性たちにとっても、興味津々なわけで、初めて監督する男が、大御所の大スターを裸にするなんて、大した度胸ですね、また、また褒めてみたら、
「本当に、撮影中の彼女はいつも、微笑みながら、拒否ということを一切しない人でしたね。尊敬に値します」

と、これまた、当たり前のようにお応えになっていました。さすがは映画の国、フランスならでは。芸術へのチャレンジには、諸手を挙げて、出来うる立場にいる側が協力をするという、本当の先進国的振る舞いが、美しくも、羨ましく感じられました。

バーキンは、今回演じたキャラクターについても、
「信じられないほど人生に受け身で、病気の女友達や、離婚して傷ついている友人などにも何の手助けを出来るわけでもなく、綺麗でもなければ、ただ、いい人ぶって、自分の意見も言わないし、ケチで、せせこましい人柄、つまり、普段の自分とは正反対の人物になりきったわけです。歌手と女優、監督もしていますが、やはり演じることというのは、別の人間になりきることだから、楽しい仕事ね」
と、とても満足そう。

未だに、あの『ジュテーム・モア…』の時のボーイッシュな面影を漂わせている。photo / Peter Brune

思えば、35年くらいも前に『ジュテーム・モア・ノン・プリュ』で衝撃的デビューをし、日本でも他の女優や歌手たちとは、一線を画して、その雰囲気や個性で圧倒的な存在感と、女性の持つパワーを見せつけてきました。最近は、社会的なメッセージも掲げ、スーチー女史の解放を世に訴え、曲を作り、機会あるごとに歌うなど、自らのスローガンを強く打ち出して、骨太に生きています。

「デビューの頃は、ゲンズブールと知り合って、歌と映像で、アナーキーなメッセージを世に訴え、母国のイギリスでは、『ジュテーム・モア……』は、母親を心配させるほどいかがわしい場所で上映され、新聞などにも酷評されることになった。ところがフランスでは、シャンゼリゼのちゃんとした映画館で上映される作品として、芸術的才能に対しての評価や尊敬の念が全く違うことを知ったものでした。そういうことでも、フランスの創作的なものに対する感性や姿勢というものは素晴らしく、私たちは自信を持つことが出来ました」
 この時の苦しみや、忍耐を、彼女はこう言いました。
「人魚姫になったつもりでがんばったわ」
素敵ですね、この感覚。

「今回の映画でも、3人の女性たちは自分たちの体験を通して、最後は自分らしく生きること、歳をとることに逆らわず真実の自分を発見していくことに気づいて、自信を持つことが出来ます。まさしく、フランスで生きることは、自分が自分らしく、自由に生きることに喜びと自信を持たなくてはいけないのです。スーチー女史が、死んではならないということに一生懸命になることも、歳を重ね、いろいろな経験をし、影響力を持った自分がやるべきことだと信じていて、ゆるぎなくやっています。ドヌーブや、多くの力がある人たちにも声をかけています。大人になったから出来ることって、いっぱいあると思う。そんな自分を愛してあげなくちゃ、かわいそうってものでしょう」
 女が年をとることも悪くない、ということを作品でも、私的な毎日の中でも謳歌しているバーキン。諦めなんて言葉は、彼女の辞書にはないのです。他人との比較は、無用。

だから今回も、すんなり全裸を見せてしまったのでした。
この裸には、私たちは安堵感さえ感じました。あまりにナチュラル、たるむところはたるみ、それなりの年輪を見極めてしまったから。
監督にも聞きました。
「さすがに裸だけは、若い女性のものがいいでしょう?どうなんですか?正直に言ってくださいね」
と。

「もちろん、人工的に若返らせたボディーは、まったくいただけないし、愛する女性、その人の自然の姿であったら、男性はそのままを受け入れることは当然でしょう。その人の人生は、その人のものですから、包み隠す必要はないということです」
 あー、フランス万歳ですね。若いイケメン監督から、そのお言葉を聞き、この作品を観れば、“プレミアム的“女性にも(フランスなら?)、未来はあると勇気づけられました。
 (出来るだけパリとかに行って、年下の男と恋をしてみたいものです)

バーキンも言っていました。「あと、20歳も、30歳も生きるんですから、自信をつけなくっちゃね。私には三人の娘と、孫もいて、とにかくにぎやかです。それぞれが、私のことを気遣ってくれ、髪のこと、仕事のこと、肩こり対策、何でも心配して助けてくれる。私にとっての今の幸せは、この三人の娘たちが自分らしく、それぞれに生き、それぞれの仕事を自信を持ってやれる、そんな年齢になったということかしら」

私もある年齢までは、彼女を真似て、アンニュイを売りにしてたこともあったし、彼女のファッションも、その都度、その都度真似しましたが、我らがカリスマは、
「カリスマたることを意識して、心身ともに精進したことなんぞはない」
と、おっしゃるのでした。
「生きるがままなのよ」
と、まるで“女仙人”のように達観し、インタビューの間も、終始楽しそうに時をやり過ごしていました。

ちょうど今頃は、ハイチに行き、ストリートの子供たちに歌を歌っているはず。その後1カ月後には、タイの孤児院でコンサート活動をするそうです。
そこには、彼女の生き方を温かく見守ってくれていたご両親、特にお父上は、刑務所や死刑に反対し、囚人を引き取って家で生活させたり、反対デモなども積極的に行ってきた方なのだそうで、今の年齢になって改めて、そういう親に育てられたことにも感謝しているのだそうです。

カッコいいですねー、真似のできない生き方が、本当にカッコいいです。
というわけで、一番残念なことは、今回映画祭で上映された作品が、一般上映が決まっていないことなのです。だから、映画祭開催中に観とかないとだめなんです―。フランス映画祭は、そういうお宝ものがいっぱいの、幸せの宝箱。観た者勝ちの映画祭ですね。

ジェーン・バーキンの、この新作が上映となることを願って、次回は、フランス映画界を代表するシネアスト、カンヌ映画祭での評価がいつも高いブリュノ・デュモン監督の最新作、『ハデウェイヒ』のことをじっくり伺いました。いつもニヒルな面持ちのダンディなのですが、クスリ、とでも笑わせてみたくて挑戦してみたインタビューです。ぜひ、お楽しみに。

 

およそ違うキャラの3人だが、最後に共通の“繋がり“が明かされ、大笑い。幾つになっても女は可愛いい、ということが上手に描かれている。

『テルマ、ルイーズとシャンタル/THELMA、LOUISE ET CHANTAL』

監督 ブノワ・ぺトレ/出演 ジェーン・バーキン、キャロリーヌ・セリエ、キャトリーヌ・ジャコブ/2010年/フランス/35mm/カラー/90分