初めてのカンヌ映画祭 その5:5月20日『ブンミおじさん』のアピチャッポン・ウィーラセクタン監督作品記者会見。〜おめでとう! 2010年カンヌ映画祭パルム・ドール受賞!!〜 

(2010.05.24)

終盤にかかってきたカンヌ5月20日のカンヌ映画祭。前回お伝えした通り、プレス優先順位制度で試写会や記者会見になかなかもって入れてもらえないあたしです。が、映画祭も後半、20日はコンペティッション部門選抜作品、タイの鬼才、アピチャッポン・ウィーラセクタン監督作品『ブンミおじさん(Long Boonmee Raluek Chat)』記者会見に行ってきました!

人間味溢れるウィーラセクタン監督。その作品さながらホント、イイ人で惚れました!

カンヌ映画祭においてウィーラセクタン監督は、2002年『ブリスフリー・ユアーズ(Blissefully Yours)』で、ある視点部門最優秀賞、2004年『トロピカル・マラディ(Tropical Malady)』で審査員賞を受賞。(この作品は2004年東京フィルメックスでも最優秀作品に輝いています。)そして今年は3度目のオフィシャルセレクション。作る作品ほとんどが、なんらかの国際映画祭で賞を受賞している世界に羽ばたく実力派。欧米での評価が高いアピチャッポン・ウィーラセクタン監督だけあり記者会見に参加したのも圧倒的にヨーロッパ系ジャーナリストが多く、アジア系は台湾、中国、そして日本人はたぶんあたしぐらいだったのかも。(その他いらっしゃったらすいません……。)

と、今回のコンペティション出品作品「魂の輪廻転生。人や植物、動物の精霊、幽霊の融合。自分が子供時代に育ったタイ東北地方、イサーンの自然描写、その知られざる政治背景も映したかった。」と語る監督。表向きには仏教大国として知られているタイランドですが、実は精霊信仰も古くからあるのです。(精霊とはいわゆる霊や植物などに住む小さな神々。それらはタイ語で『ピー』と言われています。)

タイランドに住むタイ人でしか語れない世界を、美しい映像、音響、詩情たっぷりに作られた今回の作品。ですが、タイ在住のあたしにとっては、彼のような監督が映画を作り続けられるのが個人的にすごく不思議でした。

というのも、タイで一般にもてはやされるのは、有名女優が出る昼メロ的ストーリー映画やホラー映画、もしくはバリバリのアクション映画が人気。カンヌ映画祭的な作品を好む人はほんの一握りなので、タイ国内だけで映画製作を続けるには資金繰りがかなり大変ではないのかな? と不思議でなりませんでした。が、ウィーラセクタン監督記者会見デスクに揃った面々を見て納得。彼の詩的映画観にノックアウトされたドイツ、フランス、スペインの国籍が異なるプロデューサー達が脇をがっちりサポートしているのです。

会見での監督の語り口調はとってもソフト。しかし言葉の端々に「ボクは映画を愛しています♥」という愛情が感じられました。記者会見では作品以外に日頃、あまり垣間見られないタイ映画界の話題も。

「タイ映画はおバカなコメディー映画作品が多くて、正直あまり良いイメージは持たれていない。だけど、作りたい映画を製作できないタイ映画界の悲しい現状があるんだ。たとえば、今回世界のメディアに映し出されたタクシン元首相派の反独裁民主統一戦線(UDD)と治安軍の衝突を映画化するなんてタイでは絶対に無理なんだよ。」と語ってくれました。

タイの首都バンコクでは、赤いTシャツを着た反独裁民主統一戦線(UDD)の治安軍による鎮圧が1カ月以上続き、多数の負傷者が出ると共に、大型ショッピングセンターを始め多数のビルが燃え戦争さながらの終始劇が繰り広げられました。

そんな非常事態の中、カンヌに出向いた監督とあって「タイに帰るのは心配ではないですか?」など遠回しに「タイの実態」について尋ねるジャーナリスト達。そんな質問にウィーラセクタン監督は落ち着いた口調で「タイは今いまだかつてない激動の時を迎えています。これからの未来きっと何かがかわるはず。僕らの時代に何かが変わるはずだ。」と強く語っていたのが印象的でした。

とはいっても、この映画祭に参加するのも「私のパスポートは反独裁民主戦線(UDD)の集会場のテリトリー内にあって入る事が出来なかったので、特別出国許可書をもらって、誤報が飛び交う混乱の中、フランス大使館に行きビザの申請をしようとしました。すると大使館はクローズするのでスペイン大使館に行ってくれと言われ、スペイン大使館に行ったらイタリア大使館に回されて、イタリア大使館でやっとヨーロッパ行きのビザをゲットしました!」と苦笑いしながら映画祭参加の苦労話も秘話も披露、会場を盛り上げてくれました。

一番あたしが感心したのはアピチャッポン・ウィーラセクタン監督の人柄。映画に出演した女優さんが英語の質問で戸惑っているとマイクの向こうで「タイ語で話していいよ。」とタイ語でヒソヒソ話。「彼女はタイ語で質問に答えるので、僕が英語に訳しますっ。」とテキパキ自ら通訳を買って出たり、記者会見後にサインを求めるジャーナリスト達(みなさん、ただのファンの顔になっていました♪)に快くサインをしてくれたり、作品以上に監督の人柄にノックアウトされたあたし。

すっかり監督に惚れ込んでしまった! と、この記事を書いている中、今さっき(5月23日)カンヌ映画祭最高賞であるパルム・ドール(Palme d’or)を受賞しました! ホント、びっくり!! というか、この人格に映画ありというか、やはり「映画を愛する♥」彼の強い心が栄光に導いたのだとあたしは思いました。監督自身は受賞作品にからんで受賞式で「精霊や霊(ピー)がパルム・ドールに導いてくれました。」と。

そういえば、記者会見でも「監督は実際にゴーストを見たことあるんですか~?」という質問に「自宅にいる時締めきった室内でフワリと風のようなものが通りすぎたのを感じたことがあるよ。あっ、それと、パリのホテルに滞在中にも、知らない女の人を枕元で観たんだ。でも、怖くなかったよ。」と語っていた監督。「もしかして、本当に善霊の見えない力が働いていたのかも……。」とちょっぴり疑ったのはあたしだけでしょうか?