「自分さがし」の一歩先へ。
あたらしいロードムービーのかたち。
(2011.04.04)
3月下旬から初夏にかけて続々と公開される話題の新作映画。その中に「誰かと一緒に車で移動しながら自分の人生を見つめなおす」お話がなぜか3つもありました。今回はその3本にスポットを当ててご紹介します。
『お家をさがそう』サム・メンデス監督
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。
ストーリー
「アカデミー賞監督が本当に撮りたかった映画はこれだ!」を合言葉に公開されている監督主義プロジェクトの第3弾。30代半ばのイラストレーターのヴェローナ(マーヤ・ルドルフ)が、自身の予期せぬ妊娠をきっかけに、パートナーであるバート(ジョン・クラシンスキー)と共に自分たちにふさわしい家を探し求めて、コロラドからアリゾナ、ウィスコンシン、モントリオールを経て、さらにはフロリダ、サウスカロライナまでを旅する物語。
©2008 SPONGE ENT. All Rights Reserved.
『素晴らしい一日』イ・ユンギ監督
2011年4月16日(土)より
シネマート新宿ほかにてロードショー
ストーリー
前作『アドリブ・ナイト』に引き続き、平安寿子の原作を韓国のスタッフ・キャストが映画化。とうとう貯金も底をついた30代の失業中の女性ヒス(チョン・ドヨン)が、1年前に別れた男ビョンウン(ハ・ジョンウ)に貸していたお金の返済を求め、彼の新たな借金行脚の旅に付き合い、彼を取り巻く女性たちと出会う1日を描いた物語。
©2010 Summit Entertainment, LLC. All rights reserved.
『ジュリエットからの手紙』
ゲイリー・ウィニック監督
初夏Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
ストーリー
婚約者ヴィクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)との結婚を控えた記者志望のソフィ(アマンダ・セフライド)が、イタリアのヴェローナを舞台にした不朽の名作『ロミオとジュリエット』の悲劇のヒロイン、ジュリエットに宛てて出されたある手紙への返信を書いたことをきっかけに、50年ぶりに初恋の相手を捜す旅に出る老女クレア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)とその孫息子チャーリー(クリストファー・イーガン)と共にトスカーナ地方を巡る物語。
この3本のキーワードは「目的ある旅」。
『お家をさがそう』の目的は、そのタイトル通り「家探し」。ある一組のカップルが彼女の妊娠をきっかけに「自由業である自分たちがここに住んでいる必然性は特にない」と思い立ち、心から住みたい家を探す旅に出ます。『素晴らしい一日』の目的は「借金回収」。仕事も見つからず貯金も底をついた女性ヒスが、元彼に借金を取り立てにいく。かなり切羽詰った状況です。そして『ジュリエットからの手紙』の目的は「取材」。婚約中で幸せだけど、どこか満ち足りない思いを抱えた記者志望の女性ソフィ。旅先で50年前に出された手紙に返信したことから、初恋の相手を探す老女と孫息子の旅に付き添い、それを記事にしようとします。
彼女たちの旅の目的はそれぞれですが、風変わりで、いい加減で、鼻持ちならないのに、どこか憎めない男性陣とともに、思わぬ展開に困惑し、ほろ苦い思いを味わいながら、新たな人生へと踏み出すところが、この3作品すべてに共通しています。
なかでも『お家をさがそう』のカップルの旅は前途多難。訪れる先々で彼らを出迎える知人や古い友人・親戚たちが織り成す家族像があまりに強烈すぎて、二人の行く末にも不安を感じてしまうほど。それでもお互いを伴侶として認め合うヴェローナとバートの絆の強さに、ハッとさせられるのです。
『素晴らしい一日』のハ・ジョンウ演じるビョンウンの「だめんず」ぶりは見事なまでのはまり役。彼と彼を取り巻く女性たちのやりとりを通して、お金には単なる金額以上の付加価値があることに気付く、ヒスの晴れやかな顔が印象に残ります。
『ジュリエットからの手紙』では、老女クレアの初恋のゆくえを追ううち、次第に老女の孫息子に惹かれ始めたソフィが、ガエル演じる婚約者との関係を改めて見つめなおし、意思的に変わっていく過程が素直に描かれています。
人生におけるいくつかの局面を迎えながらも、立ち止まらず、流れに逆らわず、変わることさえ躊躇わない。そんな主人公たちの生き方にリアリティを感じ、共感を覚えました。
同時代を生きる等身大の女性が「自分さがし」の一歩先にある現実と向き合う、「目的のある」ロードムービーのかたちを、ぜひ劇場で確かめてみてください。