マリオン・コティヤールの官能美
『君と歩く世界』

(2013.04.20)

自分を見失った魂の
再生と成長の物語。

『君と歩く世界』は、心身ともに深く傷ついた女性が、心根は優しいが野獣のような男性と出会うことによって人生をとり戻し、同時に格闘技にしか自分を見いだせなかった男が愛に気づくお話。

舞台は南仏リゾート、アンティーブ。観光名所のマリンスタジオで、シャチ・ショーの花形スターとして活躍するステファニーは、ある晩ナイトクラブでのトラブルをきっかけに用心棒、アリに出会います。アリは気はよいけれど、ちょっと空気が読めないタイプ。その後、ステファニーは不慮の事故で両足を失う悲劇に襲われ、現実を受け容れられないでいます。失意のステファニー、なぜかアリに連絡をとり、ふたりは療養生活をおくるホスピスの部屋で再会することに。しかし、そこで何かが匂う。「臭い?」「臭いのは私よ。」というステファニー。見れば長い髪はオイリーで、何日も身体を洗ってない様子。好意を持ち合う男女の再会時の会話が「匂う?」というあってはならないシチュエーション……。


アリと再会したステファニー(マリオン・コティヤール)は引き籠り生活から立ち直っていく。リハビリに挑み、義足をつけ再び自分で歩き始める。

再会の会話もそこそこに、引き籠るステファニーをアリはビーチへ連れ出します。潮風にあたり、水と戯れ、久々に解放されるステファニー。その後も義足をつけて街に出たり、アリが出場する格闘技の試合に行ったり、活力を取り戻していきます。同時にステファニーはアリに惹かれていくのですが、アリはエネルギーが漲っているだけのアニマルチックな男。格闘技をやるほど立派な体格、腕っぷしもめっぽう強い。ところがお腹はポッコリ。ちょっと抜けてる野生味でマティアス・スーナーツが好演しています。

一方ステファニーを演じるマリオン・コティヤールはほとんどノーメーク。華やかさからはほど遠いいでたちであるにもかかわらず官能美に溢れ、艶かしいことこの上なし。失った両方の膝下を見せるシーンでさえ。


活力をとり戻していくステファニーはかつてマリンランドのショーで共演していたシャチに会いに行く。シャチはステファニーの動きに合わせて以前と同じように泳ぎ回る。美しいシーンのひとつ。

生きているというフィジカルな実感を
独特の映像美で。

ステファニーと親密になっても、欲望のおもむくまま他の女性と出かけてしまったり、都合が悪くなると出奔し、その行き先をステファニーに告げることさえも思いつかないというKYぶり甚だしいアリ。アリにはひとり息子サムがいるのですが、そのサムに起こるある事件をきっかけに、やっと自分のステファニーへの思いに気づいていきます。荒くれ男がかけがえのない愛に気づく……フェリー二の名作『道』(’54)を彷彿とさせます、とはいっても、アリは『道』のザンパノのように残忍ではありませんが。この『君と歩く世界』はステファニーの再生のストーリーであると同時に、アリの成長物語でもあるのです。


アリ(マティアス・スーナーツ)は5歳の息子サム(アルマン・ヴェルデュール)を連れ、南仏アンティーブに移り住んできたばかり。ナイトクラブの用心棒や夜警の仕事で生計をたてギリギリの生活をしている。エネルギーが漲っているだけのアニマルチックな男だが……。

ステファニーとアリが絆を深めて行く場面では、まず「オペ」かどうかメールで確認。そして「オペ」となると、化粧をするわけでもなく、着飾るわけでもない生身の男女が、ムンムンの色気を発散しながらお互いを根源的に求め合う姿が描かれます。ふたりが求め合うのは、アリが格闘技に求めるものと同様、組み合う相手の重さ、拳、それと同時に自分が流す血や汗、痛み、喜びを感じたいから。自分という肉体が存在する物質的事実を実感したいからではないでしょうか。そのことがジャック・オディアール監督ならではの繊細な光と音像で伝わってきます。独特の映像美と「オペ」とは何かは劇場にてお確かめあれ。


来日したマリオン・コティヤールとジャック・オディアール監督、ゲストの中谷美紀。オディアール監督は「ステファニー役はマリオン以外に考えられなかった。」と語り、マリオンは「この役に抜擢されてうれしかった、ステファニーのように強い女性を演じることができて女優として最高に幸せ。」©2013 by Peter Brune

『君と歩く世界』

新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中。公開劇場情報はこちら
出演:マリオン・コティヤール、マティアス・スーナーツ、アルマン・ヴェルデュール、セリーヌ・サレット、コリンヌ・マシエロ、ブーリ・ランネール

監督:ジャック・オディアール
脚本: ジャック・オディアール&トーマス・ビーガン
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:アレクサンデル・デスプラ
美術:ミシェル・バルテレミ
音響:ブリジット・ティランディエ
劇中歌:ボン・イヴェール『The Wolves (Act I and II)』/『Wash』 第54回グラミー賞最優秀新人賞受賞
字幕:松浦美奈
原題『DE ROUILLE ET D’OS』 、英題『RUST AND BONE』  
原作:クレイグ・デイヴィッドソン 『君と歩く世界』(集英社文庫)  
後援:フランス大使館  
協力:ユニフランス  
配給:ブロードメディア・スタジオ 
2012年 / フランス・ベルギー合作 / カラー / シネマスコープ / R-15
© Why Not Productions – Page 114 – France 2 Cinéma – Les Films du Fleuve – Lunanime  HYPERLINK