1年間モノを買わない生活って? 『365日のシンプルライフ』

(2014.08.25)
『365日のシンプルライフ』© Unikino 2013
『365日のシンプルライフ』© Unikino 2013
好きなモノに溢れている部屋なのに
なぜか幸せじゃない!?

恋に敗れた、疲れた! といって髪を切ったり、カラーリングを変えてイメチェンしたり、恋人との思い出の品を捨てたりする話は聞きますが、この『365日のシンプルライフ』主人公ペトリは、彼女にフラれたことをきっかけに自分の部屋にある全てのモノとおサラバすることにします。

自分の部屋は、好きなモノでいっぱい、まるで天国。モノはいっぱいあるけど心はからっぽの自分に気づいてしまうのです。おサラバとは言っても全て捨ててしてしまうワケではなく、自分が所有しているモノを倉庫に預け(なんと下着や服まで!)、1日1個だけ持ち帰ってよい。何も買わない というルールに従って1年を過ごすのです。驚いたことにこれは実話、ドキュメンタリーです。

部屋のモノはすべて預けて1年間モノを買わない生活をはじめるペトリ。
部屋のモノはすべて預けて1年間モノを買わない生活をはじめるペトリ。

冷蔵庫はないから食べ物は窓枠に置けばよい。弟はじめ周囲は呆れ顔。
冷蔵庫はないから食べ物は窓枠に置けばよい。弟はじめ周囲は呆れ顔。

「誰もがモノから解放されてたいと思ってる。」ペトリの試みを見守る友人。
「誰もがモノから解放されてたいと思ってる。」ペトリの試みを見守る友人。

「おばあちゃんの家は昔からモノが少ないの?」ペトリはモノなし生活を祖母に報告&相談する。
「おばあちゃんの家は昔からモノが少ないの?」ペトリはモノなし生活を祖母に報告&相談する。
生活にはそんなにたくさんの
モノはいらない。

ちょっと酔狂なこの365日生活実験の中で起こる思いもよらない「モノ語り」=ストーリーが笑えます。洋服も家財道具も全て預けてしまったペトリは、最初の夜は全裸でガランとした部屋で眠ります。1日1個のものを持ち帰ってよいのでコート、毛布、食器を持ち帰り、遂にはベッド・マットを運び込みます。その時のペトリの感動ぶりといったら、ベッド・マットを抱きしめ、頬ずり、キス……まるでしばらく会えなかった恋人との再会のよう。

ベッド・マットは持って帰ったのに枕は持ち帰らず。なぜ? ペトリは1ヶ月もすると、毎日モノを持ち帰ることをやめてしまったのです。彼が考えていたことは「生活するにはそんなにたくさんのモノはいらない。」

デートを前に洗濯機を持って帰って洗濯しはじめたはよいものの、水漏れを起こして洗濯機は故障。壊れたモノは直さないといけない「モノには責任が付きモノ」でもあることにも気づいていきます。

人物、風景をとらえる映像はやさしい色調。
人物、風景をとらえる映像はやさしい色調。音楽は、北欧新世代ジャズを代表するティモ・ラッシーのテナー・サックス。
 

監督で主人公のペトリ・ルーッカイネンは、映像関連の仕事をする26歳(撮影当時)。実際の自分の体験を作品にしました。モノを捨てていく片付けとは逆に、何もないところから本当に必要なモノだけを増やしていく彼の方法はいわば「逆断捨離」です。そんな生活をしている自身の姿の映像に、半ば呆れながらもそれを見守る友人、家族との何気ない会話を挿し込むことで、モノについての考察を血の通ったものにしています。

また、ペトリが使っているマグが『アラビア』の製品ぽかったり、デートは自転車で、友人との会話が新生児に国からプレゼントされる「赤ちゃんセット」のことだったり、アイスホッケーの世界選手権優勝に沸く人々の姿が映し出されたり、とフィンランドのライフスタイルが垣間見れるところもこの作品の魅力のひとつです。

***

「自分に必要なモノ」を毎日考えざるを得ない状況を自分に課したペトリ。これは「無人島に1枚だけレコードを持って行けて聴けるとしたら何を持っていく?」という質問や「世界最後の日にやりたいことは?」という問いにも似ています。その答えからは、その人の持つ好みや何に幸せを感じるかがおのずと知れるのです。

「自分に必要なモノ」を毎日考えたペトリが導き出した幸せは当たり前なのですが、偉大な真理。この当たり前に365日かけた丁寧さも「今」という時代を伝えてくれる作品である、
と観察しました。

『365日のシンプルライフ』

監督・脚本:ペトリ・ルーッカイネン 
製作:アンッシ・ペルッタラ
撮影:イエッセ・ヨキネン
編集:アルッティ・ショーグレーン
音楽:ティモ・ラッシー
音響:キュオスティ・ヴァンタネン
制作:ウニフィルムOy/ヘルシンキ,フィンランド

2013年/フィンランド/フィンランド語/カラー/80分 
原題:Tavarataivas 英題:My Stuff
字幕翻訳:川喜多綾子
字幕協力:坂根シルック

後援:フィンランド大使館 
提供・配給:パンドラ+kinologue 

© Unikino 2013