A・イニャリトゥ監督とのコラボで念願のアカデミー賞獲得。 奇跡の生還物語『レヴェナント 蘇えりし者』L・ディカプリオの想い。

(2016.04.18)
『レヴェナント 蘇えりし者』© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
『レヴェナント 蘇えりし者』© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
アカデミー賞・主演男優賞ついに獲得。ディカプリオの悲願叶う。

今年のアカデミー賞争奪戦中、一番の注目作品として湧かせたのは『レヴェナント』ではなかったでしょうか。

その結果が、予想以上のものだったことは記憶に新しいです。これまで何度となくノミネートを重ねても、主演男優賞を獲得できないままのレオナルド・ディカプリオの最新主演作品が本作であり、その悲願がいよいよ叶うのか、否か。ファンならずとも、期待と不安に心揺さぶられた「審判」でした。さらには、予想と期待はしていても、まさかの2年連続の監督賞も獲得とは! アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の他の追従を許さない、その底力と実力が持続しっぱなしというこ。これは、まさに事件でした。そして、本作品も事実にもとづく大事件の映画化です。

『レヴェナント』は、一言でいうと、「復讐劇」。1823年以降、西部開拓史上の伝説的存在として語り継がれてきた実際の人物、ヒュー・グラスの伝記をもとに作られました。

開拓時代のアメリカ。ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は、先住民との間に設けた子 ホークとともにハンター達を案内する。
開拓時代のアメリカ。ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は、先住民との間に設けた子 ホークとともにハンター達を案内する。

バッファローの毛皮をヨーロッパに売りさばくアメリカ先住民と旧大陸ハンターたちの攻防と殺戮が繰り返されていたアメリカ西部開拓時代。ハンターたちの案内人であるヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は、先住民との妻との間に出来た息子ホーク(フォレスト・グッドラック)共々、一行に加わります。ある時、先住民たちの襲撃に追いつめられ、不運にもハイイログマに襲われ大けがを負います。行軍の足手まといとなったグラスは、仲間の一人ジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)の陰謀で殺されかけ、それを止めようとした息子も亡き者にされます。

ハンター一行は先住民たちの襲撃に追いつめられ、グラスは不運にもハイイログマに襲われ大けがを負う。
ハンター一行は先住民たちの襲撃に追いつめられ、グラスは不運にもハイイログマに襲われ大けがを負う。
 
極寒の地で魅せるディカプリオ渾身の演技。

裏切られ、愛するものを失ったグラスは、想像を絶する生命力で復讐を誓いフィッツジェラルドを追跡。多くの困難が彼を苛みます。壮絶な生き残りと生還の物語は、計り知れない人の力を伝えるものです。その奇跡ともいうべき出来事を映画化した『レヴェナント』は、極寒の大自然を舞台にし映画としても大きな挑戦でした。

その中で人間業とは思えない実在のグラスを再現し、究極のサヴァイヴァルを演じて見せたのがディカプリオです。

つめたく冷えきったミズーリ川の急流を泳ぎ渡る! 草の根をかじる! 野宿で凍えないように火を起こす! 馬と共に崖から転落し、死んだ馬の腹を裂いて中に入り一夜の寒さを凌ぐ! 彼のチャレンジングな演技は「復讐を遂げるまでの戦いとは、自分との戦いである」ことを教えてくれるのです。

「この仕事、最初から最後まで、寒さとの戦いだった」と来日記者会見で答えるディカプリオ。映像を観ているうちに、こちらも雪の降り積もる荒野に投げ出されたかのような臨場感で興味は尽きません。

想像を絶する生命力で蘇るグラス。復讐を誓いフィッツジェラルドを追跡する。ディカプリオは人間ばなれしたグラスを再現し、究極のサヴァイヴァルを演じて見せる。
想像を絶する生命力で蘇るグラス。復讐を誓いフィッツジェラルドを追跡する。ディカプリオは人間ばなれしたグラスを再現し、究極のサヴァイヴァルを演じて見せる。

文明が進み過ぎた今の時代に、原始回帰を求めることの必然も感じさせ、アメリカの開拓時代から始まった富むことへの功罪を突きつけるところは、イニャリトゥ監督の真骨頂。すべて自然光でという撮影方法を貫くため、一日のうち限られた時間しか撮影出来ず、完成まで9ヶ月余も寒さと戦ったというロケ。その渦中で、予想だにしない温暖化の影響で雪が無くなり、なんとアルゼンチンまで移動しての撮影も強いられる。

しかし、その過酷な努力あってこそ、残酷なほど美しい大自然を魅せる映像の誕生です。

撮影現場でのディカプリオをイニャリトゥ監督。ロケは完成まで9ヶ月余、寒さと戦ったという。
撮影現場でのディカプリオをイニャリトゥ監督。ロケは完成まで9ヶ月余、寒さと戦ったという。
 
環境破壊と功罪を伝える、芸術作品ともいえる傑作が誕生.

ディカプリオは「温暖化と気候変動を目の前にし、撮影のために雪を探し回らなくてはならなかった現実は誰のせいなのか。この映画がこれからの地球環境について考えてもらうきっかけになればうれしい」とも語っていました。自らが唱えている地球環境保全を伝えるには、イニャリトゥ監督の『レヴェナント』しかない。そのためには俳優として何でも出来ると直観、迷わず飛び込んだ、というディカプリオ。受賞はそういう彼の想いを裏付けるものであり、彼にとっての俳優人生の一区切りをつけてくれたと、真摯に自らに言い聞かせるかのように語りました。

子役時代を経て演じ続け、アメリカ社会を考え、ひいては地球環境をも考え、映画を通してスローガンを打ち出す映画人ディカプリオは、イニリャトゥ監督という最強の味方を得たことで、今回大願成就を果たしました。次回作は環境問題を取り上げたドキュメンタリーを自ら製作中であることも表明していました。

 残酷なほど美しい雪景色の大自然。温暖化の影響で雪が無くなり、なんとアルゼンチンまで移動して撮影した。
残酷なほど美しい雪景色の大自然。温暖化の影響で雪が無くなり、なんとアルゼンチンまで移動して撮影した。

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貫禄充分のその勇姿、よく見たらどことなく、あの、オーソン・ウェルズに似てきていないか!?

映画界の伝説 ウェルズも知る人ぞ知る子供時代は、超美形。製作もして力を入れた『市民ケーン』(41)で、実在の新聞王ハーストを演じ歴史にその名を刻まれる彼ですが、ディカプリオも実業家のヒュー・ヘフナーを演じた作品『アビエイター』(04)の製作に関わりました。その頃から、ウェルズ風の容貌に変化してきたように思えてなりません。そして、今回のヒュー・グラス……。アメリカの歴史に残るの武勇ヒーローを演じたい、その野心に満ちた面構えは、やっぱりウェルズだー、なんて記者会見で、まじめに「アメリカを語る」彼を見て感じた次第。映画界のあらたなる伝説の行方に注目していきましょう。

来日会見では次回作は環境問題を取り上げたドキュメンタリーを自ら製作中であることを表明。
来日会見では次回作は環境問題を取り上げたドキュメンタリーを自ら製作中であることを表明。
 
『レヴェナント:蘇えりし者』
2016年4月22日(金)TOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー

出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドナルド・グリーソン、ウィル・ポールター、フォレスト・グッドラック
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:マーク・L・スミス
撮影:エマニュエル・ルベツキ
音楽:坂本龍一、アルヴァ・ノト
プロダクション・デザイン:ジャック・フィスク
衣装:ジャクリーン・ウェスト
視覚効果スーパーバイザー:リッチ・マクブライド
編集:スティーブ・ミリオン
製作:アーノン・ミルチャン、スティーヴ・ゴリン、ジェームズ・W・スコッチドーブル