200年の時差に悩めるヴァンパイア
映画『ダーク・シャドウ』

(2012.05.19)

ティム・バートン監督、主演のジョニー・デップが来日。
『ダーク・シャドウ』

いよいよ5月19日(土)より公開となるティム・バートン監督の最新作『ダーク・シャドウ』。主演をつとめるのはもちろん、バートン監督とはなんと8度目のタッグとなる盟友ジョニー・デップです。

本作は、1966年~71年にかけてアメリカのABCテレビで昼の時間帯に放送され熱狂的な人気を誇った同名のTVドラマを下敷きにしたブラック・ファンタジー。もともとTVシリーズの大ファンだったというジョニーが、自ら本作の映画化権を獲得し、製作に加え、子どもの頃からの念願であったバーナバス・コリンズ役を射止め、初のヴァンパイア役を演じています。

ベテラン女優ミシェル・ファイファーを始め、バートン組の常連で監督とは公私ともにパートナーでもあるヘレナ・ボナム=カーター、今をときめくクロエ・グレース・モレッツらによって、全く新しいタイプのヴァンパイア映画として蘇りました。

全米公開直後の過密スケジュールの中、先日ジョニー・デップとティム・バートン監督がプロモーションのために来日し、記者会見を行いました。

映画の雰囲気さながらブルーの照明に浮かび上がる真っ赤な椅子が用意された会場に、共に黒のコーディネートで登場したバートン監督とジョニー。二人は「また日本に戻ってこられてとても嬉しい」とにこやかに口をそろえ、『ツーリスト』以来1年2ヶ月ぶりの来日となったジョニーからは「震災で亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、被災地の方々のサポートもしたい」とのメッセージも。「地球上で一番好きな場所のひとつ」というほど日本を気に入ってくれているジョニーとバートン監督の「ファンを大切にする」姿勢をここでもしっかりと感じることができました。

「まるで8人の別の役者と仕事をしたようだ」
ジョニー・デップの変身ぶり。

ジョニーとのこれまでの8作品に渡る仕事を振り返ったバートン監督は、「まるで8人の別の役者と仕事をしたようだ」と彼の役者としての技量を称えた上で、「(ジョニーが)台本に書き込んだメモもほぼ自分と同じような内容だった」というほど、ものごとに対するアプローチの仕方が二人は似ていて、演出方法などを巡っても「これまで一度も意見が対立したことがない」というから、その絆の強さに驚くばかり。

一方「初めて監督と会ったときからつながりを感じた」と話すジョニーも、『シザーハンズ』が自身の役者としての原点であることや、「独創的で真の意味でのアーティストであるティム自らが世界観やキャラクターを深めていく過程を間近で見てこられたことが何より幸せ」と答えるなど、感性の似ている点と何より互いに全面的に信頼を寄せ合っている、相思相愛な様子が伝わってきました。


記者会見中に携帯が鳴ってしまった取材陣に対し「どうぞ。早く電話に出て!」というジェスチャーを一緒にする、どこまでも息がぴったりなジョニー・デップ(右)とティム・バートン監督。(左) ©2012 by Peter Brune

なりたくもないのにヴァンパイアにされてしまった
バーナバス・コリンズの悲喜劇。

「5歳のころからマイブームだった」というほど筋金入りのヴァンパイア好きの監督にとって、数ある「ヴァンパイア映画」とはちょっと違った角度からヴァンパイアを描くという点がこの映画のポイントだったといいます。もちろんヴァンパイア映画に不可欠の吸血シーンもたっぷりで、「シルバーに弱い」、「鏡に映らない」といったお約束の描写もちりばめられているほか、夜行性のため昼間は日に当たらない寝床を求めて屋敷中をウロウロし、コウモリのように逆さまにぶら下がってみたり、サングラスをかけて外出するなんともキュートなバーナバスの一面も見逃せません。

バーナバス役に「相当執着していた」というほど入れ込んでいたジョニーも、18世紀というエレガントな時代から、200年という時を経て、1970年代というあらゆる面で「奇妙な」カルチャーに溢れた時代に蘇ってしまったがために、バーナバスが悪戦苦闘を強いられる様子を、“水を得た魚“ならぬ「陸に上がった魚」という言葉で表現するなど、なりたくもないのにヴァンパイアにされてしまったバーナバス・コリンズの悲喜劇が重要なテーマとなっていることが伺い知れます。

興味深いことに、監督もジョニーも70年代に対して「プラスチックのフルーツやマクラメ編みなど、当時は普通とされていたことがとても馬鹿げていると考えていた」という共通の思いがあったそうで、本作の中でもそれらのアイテムが絶妙なさじ加減で生かされているのでご注目を!

現代から見た1970年代に対する
シャープな批評性。

撮影現場にも連れてきたというジョニーの10歳と13歳になる子供たちも、前作『アリス・イン・ワンダーランド』で演じたオレンジの髪の毛で巻きスカートを履いた帽子屋 マッドハッター役よりも「ヴァンパイアの方がカッコイイ!」とバーナバス役のパパがお気に入りだったそうですが、実のところ白塗りで眼のまわりを真っ黒にしたバーナバスの役作りにはかなりの苦労があったといいます。

というのも、200年の眠りから蘇ったという設定上、クラシカルなモンスターの象徴である『フランケンシュタイン』で使用された古い製法のドーランにこだわったため、あちこちにくっついてしまっただけでなく、同じく白塗りでセクシーな魔女役を演じたエヴァ・グリーンとの激しいキスシーンでは、「マクドナルド」のキャラクターでおなじみの「ドナルド・マクドナルド」のような唇になってしまったのだとか。

「物事には常に選択肢があるべき」と考えるティム・バートン監督は、「『ダーク・シャドウ』では70年代のノリや鮮やかな色調を出したい」という意図から、「どうしても画面の端が暗くなってしまう3Dを本作に用いるのは適切ではない」と判断したといいます。

「70年代だから3Dではないというわけではなく、あくまで70年代の雰囲気には2Dのほうがしっくりきたから」という監督のコメントからもよくわかるように、本作を見ていて感じるのは、映画版のスタッフの、オリジナル版に対する並々ならぬ愛着と、現代から見た1970年代に対するシャープな批評性です。


左・白塗りでバーナバス役に臨んだ。 右・会見でのジョニー・デップ。
どこか自嘲的ユーモア、
マニアックで風変わりなハリウッド映画。

バートン監督がこれまで手掛けてきた『シザーハンズ』のロマンティック・ファンタジーの要素や『バットマン』のアクション、『スリーピー・ホロウ』や『スウィニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』における猟奇性なども残しつつ、どこか自嘲的ユーモアも感じられる、マニアックで風変わりなハリウッド映画であるとも言えるでしょう。

本作の見どころは、200年を越えてなお続いていくロマンスを主軸に、没落してしまった一族を復活させたいという主人公バーナバス・コリンズの強い思いが、皮肉やユーモアたっぷりの洒落た大人むけのエンターテイメントとして描かれているところ。掘り起こされた棺から蘇り、70年代の街を彷徨う場面で、車やマクドナルドを目にしてとまどうバーナバスのリアクションが、どこか、現在公開中の日本映画『テルマエ・ロマエ』で阿部寛が演じる、古代ローマから現代日本にタイムスリップしてきたルシウスの反応と通じるところもあって、ユーモラスでありながら、するどい観察眼に思わずハッとさせられます。

からくり屋敷のようなコリンズ邸の隠し部屋や、思春期真っ盛りの娘を演じたクロエ・グレース・モレッツの部屋の美術セットを筆頭に、70年代を象徴するファッションやメーク、役に応じたセリフまわしなど、細部まで徹底された凝りようは見ごたえ十分。そこに色を添えるのがダニー・エルフマンによるオリジナルスコアと、ツボを押さえた当時のヒットナンバーの数々。『カーペンターズ』をTVで見たバーナバスが「出て来い、歌う小人たちよ!」と叫んでTVを破壊し、そして実際に70年代に大活躍した大物ミュージシャンまでもが登場して演奏するシーンは圧巻です。

こんなステキな世界を作り上げることができる二人にも、バーナバスのように時代や周りに「ついていけない」と感じる瞬間は訪れるようで、「すべてのことについていけていない」と笑いを誘う監督に対し、「違う撮影現場で『アリス・イン・ワンダーランド』のマッドハッターの声を出しそうになったこともあった」と、常に複数の仕事を抱える超人気俳優ならではのエピソードを披露してくれたジョニー。それでも「もしも今の自分のまま蘇るとしたら、アニメ『宇宙家族ジェットソンズ』の時代に行って、「ジェットソンズ」に出たい!」というほど熱心な、根っからの役者ぶりがお見事でした。

ぜひ劇場で、ジョニー・デップとティム・バートン監督のオリジナル版への愛がたっぷりつまった渾身のヴァンパイア映画『ダーク・シャドウ』に触れ、彼らの世界観を堪能してみてください。

ストーリー

時は1972年。200年の眠りから目を覚まし、ヴァンパイアとして子孫の前に現われたバーナバス・コリンズ。かつては繁栄を誇った名家にも関わらず、今は見る影もなく没落してしまった末裔と出会い、バーナバスは一族の復興を心に誓う。しかし、眠っているあいだに世の中はすっかり様変わり。バーナバスは何をやってもズレまくり、何を言ってもスレ違う。そのおかしな言動のせいでコリンズ家に巻き起こる珍騒動。それでも、彼の家族愛は止まらない! 果たして家族思いで人間味溢れる新種のヴァンパイアは、魔女の手から家族を守り没落した一族の繁栄を取り戻せるのか?


邪悪を絵に描いたような魔女・アンジェリーク(エヴァ・グリーン)とバーナバスの対決やいかに。

コリンズ一家の多感な少年、デヴィッドの父、ロジャー(ジョニー・リー・ミラー)と、一家に住みつく精神科医ジュリア・ホフマン博士(ヘレナ・ボナム=カーター)
ダーク・シャドウ

2012年5月19日(土)丸の内ルーブルはじめ全国ロードショウ

出演:ジョニー・デップ、エヴァ・グリーン、ミシェル・ファイファー、ヘレナ・ボナム=カーター
ジョニー・リー・ミラー、クロエ・モレッツ、ガリバー・マクグラス、ジャッキー・アール・ヘイリー、ビクトリア・ウィンター
監督:ティム・バートン
原題:DARK SHADOWS 
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2012 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED


200年前の栄華から凋落したコリンズ一家の長、エリザベス(ミシェル・ファイファー)はとんちんかんなバーナバスをフォロー。