構想10年を経て誕生した
イジメと復讐の青春活劇『華魂』

(2014.01.07)

監督・原案:佐藤寿保、脚本:いまおかしんじ、、音楽:大友良英、プロデューサー:小林良二 映画『華魂』より。

壮絶な映像にノイズを加えるのは
大友良英さんの音楽。

激しい青春映画が完成した。舞台は学校。ストーリーの軸は「いじめ」。そして剥きだしの「感情」が映画の全編にほとばしる……と聞くと、観るのに体力がいる作品だと思われるだろう。そして、その予想は大きく外れてはいない。

『乱歩地獄・芋虫』(’05)や『名前のない女たち』(’10)など、日常にひそむ狂気、剥きだしの人間性をハードな映像で描き続けて来た佐藤寿保監督の最新作『華魂』のことである。

転校生をターゲットに執拗にイジメを繰り返す女子グループ。苛められている子の「前科」に過剰反応する潔癖症の女教師。傍観者から一歩踏み出した少女。体罰を繰り返す体育教師と屈辱に耐える少年。淡々と「イジメ」を受け止める転校生と対人関係に追いつめられていく彼女の母親。

目の前で繰り広げられる映像は容赦なく苛酷である。目を背けたくなるようなリンチシーン、レイプシーンもある。が、そこに存在する人間たちは全員が現実世界から頭一つ突き抜け、どこかユーモアすら漂う。そして、この映像に絶妙なノイズを加えているのが、『あまちゃん』で今や国民的ミュージシャンとなった大友良英さんの音楽だ。これが「映画」の醍醐味である。

「イジメ」という存在否定の戦争は、苛められる側だけでなく、苛める側のグループも「食うか食われるか」戦々恐々。親は子を信用できず、子は親に希望を持てない。教師は子どもと向き合うことから逃げるどころか、自分自身からも逃げている。寒々しい人間関係が、とことんデフォルメして描かれるから、どこか滑稽ですらあるのだ。

そして、延々続くかに思われたイジメ地獄は、苛められ続けていた少女の頭に憎しみの「華魂」が開花した瞬間、様相を一転させる。「華魂」から放たれる<何か>によって、人々は内側に隠し持っていたあらゆる感情を噴出させる。

イジメグループの少女たちも潔癖だった女教師も、その内側にある忌まわしさを暴露しながら人格を崩壊させていく。なんとも凄まじい青春映画である。


苛められ続けていた少女の頭に憎しみの「華魂」が開花。

映画としての矜恃と
監督の切実な世界観。

「『恐怖映画』とも『スプラッター映画』とも言われる本作ですが、佐藤監督にとっては紛れもない『青春映画』」と語るのは本作プロデューサーの小林良二さんだ。
「学校という閉鎖空間におけるいじめは、今の世界の縮図。2001年の9.11事件の時から温め続けて来た『華魂』のイメージが、2011年の3.11の原発事故でさらに監督の中で明確になった」と小林さんは言う。

「佐藤監督のデビュー作『狂った触覚』を観て、この人は天才だ、いつか一緒に仕事がしたいと思い続けてきた」という小林さんにとって『華魂』は、プロデューサーとしてのみならず、助監督兼制作として現場に入り、文字通りがっぷり四つに取り組んだ作品だ。

「映画たるものは、1000円以上のお金を払ってでも暗闇の中、スクリーンで観たいと思わせるものでなければいけない。映画としての価値とは、今まで観たことのないようなものを見せようというサービス精神だと僕は思っています」

少女の頭に開いた一輪の巨大な「華魂」。モデルにしたのは世界一大きくて世界一臭い花、ラフレシアだ。

「死臭を漂わせる巨大な花を生み出してしまったのは、3.11の原発事故を引き起こすまでに暴走してしまった今の我々の世界」というシリアスなモチーフを抱えながらも、先述の通り、映像は劇画調で滑稽ですらある。これが「娯楽映画としてのサービス精神」の現れの一つでもあろう。

とはいえ、「存在の否定」という極限状況にある現代を生き抜く人間たちへのまなざしは真摯である。低予算・少人数で短期間に撮影されたというだけあって、随所に「自主映画」的な匂いもするが、その匂いは、この世界観を描かずにはいられなかったという監督の切実な思いを浮き彫りにする。


プロデューサーの小林良二さん。

心地悪さも含めて
作品のモチーフに向き合う。
そして、圧巻なのは、いじめられる少女の母親役、不二稿京さんの存在感である。地域社会で孤立し猜疑心を募らせ娘を追いつめていく中年女性の狂気を熱演する圧倒的なリアリティ。

決して「心地良く」鑑賞できる作品ではない。人間の不条理さ、関係の不確かさの中から生まれた一輪のあだ花「華魂」というモチーフが、私たちの「今」に問うてくるものは極めて重たい。が、喉ごしよく手際よく「感動」が用意された作品ばかりではなく、時にはこうした作品に向き合うのもいいだろう。


少女の母親役、不二稿京さんの存在感が圧巻。

華魂(はなだま)
2014年1月18日新宿ケイズシネマにて公開、
以後順次全国公開予定

監督・原案:佐藤寿保
脚本:いまおかしんじ、
音楽:大友良英、
プロデューサー:小林良二
出演:桜木梨奈、島村舞花、浅田駿、安部智凛、諏訪太朗、不二稿京ほか
© 華魂プロジェト
2013年/カラー/106分