今年一番の面白さ! 
辛辣な会話の妙『最強のふたり』

(2012.08.27)

互いの持つ価値観や文化を軽口でやり合って。
垣根を越えてこそ、最強。

「最強のふたり」って、どんなふたりなのでしょう? 

写真を見る限り、ひとりは車椅子に乗っていて、車椅子を押してるもうひとりの男は、あの‟ウサイン・ボルト的”と言おうか、溌剌お茶目で、ファンキーな雰囲気も漂う、介護人?……興味津々、はて、ふたりの関係は?

実はこのふたり、介護つながりの赤の他人。

介護される方は、いわゆる上流階級のお金持ちでエレガントな男フィリップ(フランソワ・クリュゼ)。しかし、妻を病で亡くし、自らもパラグライダーの事故により、全身麻痺となった不運な男。火傷するくらいの熱い湯が皮膚に触れても感覚がない全身硬直・麻痺状態でほぼ24時間の介護と見守りが必要という身の上。

彼に雇われた介護人はと言えば、これまで介護とは無縁の、失業保険給付で毎日を食いつないできた、スラム街出身の黒人男性、ドリス(オマール・シー)。

失業証明が欲しいために、難易度が高い就職口狙いで、フィリップの介護人募集の広告に目をつけます。ところが、腫れ物に触るような介護に大不満、退屈しきっているフィリップに気に入られてしまいます。

「君は見るからに、体が丈夫そうなのに、何で働かない。国からお恵みをもらうなんて罰が当たるぞ。」というような言い草で、フィリップは、ワーキング・プワーのドリスを奮起させ、お試し介護を命じることに成功。

さあ、ここからが、お互いそれまでになかった人生の始まり、始まり。


スラム街出身で無職の黒人青年ドリスを演じるのはフランスの人気コメディアン、オマール・シー。
大富豪フィリップを演じるのは演技派フランソワ・クリュゼ。

アート・ギャラリー、夜のパリ散歩……。「実際のところ性感帯は?」ふたりの会話のきわどさにハラハラ。
フィリップは、自らの人生の悲劇の原因となったパラグライダーに、ドリスを誘う。
歯に衣を着せない言葉が
絶望の心と体に響く。

本来なら同じ空気を吸うわけもなかった上流と下流、この「クラス」の違う男二人が生活を共にし、しかもその生活は想像を絶する介護生活なわけですが、そこに巻き起こるカルチャーギャップのおかしさや、ブラックで辛辣な皮肉に満ちた会話のやりとりが、この映画の全てと言ってもいいでしょう。

それらに触れることが、観ていて心地よいから、良質のフランス映画の面目躍如なのだとも言えるのです。

介護の仕事に乗り気でないドリスはのっけから、こう言います。
「そんなに大変で人に面倒かけてる体なら、自分でも死にたいと思ったことはないの?」
フィリップは言い返します、
「死にたくたって体が言うこと聞かないから、自殺も出来ないんでね。」

えてして、病人もこんなウイットのある会話で息を吹き返すものかもしれません。
フィリップは、我が意を得たりとばかり、このおニューなヘルパー、ドリスをお気に入り。

さあ、それからというもの、介護の常識、既成概念を取り崩すドリスは、次々と大胆な行動を起こし、フィリップのみならず、私たち観客を、大いに喜ばせるというわけです。

さて、それから、もっといろいろなことが起き、最強の、この二人の絆がさらに強まり、どんな風に展開するかは、観てのお楽しみ。

ラブロマンスもほんのちょっとは出て来ます。しかし、一見、男二人の物語であるこの映画が、宝石のように輝きだす瞬間を、ぜひともご自分の眼で捉えてみてくださいね。


お約束のフィリップの誕生会は、室内楽の演奏者を呼んで生オケでゴージャスな演出。

マイCDコンポでAW&Fをかけて踊り出し、自分おススメの演出で誕生日を祝福するドリス。
■エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督
オフィシャル・インタビュー&フランス映画祭2012 トークショーより

『最強のふたり』のフィリップとドリスは実在の人物、フィリップとアブデルがモデルです。ふたりの話をテレビのドキュメンタリー番組で知ったオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督が映画化を考案、脚本から製作しました。抱腹の会話を生み出したオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督とは? オフィシャル・インタビュー&フランス映画祭2012のトークショーより、その横顔をどうぞ。

Q:この映画が世界で大ヒットした理由はなんだと思いますか?

オリヴィエ:大ヒットの一番の要因は、この物語のストーリーの強さと素晴らしさにあると思います。これが世界中の人々の感動と共感を呼んだのではないでしょうか? なぜならこのストーリーは実話だからです。本来出会うはずのないふたりが、ありえない形で友情を深めていく……、社会的にも文化的にも対極にある全く違う二人が壁を越えて「最強」になる。こんな物語は、逆に“創作”だったら思いつくはずがありません。

さらに、フランソワ・クリュゼとオマール・シーの2人の役者にも支えられました。ふたりの素晴らしい演技がこの作品をリアルなものにしたと思います。

エリック:映画は予想を越えて世界で大ヒットしました。最初はみんなが少し不安がるようなテーマではあるのですが、結局はみんな楽しく笑って満足して映画館を出て行きます。今、映画は、テレビ番組の競合の問題など、見る人が減っているというような感じもありますが、それでもこの『最強のふたり』のように映画館に人の足が絶えないのは、大きなスクリーンで知らない人たちと暗闇で映画をみて、喜怒哀楽を共有することが何より素晴らしいことだとみんなが知っているからだと思います。


『最強のふたり』今年の『フランス映画祭』で観客賞に輝いた。オープニング上映で行われたトークショーに現れたオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督。

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Q:撮影で大変だったことや、難しかったところは何ですか?

エリック:もともと映画を撮ること自体がすべて大変なことではあるのですが、自分自身にとって今回の映画では、感動と笑いのバランスを常にキープすることを心がけていました。少し下手をすると、低俗になりすぎたり、深くしすぎると、重い物語になってしまう……。今回は、より重いテーマをコメディで描くことで、垣根なくみんなが楽しんでもらえる作品になるように努力しました。

Q:主演ふたりの起用理由は何だったのですか?

オリヴィエ:オマール・シーはもともと私たちの以前の作品に数本出演してもらっていて 非常に素晴らしい人物ということを知ってました。この作品は彼のために書いた映画といっても過言ではありません。これまで彼とは、長く一緒に仕事をしていましたが、オマール・シーはフランスでは大変有名なコメディアンです。普段はTV番組でみんなの笑いをとることが主なのですが、今回の映画では、彼にそれ以外の部分も表現させてみたかったのです。ちゃんとした演技の勉強をしたことはない彼ですが、即興で思いのままに役にぶつかる姿勢に感動しました。

もう一方のフランソワ・クリュゼはオマールとはちがって、フランスで尊敬される舞台出身の実力派俳優です。 この対極のタイプの2人の競演が、まさに本物のアブデルとフィリップを演じることでより現実と近いリアルな感じを出すことができました。
これはこの上ないベストなキャスティングだったと考えています。

Q:フィリップが好きなクラシック音楽、ドリスが 好きなブラック・ミュージックの他、シンプルで哀愁のあるピアノ曲がメインテーマのように使われています。音楽家にはどのようにお願いしたのですか?

エリック:この話は、コメディと悲劇との間にある ようなお話。登場人物のひとりは体が不自由で、も うひとりは社会から外れているドリス。どちらかと いうと、強調するような音楽ではなく、そぎ落とし たような音を望んでいました。音楽をお願いしたの は、インターネットで聴いて好きになったイタリア の作曲家ルドヴィゴ・エイナウディで、フランスで 言うところのガーガーとヴァイオリンが鳴り響くよう ではない、飾り気のないシンプルな音楽を作ってもらいました。コメディから悲劇にすぐ移行できるような。


オリヴィエ・ナカシュ監督。
エリック・トレダノ監督。

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Q:(監督の)おふたりが、好きなシーンはどこですか?

エリック:ひとつのシーンを選ぶのは難しいですが、あえて選ぶのであればオマールがフランソワのために踊るシーンでしょうか?このシーンは脚本段階から構想はあって、オマールには伝えていたのですが、彼は、最初は「踊るのなんていやだよ。」と少し恥ずかしがっていました。撮影になって、「じゃあ、音楽をかけてみて、実際に動かしてみよう。」というところで気軽に始めたのですが、音楽を聞いてオマールは自然と動き出しました。実はあれはその1回のテイクで撮りきったのです。複数のカメラを同時にまわしていたので立体的なシーンにもできました。現場が一体となって撮影している瞬間だったので、実際本編が完成してこのシーンをみても何度も胸にじーんときます。

そして何よりも感動てきなのはオマールが自分のために踊ってくれているのをみているフィリップの演技です。実際は首からが下が動かないですが、彼はまさに、視線や表情だけで「自分も一緒になって踊っている、楽しんでいる!」というのを表現しているのです。本当に素晴らしいですね。

オリヴィエ:エリックが言っていたように(ひとつのシーンを取り上げるのは)本当に難しいですね。

同じシーンでの話ですが、音楽を使った言い合い(バトル)のシーンでしょうか? あのシーンは実際のオーケストラがライブ演奏していたのですが、そのオーケストラの楽曲をつかって、いろいろなクイズやつっこみをするシーンです。音楽ひとつをとっても文学的背景、社会階層がよくわかるなと思いました。あのシーンは脚本を書いているところから想定していていましたが、クラシック音楽で笑いをとるという実験は見事成功しましたね。何度見ても飽きないし、感動します!

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Q:大変な時を生き抜くために大切なことはなんですか?

エリック:どんな状況でも楽観視しながら生きていくことができればいいと思っております。これは実際にフィリップさんの言葉にもあったのですが、彼がいつも言っているのは「息をしているだけで、それだけでありがたいんだ。生きていること自体がすばらしいので、いつも前向きになりたい。落ち込んでいるのはもったいないからね。」ということです。またユーモアを失わないというのも大切だと思っています。

Q:ふたりで監督するのに、良いことと悪いことはなんですか?

オリヴィエ:すべてがデメリットです(笑) それは冗談ですけど、みんななんでふたりでやらないんだろうと思うくらいいいことが多いですよ。脚本を書く時も、撮影の時もふたりのフィルターを通すことができるのでより建設的に物事を進められます。またこうして成功した際は喜びをわかちあうことができ、たとえ失敗したとしてもふたりで乗り越えることができる。まあ、あえていうと収入が半分ずつになるのは悪いことかな(笑)

■エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督 プロフィール

Eric Toledano, Olivier Nakache エリックは、 1971年、フランス、パリ生まれ。オリヴィエは、 1973年、フランス、オー=ド=セーヌ生まれ。思 春期に出会い、ともに映画作りをするようになる。 ’95年に初の短編映画『Le jour et la nuit』、続く 短編『Les Petits souliers』(’99)で実力を認められ る。資金稼ぎのためにクリスマス・イヴにサンタの 格好をして回った経験からインスパイアされたこの 作品に、当時無名でありながら、ガド・エルマレ、 アトメン・ケリフ、ジャメル・ドゥブーズ、ロシュ ディ・ゼムら優れた役者たちを起用。見事クレルモ ンフェラン国際短編映画祭に招待され、パリ映画祭 観客賞を始めとする様々な賞を国内外で受賞。サ マーキャンプの指導員の経験をもとに2002年に短 編『Ces Jours heureux』(出演:ロラン・ドイ チェ、オマール・シー、フレッド・テスト、リオネ ル・アベランスキ、バーバラ・シュルツ)の監督・ 脚本を手がける。この作品はふたりの長編2作目と なる『Nos jours heureux』(06)の基礎となった。 この作品もヒットし、ムードンコメディ映画祭審査 員賞・観客賞、ポワチエ映画祭、サルラ映画祭観客 賞など、多数の賞を受賞する。

’05年、初の長編映画『Je préfère qu’on reste amis (a.k.a Just friends)』の監督・脚本を担当。 この作品でジェラール・ドパルデューと出会い、主 演のジャン=ポール・ルーヴは、観客からも批評家 からも絶賛される。3作目の『Tellement proches (a.k.a So close)』では、家族をテーマにする。出演 はヴァンサン・エルバズ、イザベル・カレ、オマー ル・シー、フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン、 ジョセフィーヌ・ド・モー。4作目となる本作『最強のふたり』は、フランスでの公開以前に、ワイン スタイン・カンパニーの目に止まり、アメリカを含 む世界各国での配給が決定した。

『最強のふたり』

2012年9月1日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、新宿武蔵野館他にて全国順次公開
監督:エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、アンヌ・ル・ニ、オドレイ・フルーロ
音楽:ルドヴィコ・エイナウディ 
原題:Les Untouchables
配給:ギャガ
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