クリストフ・ガンズ監督インタビュー 『美女と野獣』のおとぎ話に託して、フランス映画の粋を見せる。

(2014.10.31)
 ©2014 ESKWAD – PATHÉ PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION  ACHTE / NEUNTE / ZWÖLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS
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名作『美女と野獣』がフランスのクリストフ・ガンツ監督により実写作品となって登場。フランス映画の豊かな芸術表現の伝統を見せつける大人のためのファンタジーになっています。しかし今なぜ、『美女と野獣』なのか? ガンズ監督にお話をうかがいました。
獣にされた王子と美女の物語。

『美女と野獣』と聞くと、どうしてもディズニーのアニメの実写版かと、イメージする方も少なくないでしょう。
ウオルト・ディズニーは65歳で亡くなるまでに、『白雪姫』はじめ『不思議の国のアリス』『シンデレラ』など数々の世界的に有名な童話をアニメにしています。彼によって生み出された女性像はニュー・ヒロインとしてとして愛され、今もすたれていません。アニメ『美女と野獣』は90年代の女性上位時代にふさわしく、粗野で無作法な獣と化した男性を調教するヒロイン像が印象的でした。

原作のフランスの民話『美女と野獣』は王子が魔法で醜い獣にされ、美しく勇気ある娘の愛を得て、人間の男に戻れるかどうかという、悲しくも道徳的なロマンチック・ストーリーとして世界的に知られています。1740年にヴィルヌーヴ夫人が発表し、その後1756年 J・L・ド・ボーモン夫人が短縮版を書き直したそうです。ガンズ監督が採用したのは、ヴィルヌーヴ版とのことで、ちなみにディズニーは短縮版を元にしたそうです。

フランスはもとより世界中で語り継がれるおとぎ話『美女と野獣』の実写映画化。©2014 ESKWAD – PATHÉ PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION  ACHTE / NEUNTE / ZWÖLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS
フランスはもとより世界中で語り継がれるおとぎ話『美女と野獣』の実写映画化。©2014 ESKWAD – PATHÉ PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION  ACHTE / NEUNTE / ZWÖLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS
 
 
ジャン・コクトーの映画化にリスペクト。

いずれにしても、ガンズ監督が意識したのは、フランスが誇る芸術家、ジャン・コクトーの監督作品『美女と野獣』(46)だそうです。

当時、おとぎ話を大人のためのファンタジーにすべく、アート性が際立つ先進的手法を駆使したコクトー作品にリスペクトしつつも、今の時代ならではのフランスの薫り高い斬新さを見せつけるためのチャレンジです。もちろん、ハリウッドをぶっ飛ばせの精神で。

また、ガンズ監督作品『ジェヴォーダンの獣』(01)の主演男優ヴァンサン・カッセルとのコンビ再び、が実現。奇しくも「獣」ものでタッグを組んで世界に殴り込みをかけるかのように、フランス映画の粋を極めた作品作りが堂々のお目見え!と言うにふさわしいでしょうか。

さらには、この映画は、おとぎ話の実写版というだけのものではなく、女性必見のフランス映画と言えそうです。なぜなら、ご存知のとおり、この原作と映画は女性を試すかのようなテーマなのですから。

若さや美しさや、黄金がなくても、女性は男性を愛することが出来るのだろうか?見てくれ9割、イケ面至上主義の今時の風潮を問うかのような作品の出現だと拍手したくなるのは私だけでしょうか? 少女の心に迫るこの原作、良く考えると、寓話として優れているものの、なかなかに残酷な命題。

アナタは主人公の娘ベルになれるのだろうか?

 
 
フランスの原作をデイズニーから取り戻したい。

それにしても、今なぜ、『美女と野獣』なのか?

子供向けアニメの実写版と思われやすいリスクのある題材に取り組んだ理由は? それを回避するための作品作りとは? 興味深いです。そんな知りたいことの数々、幸運にも、直接ガンズ監督にうかがうことが出来ました。

「私が『美女と野獣』を手がけるにあたり、ディズニーアニメの実写化と言われることや、コクトーが、はるか昔に手がけた作品のリメイクであると思われることなどがプレッシャーにならないか、とよく尋ねられたものです。しかし、もっと大きな問題はグローバリズム時代にあって、若い世代は母国のコクトー作品の『美女と野獣』のことを知らないことです。これ以上、フランスの伝統的な素晴らしいおとぎ話をデイズニーの実写版と言われ続けないためにも、今のうちにフランス人の手による最新版『美女と野獣』を作らなくてはと思いました。」

La-Belle-et-La-Bete- Christophe Gans

●クリストフ・ガンズ監督プロフィール Christophe Gans 1960年、フランス、アルプ=マリティーム生まれ。10代の頃から8ミリ映画の制作を始める。FEMISの前身ともいえる映画学校 IDHECで学ぶ。80年代初期には自ら映画雑誌『Starfix』を創刊、批評家としても活動。その後オムニバス映画『ネクロノミカン』(93)で劇場映画監督デビュー。96年には日本の漫画の日仏合作映画化作品『クライング・フリーマン』(96)を手掛け、06年にはコナミの大ヒットゲームを映画化した『サイレントヒル』を監督するなど日本との縁も深く、宮崎駿、三隅研次、五社英雄監督などの日本映画好き。© 2014 by Peter Brune
 
原作の謎に迫る映画作り。

ガンズ監督を揺り動かしたのは、やはり、コクトー作品への大きなリスペクトあってのこと。また、すさまじい勢いでグローバル化が進むヨーロッパ、フランスの今に危機感を感じてのことだと言います。

「原作とは大きく違うデイズニー作品をアレコレ言うことではなく、我々がフランス人として今すべきことは、原作では語られなかったこのおとぎ話の今も謎だらけの部分を解明することです。」

その謎は沢山あると言うのです。

「野獣の怒りを買うベルの父親がなぜ事業に失敗したのか? 王子は何かの代償として魔法をかけられ、野獣にされたがその罪とはどのようなものなのかなど、今こそフランスの古典的物語について解明して行くチャレンジが重要なのです。」

そのチャレンジが、グローバル化に対するオリジナリティを大切にすることに通じることだと、大いに奮起したのだそうです。製作するにあたり原作を研究していくと、なんとギリシャ神話にも通じる壮大な世界に広がっていくのだと。

女性の本音を試すための、純愛ファンタジーのおとぎ話だとばかり思っていたのですが、さすがにフランスの物語は奥深いようです。
「罰として野獣に姿を変えられるというのは、ギリシャ神話の世界観です」

 
ヒロインには、レア・セドゥを起用。

「ヴィルヌーヴ夫人の原作は200ページの長編でオムニバス3作品で成り立ち、その中の一つが『美女と野獣』でした。その後、ボーモン夫人がイギリス人の子供たちにフランス語を教えるために『美女と野獣』を10ページの短編に。その大元にはギリシャ・ローマ神話が流れている。ギリシャ神話では、ゼウスという神が獣に姿を変えて人間を魅了します。そういうものが『美女と野獣』に隠されていたことを知るにつけ、映画化したいという思いは募っていきました。ルーツに立ち戻る、オリジナリティを知るということこそ、グローバル化に対する抵抗なのだと勇気が出ました。」

なるほど、なるほど。子供の頃から良く知っていたつもりの『美女と野獣』が、ギリシャ神話に根付く、おとぎ話だったとは目から鱗です。さらにガンズ監督のイマジネーションで、王子の持つ罪の深さが映画の重要な要素として加えられ、ガンズ版作品は斬新な驚きを持つ作品へとなっていったのです。

ヒントは監督が日頃から動物愛護にも力を注いでいること。この点も観てのお楽しみですが。

さらに、見逃せないのは、現代フランスを代表する映画界のミューズ、レア・セドウの起用でしょう。賢く勇気のある美しきヒロイン、ベルを演じ、古くからのこの物語に新しい息吹をもたらすことに成功しています。

賢く勇気のある美しきヒロイン、ベルを演じるレア・セドゥ。古くからのこの物語に新しい息吹をもたらすことに成功しています。
賢く勇気のある美しきヒロイン、ベルを演じるレア・セドゥ。古くからのこの物語に新しい息吹をもたらすことに成功しています。
 
単なる純愛ファンタジーでは終わらない。

「彼女以外には適任はいないとのこだわりでした。みごとに私の思う新たな美女ベルが生まれたのです。脚本の時点からヴァンサンを野獣に、美女にはレアをと、この2人のために書いた作品でした。彼らでなくては完成は不可能でした。ヴァンサンは『ジェヴォーダンの獣』から一緒に仕事をしている友人で、今回のこの野獣の役は、彼の持っている野生というものを、すべて投影した思いです。

一方のレアとは、今回初めての仕事でした。彼女の魅力はその、表情です。すごく少女っぽいところから、大人の女性までの多くの表情をシーン毎に演じ分けられる才能。演技にも深みがあって最高でした。」

そして監督はつけ加えます。

「つまり、この原作には、多くのテーマが流れ、今の私たちに学ぶべきことも多い。例えば人と自然の関わりとか、人間と神聖なものの関わり。そしてタイトルの文字使いも興味深いのです。美女と野獣 La Bell et la Bêteは韻を踏んでいるし、「BELL」は美女という意味であると同時にヒロインの名前でもある、しかし、実は美しいのは獣であってベルには危険な可能性も帯びており、彼女が獣でもあるのでは? というナゾナゾ的な意味にもリンクしていく。奥深い解釈の余地がある深い作品の映画化なので、充分な見ごたえを感じて欲しいと思います。」

野獣/王子役は持てる野生というものをすべて投影したヴァンサン・カッセル。
野獣/王子役は持てる野生というものをすべて投影したヴァンサン・カッセル。
 
内なる野生を持つ人は、いつも美しい

最後に一つ、意地悪な質問をうかがいました。

ー監督ご自身は、愛する女性が獣の姿になっても、愛せそうでしょうか?

「『美女と野獣』の本当の深い意味を理解すれば、誰もが内に秘める野性っていうのをちゃんと持つべきだと分かります。そういう人は外見を越えて、真に美しいはずです。」

と、さすがの、エレガントな一言をいただきました。

 
『美女と野獣』
2014年11月1日(土)TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー!

出演:ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、アンドレ・デュソリエ、エドゥアルド・ノリエガ、ミリアム・シャルラン、オドレイ・ラミー、サラ・ジロドー、ジョナサン・ドマルジェ、ニコラス・ゴブ、ルーカ・メリアヴァ、イボンヌ・カッターフェルト
監督:クリストフ・ガンズ
脚本:クリストフ・ガンズ、サンドラ・ヴォ=アン
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
美術:ティエリー・フラマン
視覚効果:ルイ・モラン
衣装:ピエール=イヴ・ゲロー
音楽:ピエール・アデノ
編集:セバスティアン・プランジェール
クリーチャー・デザイン:パトリック・タトポロス
配給:ギャガ
提供:アミューズソフトエンタテインメント、ギャガ
原題:La Belle et La Bete / 2014年 / 仏独合作 / 113分 / カラー / 5.1chデジタル / シネスコ
字幕翻訳:丸山垂穂
©2014 ESKWAD – PATHÉ PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION  ACHTE / NEUNTE / ZWÖLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS