『二郎は鮨の夢を見る』
D・ゲルブ監督インタビュー。

(2013.01.30)

『二郎は鮨の夢を見る』は、『ミシュランガイド東京』で三つ星を獲得し続ける有名鮨店『すきやばし次郎』の店主 小野二郎さんに迫ったドキュメンタリー。鮨を握る小野さんの洗練された指先の動き、日々よりよいものを目指そうとする仕事に対する姿勢、味の哲学をクラシック音楽にのせて映像化。鮨+クラシックのマッチングの面白さはもちろん、好きなことを追求できる「仕事」について、シンプルな生き方について考えさせる作品となっており世界で高い評価を受けています。大の日本好きで鮨好きであるデヴィッド・ゲルブ監督インタビューです。

■デヴィッド・ゲルブ監督プロフィール
David Gelb 1983年10月16日アメリカ・ニューヨーク生まれ。父親はメトロポリタン・オペラ総帥ピーター・ゲルブ。南カリフォルニア大学映画制作課程を卒業後、音楽ビデオ、短編映画とドキュメンタリーに取り組む。『シティ・オブ・ゴッド』(’02)のフェルナンド・メイレレス監督作『ブラインドネス』(’08)の製作の裏側を追ったテレビ・ドキュメンタリー『A Vision of Blindness』をフランシスコ・メイレレスと共同で監督して高い評価を受ける。『二郎は鮨の夢を見る』(’11)は初の長編映画。


『二郎は鮨の夢を見る』のデヴィッド・ゲルブ監督。
音楽と映像の融合の
稀有な成功例。

ー『二郎は鮨の夢を見る』では、チャイコフスキーや、モーツァルト、バッハの楽曲が多用されており、しかも最高峰といわれる『すきやばし次郎』の鮨の世界にぴったりであることに驚きました。音楽と映像の融合の稀有な成功例だと思うのですが、なぜBGMをクラシックにしようと思ったのですか?

D・ゲルブ監督 僕の父はメトロポリタンオペラの総帥。だから僕も子供の頃から、父と共に世界をまわったこともありましたし、耳にするのはクラシック音楽でした。二郎さんのような天才を映像にするならば、音楽も天才と呼ばれている音楽家たちの楽曲にすべきだと思ったからです。この手法はうまくいったと思っています。

ー監督は日本も鮨も大好きだということですが、日本に初めて来たのはいつでしょうか? これまで来日は何度くらい?

D・ゲルブ監督 初来日は2歳の時。当時の父は小澤征爾さんが音楽監督のボストン交響楽団で仕事をしていました。その仕事で日本に来ることがあったのです。父と小澤さん、彼らはよい友達でもありました。僕は日本が大好きで、ベビーカーの中でかっぱ巻を食べていたのを覚えているほどです。少なくとも十数回は来ていると思います。またこうして日本に来れてワクワクしています。

ーお父様が芸術家であるだけでなく、お祖父様は編集者という芸術にたいへん造詣の深い一家に生まれたとのことですが、彼らの影響は大きいと思いますか?

D・ゲルブ監督 僕は、父親、祖父とは多くの時間を過ごしてきましたし、僕の人生において非常に大きな影響を及ぼしています。祖父は『ニューヨーク・タイムズ』の編集長でした。祖父と父、ふたりともアクティブな芸術志向があって、僕は子供の頃から演劇、映画やコンサートによく行くようになりました。

父も祖父も、大きな家族愛の持ち主でしたが、同時に仕事に対して情熱的。僕と父はとても密接な関係を築いています、僕のメンター、といったところでしょう。父、祖父に対して大きな尊敬の念を持っていますし、ふたりはいつも、自分のベストを尽くすようにインスパイアしてくれます。ふたりがこの映画を好きだときいた時は、嬉しかったです。

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ーもしお父様の影響があるとしたら、それはどのようなものでしょうか?

D・ゲルブ監督 父は僕をよくコンサートやオペラに連れて行きました。クラシック音楽は僕の全人生、いつもクラシック音楽を聞いてました。二郎さんの仕事を見た時、ちょうど映画の中で山本益博さんが述べていたように、僕の頭の中にはモーツァルトとバッハの音楽が流れていました。映画によって、この感覚を観客のみなさんとシェアできることにワクワクしますね。

絵と音を合わせることができる映画というものが大好きですし、ただ足しあわせただけではない、それ以上のものを作れるところも好きです。


フィリップ・グラスの音楽と『すきやばし次郎』の鮨がマッチするのは想像に難くないが、チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲ニ短調』、モーツァルト『ピアノ協奏曲第21番ハ長調KV.467』にも合うとは。© 2011 Sushi Movie,LLC

「二郎さんならどうするか。」を考えて
よい仕事を目指す。

ー監督はこれまでも『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督を追ったドキュメンタリー『The making-of Blindness』を撮って評価されていますが、ドキュメンタリーというジャンルへのこだわりがありますか?

D・ゲルブ監督 僕はいつもSF、またはアクション映画のような映画を作りたいと思っていたんです。最初はお金のためにドキュメンタリーを撮り始めたのですが、時間とともに教えられたし、だんだんと楽しむようになっていきました。

僕は、すべての映画は、ドキュメンタリーであれ、物語であれ、面白い視点からのストーリー・テリングであることにはかわりはないと気づいたのです。ドキュメンタリーは、他の映画とは実際にあまり異なりません。

『The making-of Blindness』は、フェルナンド・メイレレスという刺激的な監督を、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファエロ、また日本の伊勢谷裕介、木村佳乃といった刺激的な俳優と映画作りをできる素晴らしい機会でした。僕は彼らを観察することにより、非常に多くのことを学びました。例えばフェルナンドを観察することによって僕は、美や意味を構図の中に見出す方法を学びました。

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二郎さんのドキュメンタリー映画を作ることは、僕に人生、仕事の価値を教えてくれました。この作品の編集をしている時、僕たちは「二郎さんならどうするか。」を考えました。彼ならよりよい仕事を目指して、完璧を目指して変わらず働き続けるだろう、そしてそういった彼の哲学は僕たちを強く励ましてくれました。また、この映画によって、その哲学を僕は世界の観客のみなさんとそれを共有することができることにエキサイトしています。

僕にとって、ドキュメンタリーを作ることは、映画を単に作る以上のものです。作品は、僕の旅の記録であり、作品の中に登場する視点は、僕の発見の記録を多いに反映しているものです。


『すきやばし次郎』小野二郎さんの毎日は同じことの繰り返し。しかし、その仕事を愛し、よりよい仕事をすることを目指す。© 2011 Sushi Movie,LLC
卓越したもの、優れたものに対する情熱は
日本ならでは。

ー監督はお寿司が大好きのとのことですが、鮨以外で日本の文化、そのほか興味があることは?

D・ゲルブ監督 僕は、“職人”の考え方が好きです。専門技術と大変な仕事、そこにはお金とは別の本物の価値があると思います。

そのほか日本で好きなこと……日本の食べものはすべて好きです。納豆を除いてですけど。鮨はウニが好きです、焼き肉とラーメン。それからニンテンドーなどゲームも大好きです。……日本の建築、技術も好きです。映画についていえば『アキラ』は僕が6歳だった時に見て、好きな映画です。さらに、宮崎(駿)と黒沢(明)の映画も好きです。3歳の頃、将来なりたいものはサムライか『パワー・レンジャー』でした。

ー監督は海外を旅行する機会も多かったと思うのですが、海外から見ると、日本はどのような国であると思いますか?

D・ゲルブ監督 ひとりの外国人として日本の文化に深い敬意を持っています。大震災は大きな悲劇でした、震災だけでなく核災害によって引き起こされた恐怖、そして苦痛は、さらにそれを増幅させました。僕も心から震撼し、非常に悲しかったです。

僕はすべての人類はよいものに向かう大きな力を持っていると考えるのです、無責任にそのパワーを使うと破壊へと向かってしまう恐ろしい可能性もありますが。僕達は、環境と僕たち自身を責任もって取り扱うこと、長期視野を持つこと、短期的目標によって盲目にならないことが求められているのではないでしょうか。

ーほかの国と比較して、日本人の大きな特徴はどのようなところだと思いますか?

D・ゲルブ監督 僕はすべてのタイプの人々がすべての異なる国々にいると思うのですが特に日本には、美的感覚と、細部までこだわり注意を払うという志向が歴史的に見てもあると思いますね。卓越したもの、優れたものに対する情熱があり、それは日本ならではのものだと思います。


「おいしいとは何か?」という質問へ小野さんの答えから物語はスタート。「いまだに完璧とはおもっていない。」「(ジョエル・)ロブションさんの舌と鼻の感覚はすごい。」という興味深いセリフの数々が登場する。後半では「おいしい鮨とは?」について語る。© 2011 Sushi Movie,LLC
『二郎は鮨の夢を見る』

2013年2月2日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国順次公開。

製作・監督・撮影:デヴィッド・ゲルブ
製作:ケヴィン・イワシナ/トム・ペレグリーニ
出演:小野二郎、小野禎一、小野隆士、山本益博
© 2011 Sushi Movie,LLC
2011年/アメリカ/英語字幕/カラー/82分/HD 原題:JIRO DREAMS OF SUSHI 
配給:トランスフォーマー

第61回ベルリン国際映画祭カリナリ・シネマ部門正式出品作品
ストックホルム国際映画祭2011正式出品作品  
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