映画『イヴ・サンローラン』主演 ピエール・ニネ インタビュー 「早熟性がイヴとの共通点。」
(2014.09.07)公開中の映画『イヴ・サンローラン』。ハイブランドの創設者で伝説のファッション・デザイナーの主人公イヴのデビューから30年を演じたピエール・ニネさん。役作りについて、そして映画のみならず演劇、テレビとクロスオーバーなその活動についてお話をおうかがいしました。
イヴ・サンローランの声に
すべては現れている。
ー繊細でシャイ、とても魅力的なイヴ・サンローラン像を作り上げています。優しく遠慮がちな眼差し、エレガントな動き、が印象的でした。これらはビジネス、プライベート 公私に渡って彼のパートナーであったピエール・ベルジェさんや友人の方々に取材して作り上げていったものでしょうか?
ピエール・ニネ:そうですね、ピエール・ベルジェさんのほか、30年以上サンローランのアタッシュ・ド・プレスとして勤務されていた方、モデルのベティ・カトルさん、など近しい人々にインタビューを行いました。役作りには5ヶ月かけました。ひとつの役にこれほど長い時間をかけて臨んだことははじめてです。
ファッション画についてはデッサンのコーチ、布の扱い方やドレスがどのように出来上がっていくかはファッションのコーチ、作品の中でだんだん年齢をとっていくので加齢がもたらす肉体的な変化、経年変化につてはフィジックのコーチ、と3人のコーチについて教えてもらいました。
あとは、観察する、見る、ということ。ドキュメンタリー、写真、インタビュー映像などを観て観察しました。生前の彼の声の録音をiPodに入れて1日2~3時間聞いて、彼の話し方を体得することに勤めました。
その人物を具現化「インカーネーション Incarnation」することが重要でした。本人に似ているかどうかより。その時に一番重要と思われたのは彼の声でした。声がこの人物に入り込む一番の入り口だと思いました。彼の声にはその人物像がすべてそこに現れている。小さい声で弱々しく話すところには彼のシャイな面、彼の言葉の選び方やポエティックな話し方をするところに彼の知性、魅力が現れていると考えたからです。
ーデザイナーとして華々しい名声を得るほどに、深まる苦悩を描いたシーンは痛々しいほどでした。彼の人生で共感したところは?
ピエール・ニネ:僕との共通点はあまりないです。だから5ヶ月の時間をかけて役作りをしなかればなりませんでした。しいていえば早熟、若くして仕事を始めたというところ。彼は若くしてファッション・デザインの仕事をはじめました。僕も早い時点から芸術、クリエーションに興味がありました、そこが共通点。共通点は少なくても、彼の人生に起った様々なできごとは僕の心の琴線に触れるところが多かったです。
有り余るエネルギーを
演劇に昇華させること。
ーあなたの経歴には11歳で初舞台とあります。小さい頃から俳優になりたかったのでしょうか? 子供の頃はどんな子でしたか?
ピエール・ニネ:僕は子供の頃、エネルギーに満ち溢れすぎている子供でした。その意味では舞台が僕を救ってくれたといえる。有り余るエネルギーを演技に費やすことができたので。リセ・クロードモネに通っていた頃、アクティビティ選択でIT関係と演劇どちらか、というのがあって、僕は演劇を選びました。そこでとてもよい先生との出会いがあり、それが演劇を志すきっかけになりました。そこでゴルドニー(Carlo Goldoni)の『扇 L’Éventail』、ジョン・ミリントン・シング(Jon Millington Synge)の『西国の人気男 Balladin du monde occidental』のバランドンを演じました。その後もよい先生との出会いに恵まれていたと思います。
ーお父上のフランソワ・ニネさんはドキュメンタリー映画監督で、映画学校FEMISはじめ映画を教える大学教授である、とあります。その影響は大きいですか?
ピエール・ニネ:イエスとも言えるし、ノーとも言えます。イエスという意味では、環境というのは人間が成長するにおいて大きく作用するという意味です。教育環境として家には映画がいっぱいあったことなど、無意識に影響を受けていると思います。ノーという意味では、父は能動的に映画や演劇の道を僕に薦めるということはありませんでした。もちろん励ましてくれることはありましたが。中には父があまり薦めなかった映画に出演して、自分がよかったと思うものもありました。
映画、演劇、テレビの仕事が
自然にクロスオーバーする流れ。
ー2010年、21歳でコメディ・フランセーズに史上最年少で準座員になります。それ以前07年に映画『Nos 18 ans』、’11年『J’aime regarder les filles』、’12年『Comme des frères』に出演。セザール賞にもノミネートされました。’13年『20 ans d’écart』は大ヒット。同じ13年に演劇に戻ってラシーヌの『フェードル』でイポリット役を勤めました。映画と舞台、どちらを強く意識してお仕事されているのでしょう?
ピエール・ニネ:そこには書いてありませんが、13年の前の年も、その前も演劇作品には出ています、コメディ・フランセーズに入る前にも舞台はやっていました、演劇をやらなかった年というのはないのです。映画と演劇、両方に興味があります。
ー昨年からはテレビシリーズ『Casting(s)』を監督、出演もしています。映画、演劇、さらにはテレビまでというクロスオーバーな活動をされていますが、このスタイルはこれからも続けて行きますか?
ピエール・ニネ:僕はミックスさせるのが好きなんですね。(笑)いくつものことをやることは悪くないと思います、僕は人のために書くのも好きだし、自分のために書くのも好きです。そして書いたものを監督する、というのも自然に生まれた流れです。でもテレビよりは映画に惹かれます。映画は役作りに充分な時間をとれることが多いですから。テレビでもシリーズになると資金が潤沢にあること、準備期間もあること、それは興味深いと思っています。
『イヴ・サンローラン』
2014年9月6日(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他全国ロードショー
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー
監督:ジャリル・レスペール
脚本・脚色:マリー=ピエール・ユステ、ジャリル・レスペール、ジャック・フィエスキ
製作・ワシム・ベジ
撮影・トマス・ハードマイアー
オリジナル・スコア:イブラヒム・マルーフ
プロダクション・デザイナー:アリーヌ・ボネット
衣装デザイナー:マデリーン・フォンテーヌ
原題:IVES SANTLAURENT
字幕:松浦美奈
配給:KADOKAWA
© WY productions – SND – Cinefrance 1888 – Herodiade – Umedia
2014 / フランス / カラー / シネマスコープ / 5.1ch / 106分