映画の未来を予感させる映画祭、第10回目東京フィルメックス。お隣の国からのアートなパワーがすごい!?

(2009.12.01)

毎年アジアの優秀な監督作品を、素晴らしいチョイスで楽しませてくれる東京フィルメックス。カンヌやベネチア映画祭で評判になった作品も、ここで観ることが出来ます。とにかく、監督主義。北野武監督も応援してくれている、本物の映画と出会える9日間だったのです。10回目という節目を迎える今年は、11月21日~29日の9日間に渡り、大盛況で幕を閉じました。その報告レポートをいたしますね。

来年5月から1年間、ルーヴル美術館でも鑑賞可能なので、観たい方は旅行の計画を立てては? 『ヴィザ-ジュ』 監督 ツァイ・ミンリャン、出演 リー・カンション、ジャン=ピエール・レオ、ファニー・アルダン

アジアを中心とした世界中から、観終わった後も揺さぶられ衝撃ももらってしまうことが多いのですが、今年はなんといっても、中国や台湾勢の作品がアート的で驚きました。オープニング作品だったツァイ・ミンリャン監督の『ヴィザージュ』がすごかった。なんと、ルーヴル美術館のオファーを受けて撮影し、今後は美術品として収蔵されるそう。映画がルーヴルの美術品として収蔵されるなんて前代未聞。美術館の歴史上、ニューなことですよ。筋道立ったストーリーを観るというよりは、映像の美を楽しむために作られたシュールな作品。しかし、中国といえども、これはおフランスな演出で、ゴダール映画のスター、ジャン=ピエール・レオや、ジャンヌ・モロー、ファニー・アルダン、マチュー・アマルリック、など、フランスを代表する俳優たちが協力的に出演しているところも、すごいことです。映像の芸術作品を観れるなんて、すごく得した気分でした。観る者は、自由にイマジネーションを膨らませ、自分の日常に取り込む。そんな意味で、この『ヴィザージュ』は観た人の中に入っていき、震動を続ける映画でもありました。じわじわと、まだ侵食してきてます。日本での配給はまだ決まっていないから、ご報告ばかりですみません。ルーブルで観ていただくしかないのです。

『春風沈酔の夜』監督 ロウ・イエ/出演 チン・ハオ、チェン・シーチェン、ウー・ウェイ。
勇気ある監督の作品が中国の映画館で上映されることは今現在ないそうで日本での上映はどうなるか期待されるところ。Photo/Reiko Suzuki

中国侮れないぞと思い、早速、映画祭のトークイベント、「水曜シネマ塾~映画の冒険~」の中でも、ロウ・イエ監督の回に潜入。彼は、今回映画祭のでコンペティション部門の審査員も務め、自身の作品『春風沈酔の夜』も特別招待作品として上映されました。彼は、一見グローバル化が進んでいるように思える中国での厳しい検閲当局に挑み、今年のカンヌ国際映画祭では、当局を無視して撮った、フランス・香港合作『春風沈酔の夜』がコンペティション部門で上映され、みごと、脚本賞に輝きました。中国ではまだまだタブーの同性愛を描き、私も観たときはクラクラッときました。中国人の好漢が絡む……、新鮮です。中国国内ではタブーでも、外国では評価され、「どうだ!」という感じでしょう。映画祭の力が発揮されるのはこういうことでもあるのです。世界に主張してしまえば、表現の自由は叶えられるのですから。中国映画の秘めたるパワーを見せつけられました。

それにしても、ロウ・イエ監督の次回作は中国の女性がパリで恋する模様を描くものだそうで、映画大国フランスと中国映画の良い関係は広がって行きそうです。日本も頑張らねばという感じです。ちなみにロウ・イエ監督はクリクリ坊主頭の眼がきらきらした人。今回のカンヌで脚本賞をとったわけですが、実は脚本が完成する前に撮影をスタートさせ、同時進行で作品が出来上がったことや、いろいろなエピソードをトークしてくれました。他とは全く違った、本物指向の映画祭が、東京フィルメックス。しっかり映画のお勉強が出来た気がします。

 

写真をお願いしたところ、お忙しいにも関わらず、気さくに応じてくれた優しい監督です。