1本のシネマでも幸せになれるために – 7 - 次々と問題作を演じるケイト・ウィンスレットを、大女優の座に決定づけた『愛を読む人』。

(2009.06.19)
スケール大型で、親子のように見えてしまい。今後の相手役には苦労しそうな、ウィンスレットは、ヌードも迫力でした。

のっけからまた、手前味噌の話で恐縮ですが、「自由でうんざり」ってフレーズ、いいでしょう? 手前味噌とは、私メの会社が、フランスと共同製作した『サム・サフィ』のキャッチフレーズなんです。公開を記念して一般公募した結果、映画の気分と時代の気分の両方を、上手に表現し最優秀賞を獲っただけに、なかなかに言い得て妙な表現です。自由が手に入らない時、自由ほど渇望されるものはないが、自由になったとたん、自由であることがうっとうしくなる。そんな感覚を実に言い得ている。今風に言えば、「自由がウザイ」ってなことですね。作品公開当時の90年よりこんなに時間が経った今も、今こそと言うべきか、ますますリアリティを持って、訴えかけてくるように思うのです。

それほどに、何をするにも自由あり過ぎの今、女子にとっては、結婚する自由、しない自由、離婚する自由、しない自由、仕事する自由、しない自由、何でもありの自由気ままな時代に、映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』のケイト・ウィンスレット演じた主人公は、羽をもがれ、自由を奪われた籠の中の鳥のような女性像を演じ切って、高く評価されました。それにしても重いテーマでしたねー。輝けるアメリカ50年代の、実は知らされることなく、ダークサイドに追いやられていた女性たちの所在を明らかにし、自由過ぎる今を告発するかのような問題作でありました。しかし、観たほうからすると、今を反省するどころか、辛過ぎて、辛過ぎて、さすがの私メも、めげそうでした。「自由な時代に生まれてよかったー」と胸なでおろしたりして。でも、こんなに重い現実を、見事に演じきれる女優は、そうはいないって思わされたことも事実。

だから、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞に値するのですが、さらに同賞の何と助演女優賞まで獲った、『愛を読む人』は、当然と言おうか、アカデミー賞主演女優賞に輝き(これがゴールデン・グローブ賞の場合、どこが助演女優なんだか、未だ納得がいきませんが)、重い、重いテーマはこの女優にお任せ、とばかり、これも過去の時代を告発し、証言するかのような内容に、リアリティーを見せつけてくれる最高の演技。さらに、おっきくなっちゃったケイト様なのです。

この2作品を観て思うのは、この女優さんはスケール大きく、体も大きく、共演の男優が小さく見えてしまうことも事実、ではありませんか? 『タイタニック』の時にすでにそう感じさせたのも、デカプリオが童顔のせいかもしれませんが、『レボリューショナリー』では、ますますデカプリオ、子どものように思えてしまって……、彼女と並ぶと。

思えば、この女優さんは、デビューの時からオーラがありました。そして、スタートも、問題作でしたね。あの、『ロード・オブ・ザ・リング』の監督、ニュージーランド出身のピーター・ジャクソンの初期の作品、『乙女の祈り』に主演したのでした。光ってましたね、始めから。実際に起きた物語の映画化で、そりゃあ問題です、母親殺しの話ですから。多感な年頃の女学生二人。仲良しすぎて同性愛ではという噂が立つ。母親はこのことを重くみて、2人の友情を断ち切ろうとする。で、「さぁ、愛の為にママを殺そう」というキャッチ・フレーズも生まれるわけです。94年ベネチア映画祭銀獅子賞に輝きました。

よく考えてみれば、シリアスな問題作をリアリティーを感じさせながら大女優の風格も感じさせ、観る側に満足感を与えられる女優として生まれて育って成長して行くことが、運命づけられていた気がします。今や、かつてのメリル・ストリープに匹敵する存在といってもいいでしょうか。そして、その大先輩をも制して、アカデミー賞主演女優賞を獲得してしまったというわけ。世界を代表する大型女優のお墨付きを見せつけたのでした。

それにしても、今回のアカデミー賞発表の主演女優賞のプレゼンテーションは、華やかでしたね。歴代の受賞女優が、今回ノミネートされてる女優の各人のプレゼンターとして祝福しながら壇上に揃い踏みして、華やかなことといったら、夢の競演でしたね。お互いがライバルであるにもかかわらず、受賞が決まったウィンスレットにエールを送り、大女優の座に送り出す。この大人の振る舞いはそうそう真似できるものじゃない。顔で笑って、おなかで嫉妬して。であったとしてもさすがは女優の皆様。祝福演技は天下一品じゃ。どこかの国の政治家連に真似て欲しいくらい。滅私精神で仲間を立てることなど忘れ、内部分裂もはなはだしい。オレ、オレと自分が一番になれないとむくれちゃう。「お業界全体のこと考えたら、仲間割れしている場合じゃないですよ」と、プロ意識に徹するハリウッドの女優たちは教えてくれてますよ。

ケイト・ウィンスレットを推す、マリオン・コティアール、メリル・ストリープは、ソフィア・ローレンに、アン・ハサウェイをシャーリー・マクレーンが、アンジェリーナ・ジョリーは、ニコール・キッドマンに、メリッサ・レオはハル・ベリーから……という風に祝福されて、結果、ウィンスレットが勝利した時には、大拍手、握手もありで大団円となることに、私たちは感動して、涙さえしてしまう。たかが映画のことなのに、このプロ根性の演出には脱帽し、涙してしまうのです。

大女優誕生を祝す意味でも、この作品は観るべし。デカプリオと共演しているというのに、やっぱり『タイタニック』みたいなエンターテインメント性がないからと、『レボリューショナリー』を、勝手に観逃してしまったアナタは、特に、観るべきなのですよ。

デカプリオとの共演なのに、シリアスだと『タイタニック』のような大ヒットにならないなんておかしい! 『レボリューショナル・ロード/燃え尽きるまで』スペシャル・エディション 3,990円(税込)販売元 角川エンタテインメント
キャッチ・フレーズが問題作ムードを盛り上げた、『乙女の祈り』。DVD 販売元 松竹ホームビデオ
かなり重いそうですが、オスカー像。ヴィクトリア・ポーズも威風堂々という感じのウィンスレット。自由の女神って風格も?
ベルリン映画祭にて。撮影/Pascal Le Segretain

 

『愛を読む人』

監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デビッド・クロス、 レナ・オリン、ブルーノ・ガンツほか
2008年/アメリカ/カラー/124分
提供 ショウゲート、博報堂DY メディアパートナーズ
配給 ショウゲート/6月19日(金)よりTOHOシネマズ 、有楽町スカラ座ほかにて全国ロードショー予定。