伝説の写真集『エヴァ』が映画に。E・イオネスコ監督『ヴィオレッタ』

(2014.05.26)

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エヴァ・イオネスコの自伝的物語から
フレンチ・ロリータの新星 アナマリア・ヴァルトロマイが登場。

1970年代、フランスでイリーナ・イオネスコが発表した写真集『鏡の神殿  Temple aux Mirios』(のちに『エヴァ EVA』として再発)。実の娘 エヴァをモデルに撮影したもので、その圧倒的な美の世界は高く評価されました。しかし、幼い娘にあられもないポーズをとらせたこの作品は、倫理的論争を呼ぶスキャンダルにもなりました。公開中の映画『ヴィオレッタ』は、それから30余年の歳月を経たエヴァ・イオネスコが当時の体験をもとに脚本・監督を手がけた自伝的作品です。撮影当時10歳だった主演のアナマリア・ヴァルトロマイは、劇中清楚な美少女から艶かしい妖婦然としたティーンへと変貌するヴィオレッタを熱演しました。今だ15歳。「フレンチ・ロリータの新星」と評されています。

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来日時のエヴァ・イオネスコ監督(左)と、主演のアナマリア・ヴァルトロマイちゃん。
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最初は喜んでモデルを引き受けていたヴィオレッタ(アナマリア・ヴァルトロマイ)。

物語は家の近所で少女らしく遊びに興じるヴィオレッタ(アナマリア・ヴァルトロマイ)の姿から始まります。敬虔なギリシャ正教徒の祖母マミー(ジョーゼット・リーフ)とともに暮すヴィオレッタを思い出したように尋ねる母のエヴァ(イザベル・ユペール)。エヴァは元々画家でしたが鳴かず飛ばず。友人の画家エルンスト(ドニ・ラヴァン)からカメラを譲り受けたことをきっかけに写真をはじめます。その被写体は娘 ヴィオレッタ。衣装を着せ、退廃的なセットの中で、独創的な世界の主人公を演じさせるのです。最初は母を喜ばせたい一心で喜んでモデルを引き受けていたヴィオレッタですが、写真のことで学校でいじめられたり、嫌なポーズを強要する母に耐えられなくなって行き……。

イザベル・ユペール演じる母 アンナの
気の毒な不器用さ。

ママに愛されたい、でも普通じゃないママは嫌い、そして私を利用するママはもっと嫌い……母に対する複雑な思いをヴィオレッタ役のアナマリア・ヴァルトロマイは、その信じがたい美貌、それとは裏腹な爆発的なエネルギーを発する演技で見事に表現しています。さらに注目したいのはイザベル・ユペール演じる母 アンナ。母として娘を愛している、大切に思っている。しかしそれと同じくらい、それ以上に芸術家として「何者かになりたい」。そしてその成功を自分の母 マミーから認められたい、娘としてのアンナ。母であり、娘であり、アーティストでもありたい。そんな願望をうまく実現できないアンナの不器用さが気の毒です。

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母アンナ(イザベル・ユペール)にも大きな葛藤があった。
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イオネスコ監督は自身がモデルであった『EVA』の世界を圧巻の映像美で再現。当初、この作品は映倫よりレイティング「区分指定適応外」の判例を下されましたが、配給側は再審を申請。その結果R15+のレイティングに。

「(マミーに)存在を否定されると立ち直るのに丸一日かかる。」というアンナの不安定なキャラクターの大きな要因となる、過去の不幸な出来事も物語の進行とともに明かされていきます。冒頭の登場からキラキラのヘアアクセをつけ、時代がかったドレスファッション。「世の中はアホばっかり。私たちは凡人とちがうのよ。」というのが口癖のエキセントリック・ママ アンナですが、彼女がヴィオレッタをモチーフに作り上げた「鏡の神殿」の世界は圧巻。写真集ではモノクロームの表現であるものを、映画ではオールカラーに。クロスオーバーで斬新なコーディネートで定評のあるキャサリン・ババのスタイリングで新たに蘇る、残酷な映像美です。

『ヴィオレッタ』
シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

監督:エヴァ・イオネスコ
脚本:エヴァ・イオネスコ、マーク・チョロデンコ、フィリップ・ル・ゲイ
出演:イザベル・ユペール、アナマリア・ヴァルトロメイ、ドニ・ラヴァン
撮影:ジャンヌ・ラポワリー
衣装:キャサリン・ババ
音楽:ベルトラン・ブルガラ
製作:フランソワ・マルキス(Les Productions Bagheera)
原題:My little Princess
字幕:神田直美
提供:メダリオンメディア
協力:ユニフランス
配給・宣伝:アンプラグド
R15+
2011 / フランス / 106分 / カラー
© Les Productions Bagheera, France 2 Cinéma, Love Streams agnes b. productions

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