人生に行き詰まったら「水道の蛇口をひねれ?!」 摩訶不思議でキュートなスーパーハイテンションムービー『インスタント沼』の登場です!!

(2009.05.23)

 

ストーリーは……

担当していた雑誌が休刊になり、出版社を辞めることになった編集者の沈丁花ハナメ(麻生久美子)。好きな男にも振られ、ドロ沼のようなジリ貧人生をやり直そうと身の回りの荷物を処分した矢先に衝撃の手紙を発見!そこには、ハナメの実の父親が「沈丁花ノブロウ」という全く知らない男だと書かれていた。あわてて母親(松坂慶子)に聞いてみるが、母親は河童を探しに行ったとかで池に落ち病院に運び込まれてしまう。

母親を見舞った後、事実を確かめようと、手紙を頼りに「沈丁花ノブロウ」を訪ねる。しかし、そこにいたのは“電球”(風間杜夫)と名乗るうさん臭い骨董屋「電球商会」の店主だった。 怪しげな彼を自分の父親とは認めたくないハナメ。だが、そこで出会ったパンクロッカーのガス(加瀬 亮)に「2人とも顔がそっくり」と言われてガッカリ。

電球との距離が徐々に縮まっていくうちに、ハナメはいつしか骨董の魅力にもはまっていき、骨董屋を開くことに。やがて本当の父親かもしれないという気持ちが芽生え始める。

 

 

 

実は三木聡作品って、『時効警察』を除いては、イマイチ乗りきれなかったんですが、(といっても観たのは『亀は意外と早く泳ぐ』と『転々』だけですが)この映画、かなりツボでした。麻生さん演じる主人公のハナメも、杜夫扮する電球のオジサンも、意表をついたモヒカン頭の加瀬ならぬガスも、とにかくみんな、素晴らしい!
ハナメの衣装がステキすぎて、思わずダカーポの記事で見た『Lamp harajuku』まで行っちゃいましたよ。
 
さすがファッション誌の編集長だけあって? ハナメが次々着替える服がどれもこれも見たことないくらいキュートなのです。言ってみれば、思い込みが激しく意地っ張りだけど、どこか憎めない沈丁花ハナメのキャラそのもの! 会社ではパフスリーブのブラウスにパンツスタイルが基本ですが、胸にはピンクの花をあしらったり、小物使いがイチイチ可愛いくて、眺めているだけでシアワセな気分に。レトロな柄のスカーフや帽子で髪をアレンジしては、おもちゃみたいなアクセとカゴを手にしたりと、一筋縄ではいかない感じがハナメのお洒落上級者っぷりを物語っております。
 
この映画、奇想天外なストーリーでありながらも、いままで以上に要所要所に小ネタが効いてて、思わずふきだすシーンがあちこちに仕掛けてあり、油断も隙もございません。
 
たとえば、編集者ハナメとふせえり扮するライターの市ノ瀬さんのやり取り。
 

「あぁ~あ、なんだもな~」
「違います、なんだもな~じゃなくって、なんなもな~。」

「なんなもなぁ~」がもたらす、この脱力感は一体なんなんでしょう。
コトバって、いつもと語尾をちょっとかえてみるだけで、ぜんぜん違って聞こえるから不思議です。あたかも日常に非日常を取り入れる風穴のよう。以前、マンネリ化した関係を打破するために、相手の呼び方を変えてみた事がありましたが、それよりもこれは意外と新鮮でした。おススメです。
 
コトバだけじゃなくて間の取り方や会話の切り返しが醸し出すユルい笑いって、実は緻密な計算に基づいているのでは? だって、無駄なところが一切ないんだもの。
ハナメがアゴをブンブン振り回してガスにガン飛ばしながら見得を切る次のシーンのアンバランスさもたまりません。つぎはぎデニムのロングスカートにTシャツという、ハナメにしては比較的シンプルないでたちながら、オレンジに緑の花のネックレスに、おなかの緑のリボン模様、髪に結わいた花柄のスカーフのうす緑が絶妙です。

「パンクのくせに常識とか言ってんじゃないわよー」
「なんだー?」
「だってさー、パンクでしょー? パンクだったらパンクらしく、非常識なことしてみなさいよー」

また、電球のおじさんにハナメが自分の宝物を見せて、その物差しで相手の審美眼を見極めるシーンも印象的です。

「なんだこれ?」
「折れた釘です。」
「折れた釘? ……いい釘だな!」
「ですよね?」
「すばらしい! このサビ具合といい曲がり具合といい、これ以上の折れ釘はないな。」
「わかります?」
「これはあれだ。みんなの理想の折れ釘だ。」

ハナメの母親役の松坂慶子がしきりと「たまにはありえないものも見てみなさいよ」と娘を諭してるかと思えば、電球のオジサンも「おまえは自分が信じるものしか見れないからダメ」と一蹴している。このふたり、なんだかよく似ています。ハナメはハナメなりの哲学で突き進み、半信半疑ながらもふたりの話していた「信じられないもの」と遭遇するのですが、これは電球のオジサンやガスとのやりとりで、ハナメの中の固定概念が揺らいだからかもしれません。
ハナメはこの物語の中で幾度も

「あぁ~っ、わかった~~!!!」

とすっとんきょうな声を上げては何かに思いあたり、即行動に移します。

「人間は信じられないものも見えるからいいんだよ。」

 一見胡散臭げな電球のオジサンのこのコトバ、説得力があります。
人生ぱっとしないときもある。そんなときにはオジサンにだまされたと思って、水道の蛇口をひねってみれば、見たことない世界が目の前に突如広がりはじめることでしょう。
「ありえないもの」の存在を受け入れてみると、きっと人生の新たな扉がひらくのです。

 

『インスタント沼』
5月23日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国ロードショー!

監督・脚本:三木聡  
出演:麻生久美子、風間杜夫、加瀬 亮、松坂慶子、相田翔子、笹野高史、ふせえり、白石美帆、松岡俊介、温水洋一、宮藤官九郎ほか
音楽:坂口修 
撮影:木村信也 
コスチュームデザイン:勝俣淳子 
ハナメ・コスチュームデザイン:山瀬公子 

製作:アンプラグドフィルム 角川映画 ポニーキャニオン シネマ・インヴェストメント
主題歌:『ミス・イエスタデイ』YUKI(EPICレコードジャパン)  
小説「インスタント沼」三木聡・著(角川書店刊) 
共同配給:アンプラグド/角川映画

2009年/日本/120分/アメリカンビスタ/DTSステレオ 芸術文化振興基金助成事業
http://instant-numa.jp 
Ⓒ2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ