ちょっと変わっていても、家族。
映画『キッズ・オールライト』。

(2011.04.28)

2010年のサンダンス映画祭で上映され話題となり、ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門において、作品賞と主演女優賞(アネット・ベニング)の2部門を受賞。アカデミー賞にも4部門ノミネートされたリサ・チョロデンコ監督最新作『キッズ・オールライト』。

アネット・ベニングとジュリアン・ムーアが同性結婚をしたカップルに扮し、『アリス・イン・ワンダーランド』で主役のアリスを演じたミア・ワシコウスカと『センター・オブ・ジ・アース』のジョシュ・ハッチャーソンとが異母兄弟を演じる異色作ではありますが、描かれるテーマはいわゆる「普通」の家族が直面する「家庭崩壊」の危機と、あまり変わりがありません。

なぜなら、一見特殊な設定と見せかけておきながら、アネット・ベニング演じるニックが一家の父親の役割を果たし、実質的な母親はジュリアン・ムーア演じるジュールスだから。遺伝子上の父親がいったいどんな人物なのか興味を持った子どもたちが、両(母)親に内緒で接触を図ったことがきっかけで、平和だった一家に波紋が広がり始めるのも、実際には父親が二人になることで生じる家族のバランスの問題であるといえるのです。

家族になるのではなく、家族にしていく。

あくまで生物学的な繋がりしかなかった男性ポール(マーク・ラファロ)が、一家と一緒に食卓を囲み、お互いの共通点や相違点を確認しながら次第に交流を深めていくこと自体、不思議な光景に映るかもしれません。でも、そもそも男女間の「夫婦」ですら、もともとアカの他人であることには変わりがなく、たんなる友人関係であっても、何かしらのきっかけがあって知り合い、意気投合したり決別したりするのだから、血縁だけが特別なわけではないのは明らか。

子どもが成長して、第2の人生を歩みだそうとする「夫婦」が、次第に感じ始める違和感。ジュールスが新たに始めた仕事をなんとか軌道に乗せようと応援するものの、彼女の発する変化に気付かず、いつのまにか自分の居場所がなくなったような悲しみに沈むニックの表情が、男性という役割の影に潜む女性性を見事に表しているといえます。

『キッズ・オールライト』は、決して誰もが自然に「家族になる」訳ではなく、大切な人を悲しませないように、長い時間をかけて少しずつ形を変えながら「家族にしていく」ものだと気付かせてくれる映画です。


『キッズ・オールライト』

監督・脚本:リサ・チョロデンコ
共同脚本:スチュワート・ブラムバーグ
製作:ゲイリー・ギルバート
プロデューサー:ジェフリー・レヴィ−ヒンテ、セリーヌ・ラトレイ、ジョーダン・ホロウィッツ、ダニエラ・タプリン・ルンドバーグ、フィリッペ・ヘルマン
撮影監督:イゴール・ジャデュー=リロ
音楽監督:カーター・バーウェル
出演:アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカ
配給:ショウゲート
http://allright-movie.com/
2011年4月29日(金)、シネクイントほか全国ロードショー