ラテンビート映画祭『解放者ボリバル』ラテンアメリカの革命文化の〈グランド・ゼロ〉ここにあり!

(2014.10.10)
『ラテンビート映画祭 2014』より。『解放者ボリバル』LIBERTADOR 監督:アルベルト・アルベロ、出演:エドガー・ラミレス、マリア・バルベルデ、イワン・リェオン 2013年 / ドラマ / ベネズエラ・スペイン / 119分
『ラテンビート映画祭 2014』より。『解放者ボリバル』LIBERTADOR 監督:アルベルト・アルベロ、出演:エドガー・ラミレス、マリア・バルベルデ、イワン・リェオン 2013年 / ドラマ / ベネズエラ・スペイン / 119分
スペインはじめラテンアメリの新しい才能をいちはやく紹介する『ラテンビート映画祭 2014』。10月13日(月)まで新宿・バルト9で開催中です。東京会場で上映される17本のうち、東京〜大阪〜横浜と巡回する作品から『解放者ボリバル』をご紹介します。ラテンアメリカの自由のために身を捧げた革命家というとチェ・ゲバラを思い出すかもしれませんが、シモン・ボリバルこそその先達だったのです。

おぼっちゃんから革命の戦士へ。
英雄の悲劇的宿命の物語。

主演は『チェ28歳の革命』(’08)、『カルロス』(’10)でも好演のエドガー・ラミレス。野性味のある演技で現在はハリウッドでも大活躍です。

映画の原題は『Libertador(リベルタドール)』。これはシモン・ボリバル(シモン・ボリーバル)に与えられた称号のようなもの。ボリバルを呼ぶときは「セニョール」のかわりに「リベルタドール=解放者」と呼びかけます。タイトルからご想像のとおり、本作はシモン・ボリバルの生涯を描いた作品。日本では大河ドラマをイメージするととっつきやすいかもしれません。

1783年、カラカスにおいて南米大陸でも屈指の名家に生まれたボリバル。当時の名家の暮らしぶりはすさまじく、自宅の敷地はなんと馬で移動です。所有するサトウキビ畑では多くの人が働き、家具調度品もすばらしい。

その広大な敷地を新妻と馬で駆け回り、抱擁の際はグアヴァの果実に口づけ。まさに甘い新婚生活そのものですが、このあまりにも短い幸せは妻の黄熱病の発症により急な終わりを告げます。傷心のボリバルはパリを訪れ、かつての師シモン・ロドリゲス(「マエストロ」と呼ばれます)と再会を果たし、そこから先はやけになったように独立のための闘いと敗走に明け暮れます。裏切られ、傷つき、闘う目的さえ見失いかける我らがボリバル。

そんなボリバルを再び立ち上がらせたのは民衆たちでした。民衆の声に耳を傾け、自らも民衆の一員として自由のための闘いをはじめたボリバルは、ラテンアメリカ各国を次々と独立へと導きます。しかし国家をも超えたラテンアメリカ連合国をめざしたボリバルを待ち受けていた結末は……。

 
チャベス、レノン。
ボリバルのビートはこだまする。

なにせ合戦ものの大河ドラマですから、戦闘シーンは迫力満点。中でもコロンビア独立に向けた最後の闘いでもある「ボヤカの闘い」のシーンは圧巻。広大な高原でスペイン軍の大砲や整えられた銃撃隊と向き合うボリバル率いる民衆。晴天だ。歴史を分けるような闘いにふさわしい天気があるのだと観客は知るかもしれない。静寂と緊迫が重い。ベネズエラが生んだキセキの指揮者グスターボ・ドゥダメルが監修する音楽がさらに緊張感を増幅させる。そう、これは映画なのだ。開戦の直前われらがリベルタドールの口が動く。彼がなんと叫んだのか。その声は聞こえない。が、聞こえずとも口元ははっきりと「自由を!」と叫んでいるのでした。

ボリバルは国家の独立だけでなく、大きな連合体をめざしたのでした。ここで少し、この映画が作られたベネズエラという国に思いを飛ばす。かの国の通貨はボリバル。そして正式名称はベネズエラ・ボリバル共和国。そう、いまでもボリバルの思想は生きているのです。国名にボリバルの名をそっと差し込んだのは、ウーゴ・チャベス。国連での「昨日、ここに悪魔がいました」という有名な演説がありますが、彼は生涯アメリカと闘い続けた大統領でした。

本作で、ボリバルが国境の川を渡るとき、ためらう兵士たちに語りかけるせりふが印象的だ。「これは国境ではない。川だ。我々はみな、このアメリカの大地の子どもなのだ。君たちが川を渡れば国境は消し去ることができる」。しびれる。ジョン・レノンの『イマジン』そのものではないか!

本作は過去の歴史の物語ではなく、現在の世界とは? 国境とは? を考える上でも必見! なのである。

(BSYO / ハル プロフィール:おもむくままに生きる。職業は書籍編集。最近のモットーはチームを作って活動すること。この秋、驚いたことはムーミンが考えていた以上に小さな生き物だと知ったこと。)

 

『解放者ボリバル』LIBERTADOR
監督:アルベルト・アルベロ
出演:エドガー・ラミレス、マリア・バルベルデ、イワン・リェオン
2013年 / ドラマ / ベネズエラ・スペイン / 119分

東京会場:新宿バルト9
2014年10月13日(月)13:30〜

大阪会場:梅田ブルク7
2014年10月26日(日)16:00〜

横浜会場:横浜ブルク13
2014年11月8日(土)11:00〜

『ラテンビート映画祭 2014』
スケジュール

東京
会期:2014年10月9日(木)〜13日(月・祝日)
会場:新宿バルト9(新宿区新宿3-1-26 新宿3丁目イーストビル(新宿マルイアネックス)9F

大阪
会期:2014年10月24日(金)〜26日(日)
会場:梅田ブルク7(大阪市北区梅田1-12-6 E-MA(イーマ)ビル7F)

横浜
会期:2014年11月7日(金)〜9日(日)
会場:横浜ブルク13(横浜市中区桜木町1丁目1-7 TOCみなとみらい)

チケット料金:1回券(日時指定):一般1700円、大学生・高校生・専門学校生:1500円(要・学生証)、小人(3歳~中学生)、シニア(60歳以上)、障がい者手帳をお持ちの方、障がい者手帳をお持ちの方の同伴者(1名様まで):1000円
オンラインチケット予約KINEZO/キネパス/劇場窓口