死にとりつかれた少年が出会った、
死にゆく少女との、永遠の時間とは。

(2011.12.23)

カンヌ映画祭が熱狂の、ガス・ヴァン・サント監督。

『dacapo』クリエイターズでご紹介した『サラの鍵』に引き続いて、「死」について、また「生きる」、「生き残る」ということについて描かれた、美しくピュアな作品の登場です。

この作品は、ガス・ヴァン・サント監督の新作として、今年のカンヌ映画祭「ある視点」部門のオープニングを飾ったというあたりで、すでに注目すべき作品でありました。

ガス・ヴァン・サント監督といえば、新作ごとに目が離せない監督です。かつての『マイ・プライベート・アイダホ』(’91)で生前のリバー・フェニックスや、『誘う女』(’95)の、二コール・キッドマンなど、美しい出演者を旬のうちに、より美しく、みずみずしく撮る才能に、惹きつけられてきました。

2003年のカンヌ国際映画祭において、アメリカのコロンバイン高校で実際に起きた銃乱射事件を扱った『エレファント』で最高賞のパルム・ドール、加えて監督賞まで獲るという高い評価を得ました。

私もその年は、カンヌでこの作品を観ましたが、少年が、同じ学校に学ぶ級友を無差別に殺していくというおぞましい事件を描く時、少年から青年へと脱皮することにもがく人間像を、彼らの立場に立ってリアルに描いていたことに感銘したことを思い出します。

その映像には、不可解な透明感のようなものさえ溢れていました。

デニス・ホッパーの息子、ヘンリーが初出演。

その後も、2005年に『ラストデイズ』、2007年に『パラノイドパーク』(第60回記念大賞受賞)とたびたび出品し、熱狂的支持を受けている存在です。そんな彼が戻ってきたとばかり、2011年のカンヌ映画祭に迎えられたことには、大きな意味があるわけで、その作品が、『永遠の僕たち』なのです。

そして、この作品には、うれしいことに、加瀬亮が重要な役どころで出演もしているのですから、これだけでも必見の映画と言わねばなりません。

ところが、この作品を輝かせているものは、まだまだあって、トピックには事欠きません。その一つが、主演のヘンリー・ホッパー。ホッパーという名を聞いただけでピンと来なくては映画好きとは言えませんね。
そう、あの、デニス・ホッパーの一人息子が、ヘンリー・ホッパー。この作品が出演第一弾となるそうです。そう知れば、今年の5月に74歳で天国へと旅立った彼の父への思いまでも重なってきてしまい、感慨も深まります。

デニス・ホッパーと言えば、ハリウッドからインディーズへ転向して以来、『イージー・ライダー』(69)をはじめ、『地獄の黙示録』(79)、『ブルー・ベルベット』(86)などで見る限りの、‟曲者俳優“として名を馳せた人。

監督でもあり、アーチストとしても広く活躍し、実生活でも5回の結婚に恵まれ(?)、超パンクで、カッコいい親父として、人生を全うしたという感があります。


『イージー・ライダー』(’69)の名優デニス・ホッパーを父に持つイーノック役、ヘンリー・ホッパーと、その美貌が光るアナベル役、ミア・ワシコウスカ。

“美少女”ミア・ワシコウスカの真骨頂。

デニス・ホッパーのハリウッド・デビューは、あの伝説のスター、ジェームス・ディーンと共演した『理由なき反抗』(’55)、『ジャイアンツ』(’56)で、奇しくも、息子と同じ年代。当時の「父」と比べてみると、今回の「息子」の面立ちは、とてもよく似ています。そして、その後、その父がインディーズ系に転じた精神を、『永遠の僕たち』で、息子が貫いた感もあり、そのへんを観比べられる私は、幸せというしかありません。

彼の相手役には、本年度のゴールデン・グローブ賞にもノミネイトされた『アルバート・ノッブス』で、男としての人生を全うしたノッブス(グレン・クローズ)に恋される役を熱演した、‟美少女“ミア・ワシコウスカ。彼女の美しさは、この作品でこそ、最大限に生かされていると思います。

その他、この作品の映画的ぜいたくさと言ったら、ヴァン・サント監督もプロデュースを手がけていますし、さらに、俳優で監督で、製作者としてアカデミー賞やエミー賞獲得など、多くの実績を持つロン・ハワードがプロデューサ―なのは良いとして、その娘のブライス・ダラス・ハワードが熱烈にプロデュースをしているということ。父親譲りと言おうか、彼女も女優であり、すでに監督デビューも果たし、今回が、初のプロデュース作品であるということにも意欲を感じます。


特攻隊員・ヒロシを好演する加瀬亮。主演のふたりとひとまわり年齢がちがうとは信じられない。
ハリウッド次世代の才能が結集。

つまりは、ハリウッド次世代アーチストたちの思いの結集が、この作品の生みの親であり、まさしく「若さ」という普遍的テーマを、達人ヴァン・サント監督が完成させ、世に出したというところにも大きな価値あり、なのです。

プロダクション・ノートからも、ブライスの感性豊かな才能がうかがえました。「若いということは、どういうことか、その問題を扱う作品に出会え、プロデユーサーとしての魅力を感じました」と、まさしく、ヴァン・サント監督の不滅のテーマに取り組む喜びを語っています。

「主人公の男女は、お互いがそれぞれ違った、死との問題を抱えているがゆえに、お互いを導きあうという関係を作りあげることができた」

「二人の共通項は、人生の中でパズルのピースを失くしてしまっていること」

「ふたりの時間はあまりに短いが、絆は、深くて強い」
など、力強い言霊を発するところはさすがです。

そして、監督は、
「生まれたら、必ず人は、いつか死ぬ」
ならば、
「自分はいつ、どうやって死ぬべきか」
という誰にとっても考えなくてはならない普遍的テーマを、この作品で独自の世界観で完成させています。

イーノックという、死にとりつかれた、大人になりかけた少年が主人公です。

イーノックは、他人の葬儀に関係者を装って、勝手に入り込んでは、「死」というものがどんなものかを模索して回るのです。

死に好奇心を燃やす少年が主人公。

彼は両親を交通事故で失い、自分だけが生き残ったことに、孤独感と自責の気持ちを抱いていて、生きることには絶望しています。まだ若いというのに。

そんな彼は、ある葬儀で出会ったアナベルという、思春期を迎えた少女に惹かれます。彼女はイキイキとしていて、生命力にあふれて見え、小児がん治療のボランティアをしていると言います。

彼女に会う前からのイーノックの友達はと言うと、彼だけにしか見えないのですが、特攻隊員として戦死した日本人のヒロシでした。もちろん、生きていたらイーノックのお父さん世代の年齢でしょうが、戦死した頃の年齢のままに、同世代のイーノックにとりついているというわけです。お国のために名誉の戦死を遂げたという満足感からか、とても明るく、やさしい幽霊として、昔のことやら、いろいろとイーノックのために教えてくれたりしていて、むしろ、守護天使と言ったほうがいいくらい。

しかし、ヒロシも、死ぬ前は、「ちょっと怖かったんだ」という死ぬことへの迷いがあったことをイーノックに告白することで、死んだあとに魂が癒されているようでもあります。

両親と一緒に死んだら良かったと思い悩むイーノックに、生きる喜びを取り戻させてくれそうな、アナベルとの交流。

しかし、イーノックに、新たな苦悩が襲います。アナベルは、実は余命3カ月で、自身が末期のがん患者であったということを知ることになるのです。


20、30、60年代のファッションのミックス・コーディネート、アナベルの抜群なファッションセンスも見逃せない。従来の余命ものとは一線を画する、おしゃれな作品に仕上がっている一因。

死を宣告された少女との恋。

彼女の残された時間を、彼女の葬儀を含め、輝かしいものにすると決意するイーノック。

イーノックの気持ちを受けとめたヒロシも自分の存在をアナベルに明らかにして、3人の交流が始まり、その中で、今を生き抜くイーノックとアナベルのふたりの友情は、知らず知らず恋に変っていくのです。

ふたりが過ごす、ふたりの時間、何を着て、何を楽しんで、何を感じてということのすべてが、ヴァン・サント監督の手にかかると、おとぎ話の様に可愛らしく美しく描かれ、死に近づくことや、天国に向うことの恐怖が和らいでいくのです。

この映画に、そんな死の恐怖を緩和する力を感じてしまったのは、私だけでしょうか。

圧巻は、アナベルのアナベルらしい葬儀とレセプションのシーン。

死を悲しむのではなく、お誕生日のホームパーティ? というくらいの目にも鮮やかで、おいしそうなメニューや思い出となる品々が、参列者を前にしてテーブルにズラリと並びます。

「アナベルが、天国に行くための、彼女らしい儀式は、これです」

という、その世界を作ったイーノックには、死にゆく者を看取った満足感が溢れていました。

死の恐怖を和らげ、新たな思いもくれる映画

そんな、喜びを感じながらも、画面いっぱいに並べられていた、若さを象徴するかのような品々やメニューを眺めていると、私の胸に突然に迫ってくるものがありました。

それは、この儀式が、「若さ」というものに決別をし大人になるための、イーノック自身のセレモニーにもなっているのではないか、そんな想いがしたとたん、涙が溢れて止まりません。

アナベルは、「若さ」そのものの象徴ではなかったのか、という想い。

本作品の素晴らしい脚本を書いたジェイソン・リュウは、プロダクション・ノートに書いています。

「ただ象徴としての人物は描きたくない」

と。しかし、彼女の死と、葬儀が、「青春にサヨナラ」というメッセージとなり、私の体中を走ったことも事実です。映画はまた、命ある限りは、生きるべきであること、生き残ることの大切さの意味をイーノックが知ることになるのではないかという余韻も残しました。

観る人それぞれに、それぞれ違った思いと、違った涙を誘う映画です。


アナベルは、大好きな水鳥についての生態の一節をイーノックに教える。

『永遠の僕たち』

キャスト:ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ、加瀬 亮、シュイラ―・フィスク、ジェーン・アダムス、ルシア・ストラス 、チン・ハン

監督:ガス・ヴァン・サント
プロデューサー:ブライアン・グレイザー、ブライス・ダラス・ハワード、ロン・ハワード
脚本:ジェイソン・リュウ
撮影監督:ハリス・サヴィデス
編集:エリオット・グラハム
オリジナル楽曲:ダニー・エルフマン
美術監督:アン・ロス
衣裳デザイン:ダニー・グリッカ―
http://www.eien-bokutachi.jp/
2011年12月23日(金祝)TOHOシネマズ シャンテン、シネマライズほか全国順次ロードショー