『神様なんてくそくらえ』ジョシュア・サファディ監督インタビュー。 ニューヨークのストリートに暮らす実在の美少女が主演、女優へ。
(2015.12.25)昨年の『東京国際映画祭』で新しい才能の評価の場であって欲しいという願いそのまま、グランプリ&監督賞のダブル受賞を果たした『神様なんてくそくらえ』が公開。ニューヨークで実際に路上生活を送っていた19歳の少女アリエル・ホームズ自身の体験を元にしたストーリーに本人が主演。ビートニク的アウトサイダーの生き様のリアルさはもちろん透明感あふれる映像と音楽にのせて捉えた注目の作品です。監督は80年代生まれのサフディ兄弟。来日したジョシュア監督にお話をうかがいました。
報われない愛に生きる日常を綴り、自ら演じたアリエル・ホームズ
昨年の『第27回東京国際映画祭』で、グランプリと監督賞の2冠をさらった『神様なんてくそくらえ』が1年を経て今月いよいよ劇場公開されます。ニューヨークに実在の、美少女路上生活者の生き方を、本人自身が赤裸々に演じたところに驚かされ、美しくも残酷な作品の誕生となりました。新鋭のジョシュア、ベニー・サフディの兄弟監督の手によるもので、映画祭は彼らのような新しい才能の評価の場であって欲しいという願いをも叶えるものでした。
ドキュメンタリーを思わせる映像や音楽はオフ・ビート感覚。しかし、しっかりシナリオどおりに撮った結果の賜物だそう。一時代前のビートニク的アウトサイダーの生き様を浮き彫りにしているような面白さが巧みで、さらにこれが実在の美少女の日常であることに、心奪われないわけがないのです。
彼女を支配している、または栄養源とも言える、「薬」と「男」。そのためにはアウトローであっても構わないという彼女の切実な「生きる」ための毎日は、不思議に我々の常識的日常を疑うものでもありました。
彼女の野良猫が持つような「自由」に憧れさえ抱きそうで危険! な印象が最初から最後まで持続する映画です。
アリエル演じるハーリーが犠牲的に尽くしてやまない愛の対象は、イリヤという路上生活者のカリスマ。しかし、その愛は報われず、ことごとく裏切られ傷つけられてばかり。そんな彼女の破滅的な日常を諭し、助けようとする薬の売人のマイクやスカリーなど彼女に恋する男たちなどもいるが、眼中にはいっさい入らず、狂気とも思える熱情をたぎらせるハーリー。その思いは、「あなた以外は全部ゴミ。」という言葉に値うほど。
そんな彼女に魅了されたのが、ジョシュア監督だったのでした。
彼女に出会い、彼女自身の生活を書きまとめるように勧め、その命に従ったアリエルは街のアップルストアに何回も通い映画のベースとなる手記を書きあげたそうです。
恋人 イリヤ役
ケイレヴ・ランドリーも魅了された路上生活。
彼女自身が持つ、野生のような強いオーラと生き方の虜になったのは、今回イリヤ役を演じたハリウッドで期待を集める俳優、ケイレヴ・ランドリー・ジョーンズも、その一人。
すでに売れっ子である立場にも関わらず、迷うことなくアリエルの暮らす地域で一緒に路上生活をしたというケイレヴ。映画の中でアリエルも納得の「路上の王子様」イリヤをみごとに演じ切りました。
さて、そんなNYの路上ファム・ファタルであったアリエルの今は?
「まず、実在のイリヤは薬のオーバー・ドーズで亡くなってしまいました。そのことも影響したと思うけれど、アリエルは、現在も路上生活はしていません。この作品の後すでに2本ほど映画に出演しているんですよ」と、監督。
しかしスターや女優をめざすより、この作品の中のような生き方を続けることの方が彼女らしく幸せに思えてならないのですが……。
「難しい質問ですね。責任のない路上生活者であった時の彼女の方が、女優となった今の彼女より、自由で幸せだったのではということですよね?彼女は今、NYを離れ、ロサンゼルスに住んでいます。今のところは、自由に演じていられるようですが、女優になれて前より幸せどうかというと、どうでしょう。私が手記を書かせたり、演じることをさせてから、野心が芽生え、女優だけでなく、シンガーにもなりたいし、ライターにも、アーティストにも、大統領にもなりたいとか(笑)、クレイジーなことも考える。しかし周りの人間は、今、彼女に女優をやらせようとする。押しつけられてすることには、例えそれが望んだ仕事とはいえ、幸せには思えないでしょう」
そう語る監督は、ちょっと複雑な面持ちで続けます。
映画の成功で手にした女優業に、新たな自由を求めて。
「彼女には、とても存在感がある。それと、人の話をよく聞くという役者にとって重要なふたつの資質を持っている。だからこそ僕は彼女とのコミュニケーションに充分な時間をかけました。他の作品でも彼女を一瞬にして見極めて、そういう才能を引き出してもらえれば良いのですが……」
彼女の望むままに映画の力で引っ張りあげて、新しい自由の世界に導いた「恩人」とも言える監督。誰よりも彼女の才能を知り得ているのです。
。
ふたつの感性の融合で、映画作りに挑戦していく兄弟監督。
ここでは述べることが出来ないこの作品の結末ですが、考えてみると、現在のアリエル・ホームズの進むべき道しるべになっていたような、黙示録的作品になっています。この前に手がけた作品のほとんどが、世界の片隅に生きるマイノリティに光を当てた作品が多く、その理由はとたずねると、一言、
「もののあわれ!」
と日本語で答えます。ものすごく博識ですね。
日本への思いには並々ならないものがあり、今回の映画を際立てている数々の音楽のひとつに、あの冨田勲の曲を起用もしていて、「これから会うことになっているんだ」と、うれしそう。
最後には「マイノリティがどういう人たちのことを言うのかなんて、僕自身がマイノリティ(ユダヤ系移民の家系)だから決めつけることは出来ないですね。ただ、自由に生きていて魅力的と感じた人たちをとりあげてみたいんです」とも。
今までも、これからも弟のベニー監督と共に活動をしていくと言うジョシア監督。批評的で客観的な弟の感性と、ロマンチックな思いを込めていく自らの感性を融合させ、次なる傑作にチャレンジするそうで頼もしい限りの「二つ」の新星です。
2016年12月26日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
出演:アリエル・ホームズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、バディ・デュレス、ロン・ブラウンスタインa.k.a. Necro
監督・脚本・編集:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ
原案:アリエル・ホームズ
音楽:冨田勲、アリエル・ピンク、タンジェリン・ドリーム、ヘッドハンターズ
2014年/アメリカ、フランス/英語/97分/カラー/日本語字幕:石田泰子/R15
原題:Heaven Knows What
配給・宣伝:トランスフォーマー
©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
2014年 東京国際映画祭 グランプリ&最優秀監督賞 受賞
2014年 ヴェネツィア国際映画祭 CICAE賞 受賞
2014年 セビリア・ヨーロッパ映画祭 最優秀女優賞
2014年 リスボン&エストリル映画祭 TAP Revelation賞