僕の彼女はシド・ヴィシャス? 女の子に振り回され男子のグローイング・アップ映画『(500)日のサマー』

(2010.01.09)

建築家を夢見ながらグリーティングカードのコピーライターをしているトム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット/笑顔がちょっと小野寺昭似)が、アシスタントとして入社してきた、魅力的だけど風変わりな女の子サマー(ズーイー・デシャネル/笑顔がちょっとケイティ・ペリー似)に恋して振り回される甘くて切ない500日間を、過去と未来を行ったり来たりしながら、スタイリッシュな映像とポップミュージックにのせて描いた映画『(500)日のサマー』。

サンダンス映画祭で観客に熱狂的に迎えられ、全米10都市27スクリーンの限定公開からまたたくまにトップ10入りし、先月発表になった第67回ゴールデングローブ賞において、<ミュージカル/コメディ部門>で作品賞、主演男優賞に見事ノミネートされるなど、今まさに世界中の注目を集めているこの作品は、いわゆる『ボーイ・ミーツ・ガール』の体裁をとりながらも、単なるラブストーリーでは終わらない、まったく新しい手法で作られたとってもキュートな映画なのです。

 
新旧織り交ぜたバラエティに富んだナンバー満載。

青い瞳が魅惑的なサマーを演じるズーイー・デシャネルは、音楽ユニット『シー&ヒム』でも人気を集めるアーティスト。一見草食系男子風のトムに扮するジョセフ・ゴードン=レヴィットは、まだ20代ながらすでに役者として20年以上のキャリアを持つ大ベテラン。

この映画のポイントは、誰もが身近に感じる普遍的なテーマに、旬の役者を起用することで今の気分を取り入れ、古き良き時代に茶目っけたっぷりにオマージュを捧げつつ、一人の青年の成長物語としてもちゃんと見応えがあるように作り上げたセンスのよさにあります。

デビュー間もないテンパー・トラップの『SWEET DISPOSITON』やレジーナ・スペクターの『アス』、トムとサマーの会話のきっかけ作りとなったザ・スミスや、サイモン&ガーファンクル、ファイストやカーラ・ブルーニといった新旧織り交ぜたバラエティに富んだナンバーの取り入れ方は、もはや若者の日常とは切っても切り離せない音楽そのものをリアルに表現しているし、アニメーションと実写を自由自在に組み合わせ、突如町中で踊りだすミュージカル映画に早変わりさせる技には、AFIの「ミス・マーダー」で2006年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでベスト・ロック・ビデオ賞、オール・アメリカン・リジェクツの「ムーヴ・アロング」でベスト・グループ賞のダブル受賞に輝いた、まさにミュージックビデオ界の俊英マーク・ウェブ監督ならではの手腕が発揮されています。

また、この映画がよくあるロマンチックなラブストーリーと趣を異にする秘訣は、一貫して男側のトムの視点から描かれているところにあるのかもしれません。

 
「シド・ヴィシャスは私よ!」

「気楽な友達としてなら」と割り切った関係であることを承知しつつも、恋のはじまりを予感させる思わせぶりなサマーにすっかり夢中になって、IKEAで新婚夫婦のおままごとみたいなデートを繰り広げては、好きな公園で建築家になる夢を語り、初めてサマーの部屋に招かれた夜は、一気に距離が縮んだと信じて疑わないトム。ある日、映画館で『卒業』を観た帰りに寄ったカフェで、「この数カ月の私たちって、シド&ナンシー状態よ」と一方的に別れを切り出すサマーに、「シドは包丁で7回もナンシーを刺したんだぞ。僕はシドにはなれないよ。」とすかさずトムは答えたものの、なんとサマーから返ってきたのは、「違うわ。シドは私よ」というセリフ。

サマーの奔放さにすっかり打ちのめされ、何かにつけて、自分より遥かに年下のおませな妹(?)レイチェルにアドバイスを求めてしまう、「惚れた弱み」を目いっぱい晒して生きる不器用なトムの感情の浮き沈みの激しさは、いわば恋する若者の特権といえるでしょう。

でもその一方で、客観的な視点で後から振り返ってみると、その苦しみこそが、自分自身の中に芽生えたありとあらゆる感情をコントロールすることの大切さを学ぶための必要不可欠な通過儀礼だった、と思える日がいつか必ずやってくる、と、この映画を観て考えるようになりました。

その証拠に、果たして『運命』か『偶然』かはわかりませんが、この映画のエンディング間際に、「サマー」の名前にまつわる(?)なんとも小粋なエピソードが用意されている、ということをお伝えしておきます。ここもスレスレのさじ加減が実に上手い監督だなぁと思わされる箇所の一つなんです。

初めてiPodを手に街に繰り出した時、自分の単調な毎日にBGMがついたみたいで、いつもの景色がまったく違って見えたものですが、この『(500)日のサマー』にも、その時夢中で聴いていた音楽や、何気なく買い集めた小物の数々、徹夜で読みふけった本や、お気に入りだったヘンテコなファッションこそが、のちの自分の記憶を型作る重要なアイテムとなりうるということを、改めて教えられました。

 

『(500)日のサマー』

2010年1月9日(土)より、TOHOシネマズシャンテ、渋谷シネクイント
ほか全国ロードショー

監督:マーク・ウェブ
脚本:スコット・ノイスタッター & マイケル・ H・ウェバー
音楽スーパーバイザー:アンドレア・フォン・フォースター
音楽:マイケル・ダナ &ロブ・シモンセン
衣装デザイナー:ホープ・ハナフィン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ズーイー・デシャネル

日本語字幕:古田由紀子
配給:20世紀フォックス映画
2009年/アメリカ映画/上映時間:1時間37分/シネマスコープ/ドルビーSR・SRD・DTS/PG-12

公式HP :http://www.500summer.jp/