1本のシネマでも幸せになれるために – 10 - 元祖フランス美男俳優が、大ヒット最新作『オーシャンズ』に取り組むわけを確かめました。

(2010.02.08)

ジャック・ペランというと、やっぱりドキュメンタリー作品、『WATARIDORI』の監督で、プロデューサーとして知られています。俳優としては『ニュー・シネマ・パラダイス』が記憶に新しい方もいることでしょう。今回の『オーシャンズ』は、いわば『WATARIDORI』の「海」バージョンとも言えそうな、同じく、ドキュメンタリーの監督とプロデュース作品。この間プロデユースと出演を果たした作品もあり、出演だけの作品もありと、実に多彩でエネルギッシュなキャリアを見せつける映画人です。
が、私の年代だと、ジャック・ペランといえば美男子アイドル・スターとして熱狂したことの事実があります。

鯨を間近で見る自分は、何のお魚になっているのか、そんな浮遊感覚も素敵です。

フランスの美形といえば、日本では未だアラン・ドロンが筆頭でしょうか。過去、ジャン=ポール・ベルモンドと彼が人気を二分していて、どちらが好きかで、その人の人となりがわかるという時代があり、その頃から私的にはどちらでもなく、ジャック・ペラン、「命」だったのです。

高校の頃でしたから、みんな、彼が出演している映画を観に劇場に出かけたということではないのに、なぜ、あんなにクラス中で大騒ぎになっていたのかは謎です。思い出せません。まだ、『アンアン』なども出版されていませんから、映画雑誌で見た子がいて、蔓延したに違いない。ドロンは有名でも、年上過ぎたこともあるでしょう。同世代の美男子だったから、私たちのアイドルとしてマッチングしたのでしょう。ペランというフランスのアイドル誕生は、事件なのでした。似た感じの男子生徒にペランというあだ名をつけ、追いかけ回したりして興奮していたことを懐かしく思い出します。

一応、成績優秀な生徒が集っていた我が高校だからこそ、甘いマスクだけでなく、どこか知的なものを感じさせるペランが、単なるアイドルではない魅力をどこかで発散していたからOur Boomになったのかもしれません。しかし、深く考えたことなどなく、当時は、何しろこんなに可愛らしく品のある、王子のような男子を見かけなかったものですから、騒いでいただけだったはずです。カトリーヌ・ドヌーブ主演の『ロバと王女』の王子様役としてのペラン、そのものだったのです。

タッグを組んだ監督ジャック・クルーゾー(写真・右)の技術的才能をフルに生かせたのも、ペランのプロデューサー的手腕の賜物です。(撮影・KAORI SASAKI)

今さらながらに彼の出演作を見ると、確かにアイドル的なものが多く、歳を重ねてからは、かなり、テレビのサスペンス・ドラマ的な映画作品に出演しています。私はそういうものも好きなのですが、かなりの数なので、元ファンのくせにちゃんと観てあげていないのです。そんなペランですが、出演作と同時に、早くも20代の頃から、プロデューサーとしての才能を発揮、出演作に比べ、かなりの社会派というか、キレがすごい作品ばかりに関わり、高い評価を得ています。

イヴ・モンタン主演、コスタ・ガヴラス監督『Z』は、映画通を気取る中高年の金字塔的作品でした。
「フランスの映画かー、よく観たよなー」
というおじ様がいたら、どんなのを観たのか聞いてごらんなさい。
「『Z』なんていいよなー、ハッハッハー」
と必ず応えたおじ様、おじい様たちがたくさんいました。
が、もう絶滅してしまいましたかね?
当時の私たちは、こういう男たちにクラッときたものでした。
だから、過去、女にもてたい時に滲ませる教養というものの中に、ジャック・ペラン製作作品は、かなり入っていたということなのです。
この作品には『オーシャンズ』同様、自らも、語り手と言おうか、狂言回し的な存在で、悪にまみれた社会構造を告発すべく新聞記者として、美しいお顔で出演していました。

ハードな内容なのに、私たちは彼の甘―い顔を見ては、
「可愛いい顔してるー」
なんて、そんなことばかり感じていたりもして。
その甘さ、ソフトさを一人の男として、もてあましていたからこそ、どんなに難しい映画にでも男らしく取り組む姿勢が育まれていったともいえそうです。
続けて『戒厳令』にも同じ取り組みを実現しているし。幸いなことに、私は自分の配給会社でこの2作品を『モンタン、パリに抱かれた男』を配給する際に特集上映作品として、東急BUNKAMURAル・シネマで手がけることが出来たのです。なんてぜいたくなこと。

そして今回は、ペランご本人にインタビューが出来たなんて、もっとぜいたくなこと。
演じることと、作ることの違いなどをうかがってみました。
「俳優は、非日常感、日常からの脱出という醍醐味があります。子供心を持ってできるのが楽しいですね。監督は、いかに現実に近づけるか、リアルを求める面白さを得られる仕事。プロデューサーは、責任のある立場なんです。どちらかというと、無駄なことをしないよう、監視する立場でもある。費用や撮影日数などを気にしながら、管理をしなければならないわけですが、映画全体に関われるやりがいがありますね」
多面的才能を発揮するペランですが、まさしく今回の『オーシャンズ』は、監督・プロデユース作品としては、大自然を相手にしたスケール感のある大作。円熟した男ペランの存在を見せつけるにふさわしい作品となっています。
公開後も大ヒットとなって、多くの観客の気持を引き寄せているわけですが、彼の社会派としての真骨頂は、海という世界に目を向け、ここに私たち人類の未来を映し出す鏡の役割を見出していると思います。

「『WATARIDORI』のときも心がけたことですが、まずは観客に、魚たちの中の一匹になるような視点で観てもらえるような工夫をしました。70億年の歴史を持つ海を、生命を感じる、エモーショナルな映像にして、観た人すべての記憶に残したいと思い、作りました。そこに生きる生物たちが言葉を使わず語る、重要なことを感じて欲しいです」
 そこに生きる生物たちお互いの弱肉強食の有様が、全編に近く展開するのですが、私にはその様子が残酷には思えなかったのです。むしろ美しい、日々の輪廻のように思えたのです。そのことをペランにたずねたら、
「そのことを伝えたかった。その有様を人間は恐ろしい魚がいるぞ、などと思うわけですが、実はこれが自然の姿であり、食べられてこそ幸せというような、生きる意味をそれぞれの生物が持っている。ところがその中で人間の狩りだけは残酷で、破壊でしかないと思うのです」

撮影の場所は、海のサンクチュアリ(聖域)とされているところを選び、そこは
太古からの生態系や、平和と多様性が残っているのだそうです。
このような場所を、時代が進んだからといって、我々人類が勝手に壊してはいけないということを、ペランは今回の作品で、静かに私たちに感じさせていくのです。
そのための映像作りは、例えばエイの、あの動きにあわせ、撮影ダイバーもそのように泳いで撮るという、そんな気遣いを、監督とプロデューサーの両方をしたからこそ、徹底的にこだわり実現できたのだといいます。 

「海には法律がないに等しい。汚染や乱獲については、国連レベルで法律を作り、海を守っていくことが大切なのです。まだ遅くはないけれど、今やらなければいけない。希望はまだあると思っています。海と人間の感情の交流があるかないかが、一番重要なことなのだと思っています」

今まさに、一番重要な、私たちの地球を大切に守らねばならないというテーマを、芸術作品のように美しく描き、私たちに感じさせる男、ペランの贅沢な映像。まさに解説者として、この作品に、またしても登場するペランの優しく甘い顔立ちは、この作品の中ではジェントルマンの証として、私たちを納得させてくれるのです。そんな彼の進化を、まるで恋人の立場からのように喜べることは、私にとって幸せで、嬉しい限りなのです。

同時に、この作品で見い出す、彼の息子であるランスロが、ペランの面立ちそのままに、アイドルの頃の美しさの記憶をとどめてくれるのでした。

 

『オーシャンズ』

監督 ジャック・ペラン、ジャック・クルーゾー
出演 ジャック・ペラン、ランスロ・ペラン
日本語吹替え版ナビゲーター 宮沢りえ
2009年/フランス/103分/カラー
配給 ギャガ株式会社
1月22日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー中。