公開記念 特集上映も。壮麗、時々ナンセンス。 P・ソレンティーノ監督『グランドフィナーレ』
(2016.04.15)水没するベニスのサンマルコ広場。 その水の上をキリストらしからずヨロヨロと渡っているのは礼服姿の老音楽家。向かいからモデル歩きでやってくるのはミス・ユニバース!?……格調高く美しくもなぜか笑えてしまうシーンが緻密に繰り出され、流れくる音楽にも思わず聞き入ってしまう……前代未聞の魅力に溢れた作品『グランドフィナーレ』が2016年4月16日(土)よりBunkamura ル・シネマなどで公開です。
ハイエンドなスイスのリゾート・スパに集う人々。
その中に老境たけなわの 男ふたり。
お話の舞台はスイスアルプス山麓の高級リゾート・スパ。一線をのいた音楽家 バリンジャーと映画監督のミックはそこでヴァカンスを過ごしています。太陽の高い間はサウナ室でロダン風のポーズ、じんわり汗を流したり、エステティシャンのマッサージを受けたり、プールでノロノロエクスサイズをしたり。バリンジャーはトリートメント・スケジュールを着々とこなしていますが、ミックは若いスタッフたちと最新作の執筆に余念がありません。しかし日が落ちれば夜の庭に集い円形ステージでのパフォーマンスに見入り、とりとめのないおしゃべりに興じています。
軽い会話も
哲学的に聞こえるのは年の功?
60年来の付き合いのバリンジャーとミックにとって本日の排尿量を報告しあうことが挨拶がわり。そこから話題はふたりのあこがれの女性、ギルダと寝たのか、寝ないのか? はたまた同じスパに滞在する無口なカップルが今日こそ声を出して言葉を交わすorノン? など。人物観察しながら小金を賭けて遊んでいるのですが、その会話は軽妙でありながらはっとさせられるのはふたりの年の功からでしょうか。たとえば、屋外ジャグジーを楽しむふたりの目の前にお湯をかき分け現れる美しいミス・ユニバースを見ての会話。「あれは何だ?」「神だろ」
長いの付き合いの中でふたりは「いいことしか話さない」友情を育んできた、というのですが、この大人な友情がなんともよいのです。大泥棒を働いて南米逃亡を企てるも派手に散ったり、悪事を働き捕まってお互い素知らぬふりで相手のタバコに火をつけたり、とは異なる男の友情。ふたりを中心にバリンジャーの娘 レナ、スーパーヒーロー役で大人気のハリウッド俳優のジミー(ポール・ダノ)などスパにステイするゲストやホテルスタッフの面々の人間模様……。人類という奇妙な生物を観察するような冷めたタッチの映像とそれと相反するように心に染み入るメロディの数々とともに描かれていきます。
名曲『シンプル・ソング』はじめ幾多の謎。
スパの屋外ステージに登場するミュージシャンとして本人的に登場するマーク・コズレックのギター&ボーカルの透明度も素晴らしいですが、劇中繰り返し登場する曲は『シンプル・ソング』。音楽家 バリンジャーの代表作で小さな子どもから女王陛下まで広く愛される名曲という設定です。実際はソレンティーノ監督の前作『グレートビューティ』でもテーマ曲を手がけたデヴィッド・ラングによるもの。この曲のほかクラシックからポップスまでふれ幅の大きい音楽のセレクションは「子供の頃は音楽家になりたかった」というソレンティーノ監督の音楽へのパッション、並々ならぬものであることを示しています。
バリンジャーのもとには女王陛下からの使者が再三やって来て『シンプル・ソング』の御前演奏&指揮を願い出ているのに、頑なに演奏を拒み続けているのはなぜか?
映画の終わり、まさに『グランドフィナーレ』に辿り着くまでにこの謎は明かされますが、劇中に残される謎が少なくありません。バリンジャーがことあるごとにキャンディーの包み紙を手にクシャクシャとすりあわせて作る音。音のみならず一度見たら忘れられない映像にも、謎。完璧ともいえる構図、美しい風景の中でハテナ?な行動をとる人物たち……ゲバラならぬカール・マルクスのタトゥーを背負うD・マラドーナ風巨漢 蹴鞠の図。整然としたスパ庭園を見下ろす紅衣 法師図。果たして意味はあるのかないのか?
意味があるのかわからずバカバカしささえ感じさせるシーンの挿入はソレンティーノ監督作品の特徴でもあるのですが美しく、見終わったあとは完成度の高いモダンアートに触れた時のような感があります。
ともあれ時にこの上なく美しく、時に死んでしまいたくなるほど愚かという人間の本質を捉えながら讃美する。イタリアンな明るさがチャーミングな作品である
と、観察しました。
★『グランドフィナーレ』公開記念 パオロ・ソレンティーノ監督特集上映
『グランドフィナーレ』公開記念、ソレンティーノ監督作品に触れられるチャンス! 『グランドフィナーレ』の半券を見せると過去3作品各1000円で鑑賞できます。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』では監督お気に入りのイタリア俳優 トニ・セルヴィッロの信じがたい豹変振りや謎のブレイク・カットの数々。『きっと ここが帰る場所』はショーン・ペンの怪演、監督の一筋縄では行かない音楽センスを堪能できます。
上映期間:2016年4月16日(土)〜22日(金)
会場:Bunkamura ル・シネマ
(東京都渋谷区道玄坂2-24-1 時間はリンクにて確認)
料金:1,200円均一(『グランドフィナーレ』半券提示で3本をそれぞれ1,000円で。)
上映作品
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(13)
『きっと ここが帰る場所』(11)
『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』(08)
『グランドフィナーレ』
2016年4月16日(土)新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか公開
出演:マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ、スミ・ジョー(本人)、パロマ・フェイス(本人)
監督・脚本:パオロ・ソレンティーノ
撮影:ルカ・ビガッツィ
編集:クリスティアーノ・トラヴァリョーリ
美術:ルドヴィガ・フェラーリオ
音楽:デヴィット・ラング
衣装:カルロ・ポッジョーリ
製作:カルロッタ・カロリ、フランチェスカ・チーマ、ニコラ・ジュリアーノ
共同製作:ファビオ・コンヴェルシ
配給:ギャガ
後援:イタリア大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、スイス大使館、ブリティッシュ・カウンシル
原題:YOUTH
2015年/イタリア、フランス、スイス、イギリス/124分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
字幕翻訳:松岡葉子 R15+
© 2015 INDIGO FILM, BARBARY FILMS, PATHÉ PRODUCTION, FRANCE 2 CINÉMA, NUMBER 9 FILMS, C -FILMS, FILM4