普遍的で圧倒的な美しさがみなぎる映画『シルビアのいる街で』ホセ・ルイス・ゲリン監督インタビュー ! 

(2010.08.07)

2010年8月7日(土)より渋谷のシアター・イメージフォーラムにて公開となる映画『シルビアのいる街で』。セリフも最小限ならば音楽もなく「ある一人の男が、6年前に偶然出逢ったシルビアという女性の後ろ姿を追って迷路のような街をさまよう」極めてシンプルなこの物語は、昨今話題の特殊効果を多用したエンタテイメント超大作とは対極に位置しながらも、あらゆる装飾を省いたあとの「核」だけが残ったかのようなとてつもない強度をもち、美しい輝きを放っています。

本作を手がけたホセ・ルイス・ゲリン監督は、1960年スペイン、バルセロナ生まれ。これまでもドキュメンタリーとフィクションの境界線上にある映画を製作されてきたゲリン監督にとって6作目となる『シルビアのいる街で』は、2007年の東京国際映画祭で上映されて以来公開が待ち望まれ、先行上映が行われた東京日仏学院にも多数の観客が駆け付けるなど非常に注目を集めています。


情感溢れる映像を目で味わいながら、普段聴き逃してしまう雑踏のざわめきや風の音に耳をすまし、しばしの間、異国を旅する旅人の視点で街を眺めてみる。

来日したゲリン監督に、シンプルながら人々を惹き付けてやまない、その創作の秘訣を伺いました。

ゲリン監督が日本を知ったのは、小津安二郎監督の映画がきっかけだったということもあり、監督のイメージする日本は昭和初期のまま。監督の故郷スペインから遠く離れた日本に、自らの理想とする世界が存在していたことにとても驚いたそう。

「私にとって、笠智衆は父であり、原節子は母であり、姉であり、娘である」とまで語るゲリン監督と日本文化とのつながりは、意外なところにあったようです。
 

ホセ・ルイス・ゲリン監督作品と日本文化の共通点はHAIKUにあり

5.7.5というわずか17文字の中に、無限の宇宙が表現されているともいえる俳句の世界。季語をいれるという約束事により、四季や自然を取りこみ「音」を大切にする点など「出来るだけ少ない要素の中で表現するほど、その思いが強烈になり、そこに重力が生まれる」という信念のもとに映画を撮影しているゲリン監督にとって、自作と俳句との共通点は非常に大きいといいます。

「私が映画であるシーンを作り上げるときには、何を見せて何を仄めかすかという選択肢を常に考えますが、一方テレビは有るものをすべて見せて説明しないと気が済まない傾向が強く、観る人が自ら考える自由を奪っています。大衆消費社会から映画を救うには、出来るだけ削ぎ落としたものから、「観ること」と「聴くこと」を観客に思い出してもらうこと。私としては、いかに情報を少なくして、観客の皆さんに想像して楽しんでもらうかをいつも考えて映画を作っています。」

自由度が高い分、そこから何を感じとれるかは受け手によって変わってしまうというもどかしさもありますが、監督はあえてその手法をとることで観客自身の「観る力」を試しているともいえるのです。

また、『シルビアのいる街で』の中で印象的なシーンにストラスブールのオープンカフェで、主人公が目の前で思い思いに過ごす「彼女たち」の顔を次々とスケッチする描写がありますが、まるでドキュメンタリーのように自然な動きでありながら、しばらく見続けていると、実はすべてゲリン監督によって緻密に計算されていることが明らかになります。

緻密な計算と、それを超えるコントロール不可な要素とのバランス

中でも、カフェでノートのページがめくれる様や、揺れる木漏れ陽、まるで生き物のようにうごめく女性の髪など、「風」が可視化されていることへの監督の思い入れを伺ってみたところ、「まさにそこがポイントなんです」との答えが。

「映画を撮っている中で、唯一コントロール出来ないのが「風」でした。女性の髪が風に吹き上がるたび、同じ女性でもまったく印象が変わってしまうということに驚いて以来、「風」を意識して画面に取り入れることにしたのです。また「シルビア」という音そのものに、この映画の真髄があります」

フィクションとドキュメンタリーの狭間にただよう、計算された要素とコントロール不可能な部分の絶妙なバランスの中にこそ、どうやら本作の魅力の秘訣が隠されているといえそうです。

グザヴィエ・ラフィット、ピラール・ロペス・アジャラとゲリン監督。

最後に、この映画が成立する上でかなり重要な要素となる、端整な二人(ピラール・ロペス・アジャラ、グザヴィエ・ラフィット)を主演に迎えた理由を訊ねてみました。まずシルビアを演じた彼女については、『王女フアナ』に出演しているのを見て、とても素敵な女優だと思い、自分ならこう撮りたいというイメージが湧いたから。一方、主人公グザヴィエの起用については、なんと本作の製作スタッフのチーフが撮影監督も美術も照明も全て女性だったことが影響しているそう。「美しい女性が出演するなら、男性もハンサムでないと!」との声が上がり、それを肝に命じて探したところ、ただ単にハンサムなだけではなく、19世紀の夢見る夢想家の雰囲気が感じられた点が決め手になったといいます。

映画にとって一番重要なことは「待つことを知ること」。
そう語るホセ・ルイス・ゲリン監督が作り出す世界の根底には、日本的要素が息づき、
普遍的で圧倒的な美しさがみなぎっています。
ぜひ劇場でその美しさを目の当たりにしてみてください。

映画『シルビアのいる街で』

2010年8月7日(土)より、
渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開後、全国順次公開

出演:グザヴィエ・ラフィット
ピラール・ロペス・デ・アジャラ
ターニア・ツィシー
監督・脚本: ホセ・ルイス・ゲリン

渡邊玲子の取材プチメモ

小津安二郎監督に心酔している様子のゲリン監督が「まだあの頃の雰囲気が残っている」と話す北鎌倉まで、私も足を延ばしてみました。小町通りから一本路地に入っただけで、風情たっぷりの街並みが目の前に立ち現れ、確かに小津映画と『シルビアのいる街で』に共通する光と風と音がそこにはありました。

東京にもそんな情緒が感じられる場所があるのを伝えたくて、先日訪れた「林芙美子記念館」の写真で作成したオリジナルのフォトブックを監督にプレゼント。なぜか私のサインを求められ、なんと監督とサインの交換をすることに!

ポスターを模したポーズで一緒に写真に収まるなど、監督のサービス精神に感激。

「林芙美子記念館」の写真で作成したオリジナルのフォトブックを監督にプレゼント。