7/13 公開『パリ猫ディノの夜』パリの屋根の上を駆けめぐる猫
ディノ の正体とは?

(2013.07.05)

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ショートフィルムの達人が作った初の長編が、
一挙アカデミー賞ノミネート。

第84回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞ほか5部門を受賞した『アーティスト』。フランス映画が、ここまでの栄誉に輝く快挙に目を見張りました。

『パリ猫ディノの夜』という作品は、この年のアニメ-ション部門にノミネートされていた、同じくフランスのアニメでした。

対抗馬には、猫は猫でも、『長ぐつをはいたネコ』も選ばれていて、手ごわい相手ばかり。『カンフー・パンダ2』。強そうでした。加えて、『ランゴ』、『チコとリタ』という顔ぶれ。そんな、製作費や3Dの技を余すところなく発揮した作品が受賞候補となるのは自明の理で、これらと肩を並べてフランス代表の『パリ猫ディノ』、堂々のノミネートだったのです。

それにしても、多くのアニメ作品がある中、珠玉の『パリ猫ディノの夜』が、このような高い評価を得たワケを知りたくなるのは当然でしょう。

結果、惜しくも賞は逃したものの、米国の名だたるメディアがこぞって注目したことこそが、作品の素晴らしさを物語るものであり、栄誉です。


ふたつの顔を持つ、パリの外猫ディノ。昼は飼い主ゾエに戦利品のヤモリを持ちかえる忠実猫。

夜には塀をつたってお出かけ。夜は別の飼い主がいるのだ。その男ニコはカリスマ怪盗だった。
米メディアがこぞって注目。

アニメと言えば、「お子様向き」という日本での概念からしたら、多くの米メディアが、猫が主人公のアニメに夢中になって、大まじめにレビュー記事を書いたのですから、信じられないと言っても良いほど。

『バラエティ』誌は、この作品のオールドスタイルが、魅力的であると言います。確かに、このところの3Dが飛び交う映画に辟易し出した観客たちが少なくないことは、11年に公開された『くまのプーさん』の、“昔のアニメ”ぶりが大受けしたという事実からも察せられます。

『ニューヨークタイムズ』は、パリの猫のディノが、夜な夜な出没する夜のパリの街を描いて美しいこの作品について、観る者までも、パリの屋根の上を飛び交う悦楽を味わえると記事にしていました。

『シアトルタイムズ』は、この作品に効果的に使われているジャズのサウンドの良さに注目しますが、音楽的なことだけでなく、作品全編から醸し出されるジャジーな感覚がお気に召したようでした。

『ワシントンポスト』は「フランスの猫は犯罪者なのか」という見出し。

要は、これらのレビューから計り知れば、この作品は子供用のアニメではないということが明白です。


ジャン・ギャバンか、ジョー・ペシがモデルと言われるギャングの親玉ビクトル・コスタ。部下は、『レザボア・ドックス』を真似てニックネームで呼び合うよう命じても、てんで言うことを聞かない、おバカ集団。
大人アニメは、
吹き替えなしでフィルムでの上映。

もちろん、お子様も観てよろしい。早いうちから、背伸びして、大人の仲間入りするもよし。本物の大人になるまでに、大いに「悲劇」や「犯罪」、「悪」の存在にも免疫をつけていくことも必要かも知れません。それには映画が一番良い“教師”だと筆者は思っています。自分自身の経験からしても、です。

そういう思いを持って、筆者は買い付けを決心。大人も子どもも分ける必要なしとして、公開に向けてのお約束事は、迷うことなく、あえて吹き替えなしでヌーベル・ヴァーグのミューズの一人、ヴェルナデッド・ラフォンの肉声を生かしことに。

ハリウッドも脱帽した、フレンチなテイストをそのまま生かさずしての公開はあり得ない。さらに、今や、希少な存在となりゆくフィルムでの上映にもこだわることにしました。

ちなみに、フレンチ・ティストにリスペクトしたハリウッドでも吹き替えはされ、ラフォンの声に代わりアンジェリカ・ヒューストンが声の出演を果たしました。

大人アニメ御用達を決定づけたのは、この作品が、子どもへの愛を持って作られたという以前に、映画への揺るぎない愛情で完成しているところ。

ただ、猫が可愛いという、猫ものキャラが主軸の作品に留まらず、猫が寄り添う、様々な登場人物の生き方を浮き彫りにしたストーリー展開、細かな伏線が張りめぐらされているところなど、贅沢な作りです。


ニコとディノが屋根から眺める美しいパリの街。
数々の名作を埋め込んだフィルムノワール・アニメ。

原題は、猫の人生(Une vie de chat)ですが、登場人物全員が主人公と言っても良いほど、たくさんの人生が交錯するのです。そう、生き様ですね。人々の生き様を映し出すのが映画というもの。だから、この『パリ猫ディノの夜』はアニメに留まることなく、フランスのフィルム・ノワールとして、殿堂入りに匹敵します。言わば、登場するキャラクター全員が主役というべきか、そんな魅力も感じさせます。

その中の最大のキャラは、『ミッドナイト・イン・パリ』(’11)でウディ・アレンも憧れたパリの街です。ふたつの顔を持ち、謎に包まれた雄のパリ猫ディノが、夜な夜な徘徊する散歩道の、パリの屋根の上から眺める町並みは圧巻です。

警察、ギャング、情婦、ジャズミュージックなどなどの要素が入っていなくては、フィルム・ノワールとは言えないという定石を踏まえ、そこにカリスマ怪盗と、パリの外猫をかまして構築。映画愛としては、『狩人の夜』(’55)、『レザボア・ドッグス』(’92)、『グッド・フェローズ』(’90)などへのオマージュがいっぱい。

加えて観る人にとっての『ゴースト・バスターズ』(’84)の断片を想起させ……と、ワクワクさせます。

音楽はビリー・ホリディの『月に願いを』をはじめとするジャジーなオリジナルサウンドがイキイキしていて、そこにシャンソンチックなアコーディオンのメロディーが交差して、大人の心をわしづかみ。心地よいばかりなのです。

だからこそ、米アカデミーも、ついその気になってしまったというわけです。


コスタの魔の手から逃げられるのか、ディノとゾエ、そしてニコ。
ストーリーテリングの巧みさに、
ハリウッドも舌を巻く。

ストーリー展開も小気味良く、実にコンパクトに70分にまとめています。

「ウチの猫は、夜は何をしているんだろう」と、今さらながらの飼い主の疑問が、引き起こす事件と冒険。ディノの親友の少女ゾエは、パリ警視であった父をギャングの親玉コスタに殺され、そのショックで失語症になってしまいます。

同じくパリ警視の母ジャンヌは報復も含め、コスタの取り締まりにやっきになり、加えて、パリを騒がせているカリスマ怪盗ニコを追いかけ、家庭を顧みることが出来ません。そんなゾエを慰めようと、夜出かけては戦利品を朝持ち帰るディノ。ある日のプレゼントは、いつものトカゲとは違う、ダイヤの入ったブレスレットだったのです。そのことから、ディノの後をつけるゾエ。ダークな夜に襲いかかる父の仇のコスタの魔の手。ノートルダム寺院での合戦には、ディノも一役買い悪と戦うのでした。

つまりは、この作品は、「猫の仇打ち」と言ってもいいのです。

また、悲劇の中の思いがけないロマンスの誕生、家族の再生まで物語ります。

そして、縦割り社会の崩壊をも暗示させ、時代錯誤とも思える、かつてのギャングの持つダンディズムを皮肉な笑いで追い詰めるアイロニーにも気配り。

やはり、一級の映画と言うしかないアニメーションを越えたアニメです。


悲劇の中の思いがけないロマンスの誕生、家族の再生まで語る『パリ猫ディノの夜』
監督は二人組の、
アニメ集団『フォリマージュ』出身。

監督はアラン・ガニョル、ジャン=ルー・フェリシオリの二人組で、フランスはリヨン近くのバランスにある『Folimage(フォリマージュ)』と呼ばれるアニメーションの制作集団に所属しています。

アニメーションの技術的巧みさと脚本づくりの才能がタッグを組み、多くの短編作品で注目を集めていました。今回の長編第一弾を世に生み出すやいなや、一挙にアカデミー賞候補作となり、稀な才能を見せつけました。

短編作品では、人間が自ら生み出す悲劇や残酷な部分をあからさまにして来ました。しかし、その中にも一筋の愛や幸せが感じられ、今回の『パリ猫ディノの夜』では、その割合が逆転したバランスで巧みに完成されています。

いつも皮肉でブラックな笑いを作っては楽しんでいる二人のいたずら、今回は、屋根からの猫目線で見る夜のパリの街に、密かにバランスにある目抜き通りを埋め込んだことだと言います。

「アニメ作りの楽しさは、そういうところだよね」

世界の恋人とまで言われるパリの街を自由自在に、名所であるノートルダム寺院を活劇でメタメタに破壊!そうできるのもアニメだからこそと、アニメの可能性について楽しそうに語ります。


左から3人目が夜の飼い主 怪盗ニコ、ゾエのママ ジャンヌ、昼の飼い主ゾエとパリ猫ディノ、家政婦クロディーヌ(実はこちらも別の顔の持ち主!)、ギャングの親玉ビクトル・コスタ……登場するキャラクター全員に存在感がある。

猫好きにはたまらない、
猫のしぐさで感動させられる。

そんな、創造性の極めつけは、やはりデイノというトラ猫の描き方。
一見、うま下手感覚と見間違える絵のタッチ。しかし、巧妙で秀逸な色使いやタッチに知らず知らず感動させられていくのですが、皮膚感覚に訴えるのが猫の動きや、温度や感触が、実にリアルなこと。

柔らかい毛なみや、すばしこい身の動きなど、ディノの部分は、あたかも3D。
このへんがフォリマージュの企業秘密的手錬の成果なのでしょう。

まるで荘園とか城を思わせる工房は、第一次世界大戦の頃の爆薬庫を改造したものだとか。そこから生み出される作品が砂糖菓子のような、予定調和なものであるはずがないのです。

ファンタジーと言ってしまえばそれまでですが、この『パリ猫ディノの夜』には、新鮮な驚きや意外な展開がたくさん埋め込まれています。

やはり、大人に、もう一度、子どもの時に味わった映画を観るワクワクやドキドキを思いださせてくれる作品なのです。

ちなみに、現在制作中の新作のテーマは、「幽体離脱」だそうです。

やっぱり、またまた大人おアニメ誕生か?

決してお子様のためだけを考えた映画ではなさそうで、期待大です。

只者ではないアニメーターの誕生を物語るにふさわしい本作は、35mmフィルム上映が世の中から消えかかっている今の時期、あえてフィルムで上映します。

美しいだけではない、独特のテイストが胸に染みいること確実です。


ディノの夜のひと仕事とは、かたき討ちだった!?
『パリ猫ディノの夜』

2013年7月13日(金)より新宿ピカデリーにて公開、その後順次全国ロードショー

監督:アラン・ガニョル、ジャン=ルー・フェリシオリ
声の出演:ベルナデット・ラフォン、ドミニク・ブラン、ブルーノ・サロモネ、ジャン・ベンギーギ ほか
フランス/2010年/アニメーション/70 分/カラー/日本語字幕、フィルム上映
配給:巴里映画 提供:日本コロムビア、巴里映画 
後援:フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
協力:ユニフランス・フィルムズ 
協賛:ジャンナッツ・インターナショナル、アニエスベー 
©Folimage/Lunanime/Lumiere/Digit Anima/France 3 Cinema/Rhone-Alpes Cinema/RTBF