12歳のボーイ・ミーツ・ガール冒険奇譚
『ムーンライズ・キングダム』

(2013.02.08)

大人になったら……大人って……
12歳のボーイ・ミーツ・ガール冒険奇譚。

いよいよ2013年2月8日(金)から全国順次公開となる映画『ムーンライズ・キングダム』。監督・脚本・プロデューサーを務めるのは、天才一家の悲喜こもごもを描いた『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(’01)をはじめ、海洋探査船を舞台にした『ライフ・アクアティック』(’04)や、3兄弟がインドを旅する『ダージリン急行』(’07)、さらにはストップモーションアニメの『ファンタスティックMr.FOX』(’09)など、次々と話題作を手掛けてきたウェス・アンダーソンです。最新作となる本作は2012年カンヌ国際映画祭のオープニングを飾り、アメリカでは自己最大のヒットを記録。新たなウェス・アンダーソン作品の代名詞となっています。

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舞台は1965年のアメリカ。海辺に建つ赤い外観の大邸宅の内部を、左右・上下・前後になめらかにスライドしながら、さまざまな楽器で編成されるオーケストラの演奏をバックに、長回しのカメラが隅々まで映し出していきます。ロードアイランド州に位置する、全長26キロのニューペンザンス島。松とカエデの老生林に覆われ、浅い入り江が入り組む、先住民チックチョー族の土地であるこの島に、まもなく台風が上陸予定。緑の帽子と真っ赤なコートがお似合いのストーリー・テラーによる案内で、12歳の少年と少女の冒険譚が幕を開けます。

ボーイスカウトで優秀な成績を収めながら、仲間に除け者扱いされている孤児のサム・シャカスキー(ジャレッド・ギルマン)は、里親にまで煙たがられつつも、いつか先住民の移動した道をたどってみたいと夢みています。

一方、厳格な父母と3人の弟と共に大邸宅で暮らしながら、「超問題児」のレッテルを貼られた青い瞼のスージー(カーラ・ヘイワード)は、日課である「双眼鏡による観察」で、母の不倫現場を目撃し、深く心を閉ざしてしまいます。


スージー(カーラ・ヘイワード)の趣味は読書と双眼鏡での観察。その双眼鏡で、母の不倫密会を目撃。

サム(ギャレット・ギルマン)とスージーは、1年前、教会の野外劇『ノアの方舟』の楽屋で偶然出会い惹かれ合っていた。
「君は何の鳥?」
「カラスよ」
「その怪我は?」
「ブチギレて鏡を殴ったの」

教会で上演された野外劇の楽屋で偶然出会い恋に落ちた二人は、1年に渡る手紙のやりとりを通じて、お互いの近況や悩みを伝え合い、密かにそして入念に駆け落ちの計画を立て始めます。

アライグマの毛皮の帽子をかぶり、母親の形見のブローチを留め、アライグマのアップリケを胸につけた黒めがねのサムと、襟のついたピンクのワンピースに白いフリルのハイソックス姿で「日曜学校の靴」を履いたスージーは、草原の真ん中で落ち合い、「3.25海里 潮流口」という名の美しい入り江を目指して旅に出るのです。

「地図が作れる」サムは、置手紙を残して脱走したキャンプの訓練で身に付けたサバイバル術を存分に発揮しますが、弟の水色のレコードプレーヤーを拝借して家出したスージーは、お気に入りの本とレコードをトランクに詰めて、首から双眼鏡を下げ、なんと子猫まで一緒に連れてきています。

たどり着いた海岸で、二人は海へと飛び込んで、入り江にもっとステキな名前をつけたいと相談し(それは後に『ムーンライズ・キングダム』と決まったようです)、サムがスージーに虫で作ったピアスを贈り、スージーの耳たぶに穴を開け、互いの秘密を暴露しあった二人は、「大人になったら一箇所にいないで冒険の旅に出たい」と同じ夢を語ります。そしてフランソワーズ・アルディが気だるく歌う『恋の季節』に身を任せ、初めてのキスを交わすのです。


スージーとサムは、地図を片手に「3.25海里 潮流口」、「ムーンライズ・キングダム」を目指す。
ノーマン・ロックウェルのアメリカを
イメージした独特のウェス・ワールド。

「ノーマン・ロックウェルが描くアメリカ」をイメージして制作された本作は、思春期の初恋と冒険というテーマと相まって、誰もが共感しやすい普遍性と、ウェス作品の集大成ともいえる、驚くべき独自性を兼ね備えています。

ウェス・アンダーソンの映画製作は、几帳面で理路整然としていて、最初から作り上げたいイメージが明確だといいます。本作でも徹底した時代考証が行なわれ、60年代のアメリカをインテリアやヴィンテージの小物で完璧に再現。ボーイスカウトの350着にも及ぶ制服は、ソックスからボタンに至るまで全て手作業で作られたそう。黄色と赤をベースに構築された色彩設計や、卓越したセンスで選び抜かれた音楽によってすべてが一体となり、ウェスの頭の中にしかなかった魅力的な空想の世界が、ファミリーともいうべきスタッフらの執念をも駆り立て、映画という形で生み出されるのです。

ウォード隊長(エドワード・ノートン)率いるボーイスカウトの面々もスージーとサムの捜索に乗り出す。

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『ダージリン急行』につづき、共同脚本家として参加しているのは、ソフィア・コッポラの兄、ロマン・コッポラです。これまでもウェス作品の中では、一貫して親子の軋轢や家族の不協和が繰り返し描かれてきましたが、サムとスージーが繰り広げる「愛の逃避行」を通して浮き彫りになるのは、彼らを取り巻く大人たちが見せる、子どもたち以上に不安定な内面と、それを必死で取り繕おうとする姿です。

ウェス作品常連のビル・マーレイが、スージーの怖い父親ウォルトを演じるほか、フランシス・マクドーマンドが母親役をつとめ、ボーイスカウトの隊長役にエドワード・ノートン、そして福祉局員にはティルダ・スウィントンが扮するなど、これまで以上にハリウッドの豪華キャストが絶妙なバランスで配置されています。そして、極めつけは、天下のアクション俳優・ブルース・ウィリスが演じる、哀愁のシャープ警部です。


ティルダ・スウィントンは福祉局員、ウェス作品常連のビル・マーレイはスージーの父親役で登場。

ブルース・ウィリスは哀愁のシャープ警部、フランシス・マクドーマンドはスージーの母を演じる。

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ポーカーフェイスを貫くスージーが、サムとの待ち合わせで一瞬こぼす笑顔と、サムにピアスをあけてもらう際に見せる眉間の皺で、初恋の甘さと痛みを表現した映画『ムーンライズ・キングダム』。「遠くないものも」近くに見ることができる、というスージーの魔法の双眼鏡を借りて、どこかにあったはずの、自分だけの「思い出の入り江」を眺めてみたくなる映画です。

●●CHECK OUT!
『ムーンライズ・キングダム』のナレーター
ボブ・バラバン
Bob Balaban プロデューサー、映画監督、俳優、そして作家としても活躍する多才な人。『ムーンライズ・キングダム』では赤いコート姿で現れ、地理や人物の置かれている状況を説明してくれるナレーター役。俳優としては『真夜中のカーボーイ』(’69)、『未知との遭遇』(’77)、『地球は女で回ってる』(’97)、『カポーティ』(’05)など50作以上に出演。ロバート・アルトマン監督『ゴスフォード・パーク』(’01)では製作のほかハリウッドのプロデューサー役で出演、作品はアカデミー賞作品賞、監督賞にノミネート、ジュリアン・フェロウズは脚本賞(原案はアルトマンとバラバン)を受賞。製作と監督を手がけた『バーナード・アンド・ドリス』(’06)はスーザン・サランドン、レイフ・ファインズが主演でエミー賞全11部門、ゴールデン・グローブ賞3部門にノミネート。’09年の監督作品、テレビ映画『ジョージア・オキーフ』はジョーン・アレンとジェレミー・アイアンズ出演でゴールデン・グローブ賞3部門、エミー賞9部門にノミネートされている。


『ムーンライズ・キングダム』特別映像コーナーにも登場しているボブ・バラバン。
『ムーンライズ・キングダム』

2013年2月8日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開!

出演:ブルース・ウィリス/エドワード・ノーン/ビル・マーレイ/フランシス・マクドーマンド/ティルダ・スウィントン/ジェイソン・シュワルツマン/ボブ・バラバン ほか 
監督・脚本・製作:ウェス・アンダーソン 
製作:ジーナ・ウォン、ローマン・ポール、ジェルハルド・マイナー
共同脚本:ロマン・コッポラ  
提供:ファントム・フィルム/ハピネット 
配給:ファントム・フィルム
2012/アメリカ映画/カラー/94分
© Focus Features PG-12

2012年カンヌ国際映画祭オープニング&コンペティション部門正式出品作品 
2013年ゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディ・ミュージカル部門)ノミネート

*ムーンライズ・キングダム コンセプトショップ 期間限定オープン!
映画のシーンや登場するアイテムをテーマにセレクトしたファッョン『EDIT. FOR LULU』や『EDIFICE』によるバックやTシャツなどのオリジナル・コラボレーションアイテムの数々や、『Lamp harajuku』がセレクトのスージーを連想させるお洋服の販売などがあります。
会期:2013年2月1日(金)~2月24日(日)
場所:渋谷パルコ part1 3F エスカサイド特設会場


『Lamp harajuku』2枚重ねワンピース (赤 or 青) 25,200円