余韻ほのぼの おじいちゃんの里帰り
Y・サムデレリ監督 インタビュー

(2013.12.16)

公開中の映画『おじいいちゃんの里帰り』はドイツで暮すトルコ系移民 少年チェンクの一家の3代に渡る物語。ユーモラスなエピソード満載でドイツのみならずヨーロッパ各国でロングランヒット。監督のヤセミン・サムデレリさんにお話をうかがいました。

●『おじいいちゃんの里帰り』ストーリー 

1964年9月10日、ドイツに到着した100万1人目の移民として大歓迎を受けるトルコ人男性。それは現在ベルリンで暮すチュルク少年一家のフセインおじいちゃんだ。それから50年後、最近おじいちゃん夫婦はドイツのパスポートを申請した。それはトルコに里帰りするため。おじいちゃんの運転するバスで孫のチュルク、チャナンはじめ3世代10人の大家族はトルコに向かうことに……。一家がトルコからドイツに移民するまで、移民してからのエピソード、を交錯させながら描く。


バスの旅とともに、1960年代のトルコ、ドイツでのエピソードが描かれる。恋に落ちたフセインはファティマと結婚し、子供ができるとドイツに出稼ぎに。そして家族を呼び寄せる。
監督ファミリーの実体験と
史実をミックス。

ーチュルク少年の母ライラとその兄弟で叔父にあたる子供たちに爆笑してしまいました。たとえばドイツの巨大なコカ・コーラが登場する夢見るムハマドですが、監督のご家族のどなたかがモデルですか?

ヤセミン・サムデレリ監督(以下サムデレリ監督):
ムハマドが大きなコーラの夢を見るところは、私の叔父のエピソードが元になっています。ドイツはとても豊かな国だと思っていたのでドイツに行ったらたくさんコーラが飲める! と頭の中で彼なりのパラダイスを思い描いていたようです。当時のトルコではコーラはとても高くて、1年に1本飲めたらよい方だった(笑)。叔父によるとバナナも高級品だったそうです。

ーおじいちゃんが100万1人目の移民だったというのも事実ですか?

サムデレリ監督:映画では実際に起きたことと、私の記憶にある話を混ぜてます、リサーチで出てきた素材をどうしたら面白く映画に挿入できるかを考えました。リサーチで100万人目のトルコ移民を大歓迎している映像が出てきました。そこでは100万人目の彼を「ドイツへようこそ!」と表彰して、音楽を鳴らして祝っている。私が育った時代は、ドイツとトルコ移民コミュニティとの関係はとてもアグレッシブなもので、当時はそんなに友好的な関係だったなんて想像するのは簡単ではありませんでした。私の家族はディテールの細かいところなど思い当たるところがあったはずです、しかしあくまでもフィクションとして構築したつもりです。

妹の脚本家ネスリンとともに
向き合って考えた祖父の死。

ー日常であまりトルコ人に接する機会がないので映画ではまるでトルコ人家庭の日常入り込んだような感じがして楽しかったです。家族みんなで食事しながらお喋りするのが好きで、歌が好きで、みなさん陽気なんですね。

サムデレリ監督:映画のためのリサーチで、ドイツ人がトルコ移民について話している白黒の古い映像が出てきました。「トルコ人はたいへん優秀な労働者だがすぐ歌い出してしまう」と訝しげなものがあってとてもおかしかったですね(笑)。

ーフセインおじいちゃんが床屋さんで踊るシーンも楽しかったです(笑)。

サムデレリ監督:ダンスはトルコ文化の中でもとても重要なものです(笑)。

ーチェンク少年が「僕はドイツ人なの? トルコ人なの?」と家族のみんなに問いかけるシーンがあります。この作品にはドイツにおけるトルコ移民のアイディンティティを明確にするという側面があると思いますが、この映画を作りたいと考えたきっかけは?

サムデレリ監督:私達の祖父が亡くなって自然に浮かんできた企画です。人生の流れの中でどうやって彼の死に向き合ったらよいか。彼は家族をドイツに連れてきて私達の人生に大きなインパクトを与えました。自然な形で感謝の気持ちを表したかった。祖父をはじめとする世代の人々はドイツで一生懸命仕事に励みました。そしてドイツ人のトルコ人に対する先入観、たとえば「トルコ人はすぐお金の話をしたがる」といったものを変えて行った。彼らにさよならとともに感謝の気持ちを捧げたいと、妹と考えていたのです。



『おじいいちゃんの里帰り』はフセインおじいちゃんじゃなくても踊り出したくなるような楽しい音楽も魅力的です。クリックしてトレーラーで聞いてみて。

ベルトルッチ監督『ラスト・エンペラー』
メイキング・ドキュメンタリーで映画に開眼。

ー『おじいいちゃんの里帰り』の脚本は妹のネスリンさんによるものです。いつも妹さんの脚本で映画を作って来られたのでしょうか?

サムデレリ監督:ほとんどがそうです。” Kreuz & quer “(’96 )は学生時代の習作オムニバスであのミヒャエル・バルハウスが撮影監督です、” Kismet “(’00)はいろいろな映画祭で評価された短編、” Alles getürkt! “(TV) (’02)ドイツ人警察官がトルコ人に変装してコミュニティに潜入する話、” Sextasy ” (’04)は少女がセクシャルな欲望を探索する短編、” Ich Chef du nix “(ボスは私、おまえはとるに足りない奴) ” (TV) (’07)はコメディで教育もないトルコ青年が潰す目的である会社に入るのに、救うことになってしまうコメディです。” Ich Chef du nix “をのぞいてすべてナセリンの脚本です。

ートルコ人コミュニティが舞台の作品が多いようですが、次の作品もその予定ですか?

サムデレリ監督:いいえ。次回は移民のテーマは入れない予定です。人間重視の企画を考えています。不思議なことに移民を扱うとどうしても「移民映画」というジャンルのように扱われることが多い。それは避けたいです。

ーそもそも映画の道を志したきっかけは?

サムデレリ監督:子供の頃から映画が大好きだったのですが、ある時ベルトルッチ監督『ラスト・エンペラー』のメイキングムービーを見ました。『ラスト・エンペラー』の、たとえばピーター・オトゥール演じる家庭教師とジョン・ローン演じる皇帝がテニスしているシーンを見せてからこのシーンはこのように撮影された、と見せるものでした。それを見て初めて映画には俳優のほか監督というものがいて、脚本があって、監督が演出して……というのを知りました。「これを私もやってみたい!」と思いました。

■ヤセミン・サムデレリ監督 プロフィール Yasemin Samdereli 1973年、トルコ系ドイツ人としてドルトムンドに生まれる。ミュンヘン国立テレビ映画大学で学び、学生時代から助監督、監督、脚本家、女優として映画製作に関わる。これまでにショートムービーをはじめ手がけた6作品のうち5作品は妹ネスリン・サムデレリの脚本による。『おじいいちゃんの里帰り』は2011年 ドイツ映画大賞、シカゴ国際映画祭 観客賞など世界の映画祭で8タイトル受賞。©2013 by Peter Brune

 

サムデレリ監督:私はミュンヘンの映画学校の監督コース、妹はベルリンのドイツ映画学校の脚本コースで学びました。私自身は15、6歳の時にはもうはっきりと映画作家の夢を目指してしていました。 妹のネスリンは子供の頃から文章が上手でしたから、私が映画学校に行き初めた頃、じゃあ私は脚本で行けると考えたんだと思います。

ータビアー二、ダルデンヌ、コーエンと兄弟で映画作るユニットは知られていますがこれからは姉妹ですね、サムデレリ姉妹!

ーそうですね。ブラザーズは多いですがシスターズは少ないかもしれませんね(笑)。

『おじいちゃんの里帰り』

全国順次絶賛公開中

出演:ヴェダット・エリンチン(フセインおじいちゃん)、ファーリ・オーゲン・ヤルディム(若いフセイン)ラファエル・コスーリス(チェンク)、アイリーン・テゼル(チャナン)、リリー・フーゼル(ファトマおばあちゃん)、デメット・ギュル(若いファトマ)
監督:ヤセミン・サムデレリ
脚本:ヤセミン&ネスリン・サムデレリ
製作:アニー・ブルンナー、アンドレアス・リヒタ、ウルズラ・ヴェルナー
原題:『Almanya-Willkommen in Deutschland』
英題:『Almanya-Welcome to Germany』
後援:ドイツ大使館 、東京ドイツ文化センター
提供・配給:パンドラ
宣伝:エスパース・サロウ
2011年 / ドイツ / ドイツ語・トルコ語 / デジタル / カラー / 101分

2011年 ドイツ映画大賞 最優秀脚本賞・銀賞受賞
ドイツ映画批評家協会賞 最優秀新人監督賞・最優秀脚本賞受賞
2011年 ドイツアートシアターギルド ドイツ映画賞受賞
ミュンヘン映画祭 最優秀子役賞受賞
シカゴ国際映画祭 観客賞受賞
NY ストーニーブルック映画祭 特別賞受賞
2013年 あいち国際女性映画祭 オープニング作品