記憶に残る「食」を「記録」する映画『eatrip』 野村友里監督にインタビュー!

(2009.10.05)

2006年より、おいしく楽しい食で人と人をつなぐフードクリエイティブチーム「eatrip」を主宰し、ファッションや大使館をはじめとするレセプションパーティなどのケータリングや、食で表現するアートのほか、テレビ、ラジオ、雑誌などの連載や、専門学校の講師、食育のメニュー開発など、幅広く活動されている、フードディレクターの野村友里さん。

「eatrip」を主宰、フードディレクターとして活躍中の野村友里さん。
撮影場所:eatrip LABO

このたび野村さんが初めて監督を手掛けた映画『eatrip』が、今年6月からの先行上映や野外イベントでの上映および、第33回モントリオール世界映画祭のドキュメンタリー・オブ・ザ・ワールド部門への正式出品を経て、ついに10月10日(土)より恵比寿ガーデンシネマにて“秋の上映会”がスタートします。

ある晴れた日の昼下がり、野村さんを訪ねて三宿近くのIID世田谷ものづくり学校の一室にある「eatrip」LABOにお邪魔してみると、まるでフランスの小さなビストロを思わせる外観の引き戸の向こうから、何やら香ばしい香りが漂いはじめました。

 

今の時代性を「食」という切り口で記録しておく使命感。

まずは今回映画『eatrip』を撮影することになったいきさつを伺ってみたところ、野村さんにとって、「映画は、簡単には手のとどかない神聖なものであってほしいし、もちろん撮影を終えた今もその気持ちは変わらない」との前提からお話がスタートしました。

「「フードディレクター」という、15年前にはなかったような肩書で仕事をさせてもらっているからには、いまの時代性を「食」という切り口で記録しておけるのは今しかないんじゃないか、という独りよがりな使命感がありました。それを表現する手段として、本や雑誌ではなく、楽しさを「映像」や「音楽」で伝えられる映画というものに自然と導かれたんです。」

ただ、意外にも企画立ち上げ当初は、野村さんはあくまで料理人の立場として関わるつもりで、監督する予定ではなかった、という思いがけないエピソードが……。

「実は、監督は浅野(忠信)さんだったりUAだったり映画に近い方に、と思っていたのですが、「イメージをちゃんと持っている人にしか監督はできない」と周りに諭され、腹をくくることに。結局自分は監督に専念するため、料理のパートはいま自分が一番信頼している料理人の米沢亜衣さんにお願いすることにしました。」

いざ撮影に入ってからも今回の映画製作の現場は、野村さんにとって、今までの「eatrip」の活動とは、だいぶ勝手が違ったようです。

「同じものづくりとはいえ、映画作りの工程は今までとはまったく違いましたね。普段割と感覚の似ている人たちと一緒にお仕事する機会が多かったので、今まで自分はいかに楽をしていたのかがよくわかりました。ただ今回テーマが「食」だったこともあり、まず現場のスタッフに自分がもつ感覚をどうやって感じてもらおうかを第一に考えました。逆にいえば、身近な人たちに伝えられないことを、その後ろにいる人たちに伝えることはできないと思ったからです。」
 


写真はクリックで拡大します 野村友里さん主宰のフードクリエイティブユニット「eatrip」のLABOは世田谷ものづくり学校の中にあります。ビストロみたいに可愛いLABOの中はこんな感じです。 

 

尊敬する人たちと「食」が醸し出すイメージを一番美しい状態で残す。

瑞々しい食材や、手際よく料理する手元、いきいきと「食」を語る人々の笑顔……。ハッとするほど魅力的な映像になった秘訣は、こだわりの撮影方法にあるようです。

「いつどこでいいカットが撮れるかわからないドキュメンタリーを、あえてデジタルではなく16mmフィルムで撮影したのは、自分の尊敬する人たちと「食」が醸し出すイメージを、一番うつくしい状態で残したい、という理由から。「ドキュメンタリーとはある対象に密着し、その一番良い部分を切りとるもの」との思いこみから自由になって、「いいものは、どこを切りとってみても、いい」と気付いた瞬間、撮影の方向性が定まりました。もしもデジタルを選択していたら、きっと終わりがなかったし、小細工したくなっていたかもしれません。」

キャスティングが肝ともいえるこの作品。登場されるさまざまな職業の老若男女は、いずれも野村さん自身が人となり含め自分なりに理解している人々で、「考え方と行動にブレがない、シンプルな生き方」という共通項をお持ちの方々。彼らに「記憶に残った食は?」と尋ねてみたのがこの映画の原点となっているのだそうです。

「出演してくださった方々とは、映画の撮影が終わってももちろん付き合いが続いています。自分の中の「濃さ」のようなものが引き寄せた人々の生きる姿勢を通して、現在の「食」を感じてもらえたらと思ったんです。」

 


写真はクリックで拡大します LABOのキッチンでは映画『eatrip』さながらお料理の最中。パーティ用のシュガーナッツの準備中でした。赤いのは『PAPABUBBULE』の金太郎飴。『eatrip』からのオーダーメイドで「唇」模様。シャンパンに入れるとロゼに早変わりするという、なんともお洒落なアイテム! 取材のあと、野村さんからおすそわけしていただいてしまった!

 

『eatrip』とは、記憶に残る「食」を「記録」する映画。

一方でこの映画が、「ロハス」や「スローフード」という言葉が一人歩きしている世の中に対して、例えそれがジャンクフードと呼ばれるものだとしても、「食べたい」という意思を持って食べていますか? という一つの提案でありたい、と野村さん。

「『eatrip』とは、儚いけれど「記憶」に残る「食」を、「記録」に残す「映画」。
観た人に、「あぁ、いいなぁ。真似したいな」と感じてもらうことから始まってもいいと思うんです。
誰もが自分に落とし込みやすい「食」を通して、みんなが一つになれたら。」

モノづくりというものは、ややもすると暗くて難しい方向に陥りがちですが、今の野村さんが記録したかったのは、あくまで「生」を肯定するイメージだったのではないかと思います。

元来「食」が持つ力をよく知る人が作った映画『eatrip』には、「人を元気にする」力が溢れています。

最後に、今後の「eatrip」の活動について伺いました。

「これからも「食」というツールを使って、人とのつながりを広げていきたい。」

そう語る野村さんの熱い眼差しがとても印象に残っています。

 
 

『eatrip(イートリップ)』

2009年10月10日(土)恵比寿ガーデンシネマにて“秋の上映会”

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