人と食を巡る、映画のかたちをした、ごはん。シンプルだけど最高に贅沢eatripの晩餐会へ。

(2009.06.06)

満月の下、ゲルみたいなテントの中で催されるeatripの晩餐会。
あたたかい光に包まれ、自然とやわらかな笑顔がこぼれる。
円卓を囲んで、いっしょにいる人たちと共に語らい、味わう。

映画館で『eatrip』の予告篇のこのシーンを目にした瞬間、すっかり心を奪われました。たった数十秒のその世界の中に、自分の思い描く“しあわせ”の縮図を垣間見たような気がしたからです。

 

あふれるほどの情報と無限の選択肢がある今という時代の中で、誰もが共有できる「食べる」ということを通してシンプルに生きるということを知るための旅に出てみた……。

 

というのが、フードディレクターとして活躍し、今回監督に初挑戦した野村友里によるこの映画のコンセプト。浅野忠信やUAと並列に、築地市場で働く仲卸の人々や老舗の鰹節屋の上品な女将さん、沖縄で自給自足を目指す主婦、茶人、ダンサー、お寺の住職など、あらゆる職種の老若男女が、「記憶に残った食事は?」「あなたにとって食とは?」という監督からの問いかけに応じ、独自の食に対する思いをそれぞれ自分のコトバで語ります。

肩ひじ張ったドキュメンタリーというよりは、リラックスした状態で「食」について思いを巡らしながら、一緒に話をしている気分になる映画です。

さすがフードディレクターが撮っている作品だけあり、料理のシーンの視点や素材の捉え方に惹き付けられます。ピカピカに磨き上げられた一羽の鶏肉や手際よくさばかれる透き通った魚。ミキサーのガラスをつたうみどりの水滴や真っ黒いパン生地をのばす様を見つめていると、時間の経つのも忘れてしまいそう。

いまではほぼ一年中同じものが食べられますが、本来、美味しいものを味わえる瞬間というのはかなり限られていて、むかしはそれによって季節の移り変わりを実感していたような気がします。「旬」を味わうことこそが、実はいまいちばんの贅沢で、素材自体が持つ旨味を最大限に引き出す以上の料理はないのかもしれません。

 

「誰かと「おいしい」と言い合い、たとえ一人きりの食事であってもきちんと料理と対話する」

 

映画の中でUAが話しているように、食べるうえで大切なことは、誰かと「おいしい」と言い合い、たとえ一人きりの食事であってもきちんと料理と対話する、そんなコミュニケーションの場にすること。

 

「こうやって野菜の顔を見てるときがいちばんの愉しみ」

と、うれしそうに話す野菜売りのおばあちゃんの笑顔が印象に残ります。

最後に、内田也哉子が英語で朗読する詩の一節を。

 

素直に思いを巡らせること、素直に美味しいと言えること
そしてそれら全てに対して、単純なまでに感謝するということ
実はこういったシンプルな事に気づくことが、
人生における幸せの定義と言えるのかもしれない

 

料理は作るのは大変だけど、食べるのはあっという間。
でも、誰かと共有し、ゆっくり味わおうと思えば、無限の愉しみともなり得る。

これって、人生ととてもよく似ている気がするのです。

 

 

 

『eatrip(イートリップ)』

6月6日(土)恵比寿ガーデンシネマほかにて全国公開

監督:野村友里
キャスト:橋皖司(丸十髙橋/築地魚河岸市場鮮魚仲買)、秋山鐘一郎(秋山商店/鰹節問屋)、森岡尚子(主婦/沖縄やんばるにて自給自足を目指す)、UA(歌手)、千宗屋(武者小路千家・15代家元後嗣、 浅野忠信(俳優) 酒井日慈(大本山池上本門寺住職)、下田昌克(画家)、首藤康之(ダンサー)、ヨーガンレール(デザイナー)
コトリンゴ(シンガーソングライター)、青柳拓次(アーティスト/音楽活動)、浅野順子内田也哉子(文筆/音楽活動) 他
音楽:青柳拓次
写真:高木由利子
詩:内田也哉子
撮影:今井孝博
照明:鈴木康介
録音:菊池信之
編集:大重裕二
助監督:大橋祥正
ラインプロデューサー:金森保
メイキングスチール:福田喜一
制作協力:キリシマ1945
製作、配給:スタイルジャム
2009年/日本/78分/35mm/カラー/DTSステレオ/アメリカンヴィスタサイズ
*公開にあたり恵比寿ガーデンシネマでは連日イベントを開催中。くわしくはHP中「スタッフだより」を見てください。
http://eatrip.jp/

©2009スタイルジャム