ー『her／世界でひとつの彼女』は、主人公セオドアが恋に落ちてしまう感情も知性もある人口知能OS　サマンサが登場するような近い未来が舞台です。主人公セオドアが着ているシャツの色の鮮やかさ、ハイウエストのパンツなど、なにげないスタイルが気になりました。見るからに変わっているというより、よく見るとあら？と思うような……。

ケイシー：現在からそう遠くはない未来であるということを登場人物のファッションで表現する時に、過去に遡ってみることにしました。最初のフィッティングの時にはハイウェストのイメージはすでにあって、ヴィンテージ・クローズの店に出かけていっていろいろ探しました。1800年代の南北戦争の頃のスタイルや、乗馬パンツ、それから1930年、40年代のハンフリー・ボガードが履いていたようなハイウェストで、裾の広いパンツ……過去の様々な年代のスタイルの要素を取り入れて長いプロセスを経て出来たものです。

ー ハイウェストというのは、簡単に思いつくものではないと思うのですが、それはケーシーさんがそのようなそのような服装を好んで着ていたことがあったからでしょうか？

ケイシー：映画の衣装を担当する時は、その時自分がしていた服を使うことはあります。例えば作品中セオドアが着ている赤いシャツは私が実際にスパイクとのミーティングに着ていったものです。「そのシャツの色、最高じゃないか！」ということで使うことになった。”Band of Outsiders” のもので、このシャツを着ているセオの写真が作品のメイン写真に使われることになった。チェックのシャツはスパイクが着ていた“Anto”のシャツが元です。“Anto” はカスタムシャツの素晴らしいメーカーなんだけど、同じもので襟のないものを作ってもらったのです。自分たちが普段着ているものが衣装になっちゃうから、私の仕事は楽（笑）。

ー セオのかけている眼鏡は、80年代に流行したウェリントン型のようでもあるのですが、微妙に違う感じがします。セオを演じたフォアキン・フェニックスさんは普段は眼鏡をかけていないと思うのですが、セオはどうして眼鏡をかけているキャラクターになったのでしょう？

ケイシー：セオに何か特徴を与えたかったのです。彼は読書が好きで、手紙の代筆を仕事にしている知的なイメージ。未来が舞台だから、その頃にはみんなレーシック手術で視力矯正をして眼鏡なんかかけている人はいなんじゃないかという考えもあったけどそうではなく、何か現代と通じているものを残したかったのです。映画の中でセオがかけているのは “Warby Parker” のもの。ヴィンテージの眼鏡をモデルにオリジナル・デザインの眼鏡を作っていて、チャリティの意識も高い、そのポリシーからしてとてもよいブランドです。

ー セオの友人　エイミーのファッションもかわいかったです。セオがエイミーの部屋を尋ねた時のエイミーは、サーモンピンクのシャツに、ニットを重ね着していたと思うのですが、微妙に異なる同系色の使い方や、素材の合わせ方……。

ケイシー：エイミーのスタイルは『マルコヴィッチの穴』のキャメロン・ディアスのファッションと似ているんじゃないといわれることが多いのです。私はちょっと違うと思うんですけど。『マルコヴィッチの穴』の彼女は、ちょっとだらしない感じ。こちらのエイミーはドキュメンタリーフィルムを作っているクリエイターだから、すごくお洒落というわけではなく独特のスタイルを持っている女性にしたかった。パンツの裾を折って短めに履いたり、シャツの一番上のボタンは外したり、アーミー・シャツを着たり……楽ちんなスタイルを目指しました。面白いことをやりたいのだけど、それが個性的で目立ちすぎることにはしたくなかったので、そこは気をつけました。

同じマンションに住む友人のエイミー（エイミー・アダムス）は、ひとりでいるセオを心配する。セオはエイミーに恋人ができたけど相手は人間でなく、OSであると告白する。Photo by Merrick Morton

ーケイシーさん独特のスタイリングですね。そもそもケイシーさんがファッションに興味を持ったきっかけは？

ケイシー：マイケル・ジャクソンが子供の時から大好きで、8~12歳までほとんどマイケル風の服装をしていました（笑）。金ボタンの白いミリタリージャケットや、そのほかも黒、白、紫、その当時のマイケルのカラーです、それしか着ないという……。それまでも服は好きだったのですがマイケルによってファッションとのつながりが強くなったということはできると思います。だからその後この仕事を始めてから、マイケルのプロモーションビデオ『Stranger in Moscow』でコスチューム・デザインを担当することになった時は感動的でした。とても美しいモノクロ・ムービーで、撮影の5日間マイケルと一緒に仕事ができるなんて夢のようでした。

ースパイク・ジョーンズ監督とはビースティ・ボーイズの『Sabotage』のプロモーション・ビデオから一緒に多くのお仕事をされていますね。スパイク・ジョーンズ監督とケーシーさんの共鳴する部分というのは特にどのようなところでしょう？

ケイシー：スパイクとは仕事を一緒にする以前から友人です。ビデオを作るのに予算がないからコスチューム・デザイナーに頼めないから君がやらないか？　という感じで、それからよく仕事するようになりました。仕事ではいつでもアイディアのやりとりに時間をかけて、ブラシュアップしていきます。彼とは同じような美学をシェアしているし、同じところで笑えるし、同じものが嫌い。共通しているところは、いわゆるファッションが嫌いなところかな。映画で着る服を考える時には、ファッションを考えようというより、どうしたらその人物を輝かせることができるか、と考える。普通なんだけど、面白い、という。