mic Cinema Diary – 5 –ラテンビート映画祭プロデューサー、アルベルト氏は……。

(2010.09.16)

思えば、あの日はまだ夏の始まりだった。

世の中は、サッカーのワールドカップ真っ最中で、日頃サッカーを見ない人達でさえ毎日のテレビ中継に釘付けになっていた。

アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイ……地図を見ても未だに“この辺り?”としか言えない私だけど、ラテン諸国の国名は毎日耳に入ってくる。

そんな折、編集者のTさんからのお電話。
「micさん、この秋、『ラテンビート映画祭』が東京・横浜だけでなく京都でも開催されるんです。もし良かったらスペイン人プロデューサーのアルベルト氏にお会いになりませんか?」

なんと、スペイン人のアルベルト氏と!?

私の妄想は一気に膨らんだ。
引き締まった体、まるで闘牛士のようなアルベルト氏(TVのスペイン人サッカー選手を見て)!
大きくてダンディで髭の似合うアルベルト氏(ハビエル・バルデムを想像して)!!
セクシーで大人の男の香りムンムンなアルベルト氏(アントニオ・バンデラスを思い浮かべて)!!!

「是非、お会いしたいです!」

私は即答し、当日は真っ赤なワンピースで現場へ向かった。
アルベルト氏が闘牛を連れてきていらしたら、私は確実に突進されていたに違いない。

『駅ビルシネマ』にてアルベルト氏と対談! all photos / narita naoshige

場所は本映画祭会場のひとつ、京都の駅ビル最上階。
現在、京都の駅ビルにはミニシアターが設置され、『駅ビルシネマ』と題して様々な映画祭が催されているのだ。( 『駅ビルシネマ』 ホームページ

赤いソファのような椅子が並ぶシアターに感激していたら、アルベルト氏がやってきた。

「はじめまして、こんにちは!」と流暢な日本語で微笑みかけるその姿は、まるで紳士!
エキゾチックでテキーラ顔(どんなお顔……)を想像していたら、まるで逆。とっても上品にしてエレガント、ソフトタッチの素敵なジェントルマンが目の前に。

しかも、先ほどから通訳の方とお話している日本語の流暢なこと!

それもそのはず、本映画祭プロデューサーであるプログラミングディレクターのアルベルト・カレロ・ルゴ氏は日本在住15年、NHKのスペイン語講座などにも出演するなど、かなりの日本通。

各国で様々な映画祭を企画しながらも、’04年には“日本でより多くの人にラテン諸国の文化を伝えたい!”とラテン・ビート映画祭を開催し、当時は東京のみだったが年々来場者が増し、今年は横浜、そして京都でも開催される運びとなったのである。

「7年前はまさかこんなにお客様が増えるなんて考えられなかった。」と話すアルベルト氏。
「当時のオープニングパーティなんてね、会場で僕がカウンターでカクテルを作っていたんだよ。」

……そ、そうだったんですか(ビックリ)! 年々、多くの方がラテン映画の面白さに気づかれていったのでしょうね(ニッコリ)。ラテン映画の魅力って一体何なんでしょう? 

「ラテン映画の魅力は多様性」と語るアルベルト氏のパッション! micの真っ赤なドレスと赤いシートのようです。

「そうだね、まずは“多様性”だね。ラテン諸国といっても国によって人種や歴史は様々。それらを背景に独自の魅力を放っているんだ。」

……確かにラテン諸国は“革命”や“独立”といったドラマチックな歴史を持った国が多いですよね。

「そう、我々にとって今年は記念の年なんだよ。メキシコ革命100周年、メキシコ・ベネズエラ独立200周年、アルゼンチン・チリ建国200周年etc.……という大きな節目。それを記念して作られたのが本映画祭の目玉『レボリューション』なんだ。」

“革命”や“独立”といったドラマチックな歴史を持った国が多いラテン諸国。映画祭の目玉『レボリューション』

……これは、今年の『ベルリン国際映画祭』のワールドプレミアで上映された注目作ですよね。確か、“メキシコ革命”をテーマに10人の監督が短編映画を撮ったオムニバス作品で、ガエル・ガルシア・ベルナルやディエゴ・ルナも監督として参加していると知って、私も気になっていたんです。

「社会的なテイストの強い作品は、毎回とても人気だね。
今年はオリバー・ストーン監督作、『国境の南』も上映するよ。ベネズエラのチャベス大統領らを追う体当たりで挑んだドキュメンタリーなんだ。
まだ日本では配給が決まっていないので、今後見ることができるかもわからないんだよ。」

……他にも、フランシス・フォード・コッポラ監督でヴィンセント・ギャロ主演の『テトロ』等話題作ばかり、うーん、どれも見たい(笑)!

「社会的な作品だけでなく、コメディやホラー、ヒューマンとジャンルも様々だから友人や恋人と一緒に盛り上がっても楽しいかもね。」

ベネズエラのチャベスはじめ南米各国の大統領を追ったドキュメンタリー。オリバー・ストーン監督作『国境の南』。
フランシス・フォード・コッポラ監督でヴィンセント・ギャロ主演の『テトロ』。先のベネチア映画祭終焉男優賞を受賞。

そう言って、にっこり微笑むアルベルト氏。
作品について話し出すと、まるで大好きなおもちゃについて語る少年のように目がキラキラ。しかし、インタビューの途中で海外から電話が入った途端、一気にプロデューサーの顔へ。通訳の方と真剣なスペイン語でのやりとりを聴きながら、ふと思う。

考えてみれば、一言で“上映!”と言っても、海外から“超”新作フイルムを運んでこなければならない訳で、その為には権利関係はもちろん上映に関して様々な問題をクリアしなければならず、これまたその条件等も各国ごとに違うのだろうから、あぁ想像しただけでも絶対大変!

あ、どうやら問題が解決したみたい。お二人に笑顔が戻った。

「あ、そうそう。ラテン映画の“パッション”も魅力のひとつだね。彼らの生きる力や情熱も是非日本の皆さんには感じてほしいな。」そしてまた少年の笑顔でにっこり。

いえいえ、アルベルトさん、
上映作品から溢れる“パッション”は勿論だけど、あなたの映画祭への情熱もスゴイです。
また情熱だけでなくクオリティの高い作品を選ぶセンスもさすが、どうりで様々な映画祭の審査員を依頼されるのですね。

今年のラテン映画最強ラインナップ17本が揃った本映画祭は東京・新宿バルト9会場を皮切りに、京都・横浜へ。東京・京都ではレトロ名作11本も上映されます。京都の駅ビルでは、映画祭の内容を深く掘り下げたナビゲート冊子『駅シネマ!』まで登場。駅ビルなど京都の様々な場所で無料で配布されている。期間中は様々なイベントや来日ゲストも予定されているので、随時HPでチェックを!

『ラテンビート映画祭』の全てがわかる
ナビゲート冊子『駅シネマ』

ウンポコマス・デ・アルベルト

アルベルト氏は、紳士でありながらとってもユーモラス。
会話が途切れることはありませんでした。

「え、ねこ女優なの? 僕ねえ、最近猫を飼ったんだよね。可愛いんだよ~。いつも缶詰を開けてあげるんだ。えっと、柄は茶色に縞が入った、あ? トラ猫ていうの? それかなぁ。」

「京都? 京都は大好きなんだ。特に三十三間堂。ほら同じ仏像がいーっぱい並んでるでしょ。まるでアンディ・ウォーホールのアートみたいだよね!」

「日本の食べ物? 大好きだよ。最近ね、ダイエットしていてね。チョコレートを控えているの。だから、あんこ。和菓子がいいよね。カロリー少なくて美味しいね。」

紳士でありながらとってもユーモラス。
アルベルト氏。

彼のトークの魅了され、大好きな映画のように“ずっと観ていたい”と思った私。
京都タワーをバックに撮影したポートレートをカメラマンに見せてもらい一言。
“ねえ、自分で言うのも何だけど、なんだか凄く僕、かっこよくない? ”

スタッフ一同、大爆笑。そして「いや、本当にカッコいいです!」と口を揃えて言いました。
アルベルトさん、最高です(笑)!

その数日後、ワールドカップサッカーでスペインが優勝。私は彼の笑顔を思い出し、なんだかその日は幸せな気分で一日を過ごしたのでした。

あの時のワクワク感を胸に、私も会場に足を運ぶ予定です。
どこかで見かけたら声をかけてくださいね。

 

第7回ラテンビート映画祭2010

東京:9月16日(木)~23日(木・祝日)
新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
スケジュール

京都:9月20日(月・祝日)~10月3日(日)
駅ビルシネマ(京都駅ビル7階東広場)
スケジュール

横浜:10月8日(金)~11日(月・祝日)
横浜ブルク 13(TOCみなとみらい 6 階)
スケジュール

上映作品(新作)

オープニング作品
紙の鳥 PÁJAROS DE PAPEL
スペイン/2010 年/ドラマ/115 分 監督:エミリオ・アラゴン 出演:リュイ・オマル、カルメン・マチ、イマノル・アリアス

愛する人 Mother & Child
監督: ロドリゴ・ガルシア(『彼女を見ればわかること』)
アメリカ・スペイン/2009年/ドラマ/125分 出演:ナオミ・ワッツ(「21グラム」)、アネット・ベニング、ケリー・ワシントン

レボリューション REVOLUCIÓN
メキシコ/2010 年/オムニバス・ドラマ/105 分 監督:マリアナ・チェニリョ、フェルナンド・エインビッケ、アマ・ エスカランテ、ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・ガルシア、 ディエゴ・ルナ、ヘラルド・ナランホ、ロドリゴ・プラ、カルロス・ レイガダス、パトリシア・リヘン 出演:アドリアナ・バラーサ(「バベル」)、カルメン・コラル、ジャンニ・デルベス

アベルの小さな世界 ABEL
監督:ディエゴ・ルナ出演:クリストファー・ルイス・エスパルサ、カリナ・ギディ、ホセ・マリア・ヤスピック2010年/ドラマ/メキシコ/85分

国境の南 SOUTH OF THE BORDER
アメリカ/2009 年/ドキュメンタリー/102 分 監督:オリバー・ストーン 出演:ウーゴ・チャベス、ルラ・ダ・シルバ、エボ・モラレス

フラメンコ×フラメンコ FLAMENCO FLAMENCO 
スペイン/2010 年/音楽ドキュメンタリー 監督:カルロス・サウラ 出演:ホセ・メルセ、サラ・バラス、エバ・ラ・ジェルバブエナ、パコ・デ・ ルシーア

ルラ、ブラジルの息子 LULA, O FILHO DO BRASIL
ブラジル/2009 年/ドラマ/128 分 監督:ファビオ・バヘト、マルセロ・サンチアゴ 出演:フイ・ヒカルド・ヂアス、グローリア・ピレス、ジュリアーナ・バローニ

テトロ  TETRO
アメリカ、イタリア、スペイン、アルゼンチン/2009 年/ドラマ/127 分 監督:フランシス・フォード・コッポラ(「ゴッド・ファーザー」「地獄の黙示録」) 出演:ヴィンセント・ギャロ(「バッファロー’66」)、オールデン・エーレンライク、 マリベル・ベルドゥ(「天国の口、終わりの楽園。」)

僕らのうちはどこ? 国境を目指す子供たち WHICH WAY HOME
メキシコ・アメリカ/2009 年/ドキュメンタリー/82 分 監督:レベッカ・カンミサ ★2010 年アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネート
リスクを冒し中央アメリカからアメリカ合衆国へ入国しようとする子供たちの姿を追った衝撃のドキュメンタリー。

わが父の大罪 麻薬王パブロ・エスコバル PECADOS DE MI PADRE
コロンビア・アルゼンチン/2009 年/ドキュメンタリー/94 分 監督:ニコラス・エンテル 出演:パブロ・エスコバル ★2010 年マイアミ映画祭審査員賞・観客賞ほか

猟奇的な家族 SOMOSLOQUEHAY
メキシコ/2010 年/ホラー/90 分 監督:ホルヘ・ミッチェル・グラウ 出演:アドリアン・アギーレ、ミリアム・バルデラス、フランシスコ・バレイロ

キューバ音楽の歴史 HISTORIAS DE LA MÚSICA CUBANA
キューバ・スペイン/2009 年/ドキュメンタリー/各 52 分 総合監督:マヌエル・グティエレス・アラゴン シリーズ5本のうち2本を上映。

『キューバ・ジャズへの眼差し』
監督:パベル・ジロー 出演:チューチョ・バルデス、エルナン・ロペス=ヌッサ、ベボ・バルデス

『フィーリン(気持ち)を込めて』
監督:レベカ・チャベス 出演:オマーラ・ポルトゥオンド(「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」)、ミリアム・ラモス、マルタ・ バルデス

大男の秘め事 GIGANTE
ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、オランダ/2009 年/コメディ/90 分 監督:アドリアン・ビニエス(「僕と未来とブエノスアイレス」出演) 出演:オラシオ・カマンドゥレ、レオノール・スバルカス(「ウィスキー」) ★2009 年ベルリン映画祭銀熊賞・新人監督賞・アルフレド・バウアー賞

ファベーラ物語 5 x FAVELA, AGORA POR NÓS MESMOS
ブラジル/2010 年/オムニバス・ドラマ/100 分 監督:ヴァグネル・ノバイス、マナイラ・カルネイロ、ホドリゴ・フェーリャ、カカウ・ アマラウ、ルシアーノ・ヴィヂガウ、カドゥ・バルセロス、ルシアナ・ベゼーラ 出演:シウヴィオ・ギンダネ、チアーゴ・マルティンス、サミュエル・デ・アシス

命の相続人 EL MAL AJENO
スペイン/2010 年/ミステリー/107 分 監督:オスカール・サントス 出演:エドゥアルド・ノリエガ(「オープン・ユア・アイズ」)、アンジー・ セペダ、ベレン・ルエタ

家政婦ラケルの反乱 LA NANA
監督:セバスティアン・シルバ出演:カタリナ・サアベドラ、クラウディア・セレドン、マリアナ・ロヨラ2009年/ドラマ/チリ・メキシコ/96分2009年マイアミ国際映画祭最優秀脚本賞、2010年ゴールデングローブ賞外国語映画部門ノミネートほか

カランチョ CARANCHO
監督:パブロ・トラペロ出演:リカルド・ダリン(「瞳の奥の秘密」)、マルティナ・グスマン、ダリオ・ヴァレンスエラ2010年/ドラマ/アルゼンチン・チリ・フランス・韓国/107分