日常の中に潜む真理を掬い取るJLG
『ホセ・ルイス・ゲリン映画祭』開催
(2012.06.27)
6月30日(土)から4週間
JLGの長編作品を特集。
『ダカーポ』でも前回の来日時に監督インタビューを行い、俳句や小津安二郎監督作品からの多大なる影響について伺いました。世界各国で高い評価を受けている監督といえども、1983年に製作された長編第1作の『ベルタのモチーフ』から、最新作となる2011年の『メカス×ゲリン 往復書簡』まで、全8本を一挙公開するという大々的な企画は、今回が初めてとのこと。フィクションばかりでなく、ドキュメンタリー作家としても定評のあるゲリン監督作品を丸ごと体験する絶好の機会です。
モノクロフィルムで撮影された『ベルタのモチーフ』(’85)で描かれるのは、片田舎で父親の農作業を手伝いながら暮らす、思春期の少女ベルタを取り巻く日常。森や川面に降りそそぐ光のきらめきや、麦の穂を揺らす風、果てしなくつづく曲がりくねった1本道を自転車に乗って走り、必死になって近所の男の子と取っ組み合いの喧嘩をする様の、まるで記録映像であるかのような瑞々しさ。扇風機や自転車が唐突に発する奇妙な音やユーモラスな動きと風変わりな帽子の男や劇中劇の撮影隊が、繰り返される単調な日々に起伏をもたらします。
2001年に製作された『工事中』は、バルセロナの歴史地区エルバラルの再開発の過程と、そこに暮らす人々を数年にわたり記録した珠玉のドキュメンタリー。スペインのアカデミー賞にあたるゴヤ賞最優秀ドキュメンタリー賞を獲得した本作は、移り変わる街の風景とともに、そこに集まる人々によって交わされる、ピラミッドの建設から神への信仰、愛や孤独をめぐるあらゆる話題と、しぐさや表情といった言語以外のコミュニケーションの不可思議さに目を奪われます。ゲリン監督の手にかかれば、工事現場の光景でさえ、普遍的な物語を紡ぎだすのです。
その他、消えたアマチュア映画監督の残したフィルムを再編集して新たな作品に仕上げた『影の列車』(’97)、ジョン・フォード監督作品『静かなる男』の舞台であるアイルランドをめぐるドキュメンタリー『イニスフリー』(’90)、世界中の映画祭に招待された『シルビアのいる街で』(’07)と、無数のモノクロスチールで構成された『シルビアのいる街の写真』(’07)、訪れた各国で出会った人々や都市の光景を映し出した『ゲスト』(’10)、前衛映像作家のジョナス・メカスとともにビデオカメラをもって放浪しながら撮影した『メカス×ゲリン 往復書簡』(’11)の全8本が、7月27日(金)までの4週間限定で公開されます。
独自の美学を持って、何気ない日常の中に潜む真理を、人や動物、モノばかりではなく、風や光、そして音との対話を通じて掬い取る手法が特徴的なホセ・ルイス・ゲリン監督。
初日、2日目、3日目には、ゲリン監督が劇場に来場し、上映終了後に自ら作品解説を行う、というなんとも贅沢なこの企画。JLGファンの方はもちろん、JLGワールドを未体験の方々にこそ、日本文化を愛するゲリン監督の人柄に触れられるこの機会をお勧めします。スケジュール、イベントはこちらで確認してください。
『映画の國名作選Ⅵ ホセ・ルイス・ゲリン映画祭』
2012年6月30日(土)より、4週間限定
渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開