11/23(土)~12/1(日)有楽町朝日ホールにて 映画の祭典『東京フィルメックス』
開催のきっかけ、ネーミングの由来。

(2013.11.11)


世界にさきがけて新しい才能を世界に紹介してきた映画の祭典『東京フィルメックス』。今年は有楽町朝日ホールをメイン会場に11/23(土)~12/1(日)まで開催されます。そのはじまり、ネーミングの由来について、今年のコンペ10作品の傾向について広報の斉藤 陽さんに書いていただきました。

映画を「ex」する
『東京フィルメックス』のネーミングの由来。

『フィルメックス』=FILMeXは造語ですね。「FILM」はもちろん映画ですが、「ex」は大きく「広げる」という意味をもつ言葉が多い接頭語のexから取っています。例えば「excellent(すばらしい、優れた)」、「exceed(超える、上回る、突破する、しのぐ)」、「exceptionally(特別に、非常に、並外れて)」、「exchange(交替する、交流する)」、「excite (興奮させる、わくわくする)」、「extend(伸びる、広がる)」、「expand(拡張する、押し広げる)」、「experience 経験」などです。それぞれが「映画(=フィルム)」とつながることで、観客の皆様に新しい体験をもたらせられればと願っています。さらに「X」という文字には、クロスさせるという意味があり、日本語で「かける」とも読みます。異なる文化や価値観、体験を交差させることで、新しい反応が生まれることを期待しています。

純粋に面白いと思える映画、“作家性”が強く認められる作品を求めて。
『東京フィルメックス』開催のきっかけ。

1つの単純な理由としては、映画祭がはじめて開催された2000年当時にディレクターの市山尚三(現・プログラムディレクター)が語っているように「単に自分たちが面白いと思える映画が見たい」ということから始まっています。それも娯楽映画だろうと芸術映画だろうと、その映画を監督した映画作家の“作家性”が強く認められる作品ということです。折しも90年代後半から「作家性が強い」ことから、一般公開を敬遠される向きも増えてきた頃でしたので、商業性だけにとらわれずに、ただ面白い映画を上映できればと、今年で14回目まで開催しています。もちろん、映画祭という場ですから、そうした映画作家たちに「会ってみたい」という想いを実現する場としても機能するように、毎年多くのゲストを招聘し、交流の場を作っています。

国際映画で競うコンペティション部門
世界的な才能をいち早く輩出。

『東京フィルメックス』コンペティション部門はアジアを中心とした世界から集めた国際映画で賞を競います。最優秀賞には副賞として賞金70万円が、審査員特別賞には30万円が送られます。

フィルメックスでの上映を機に、その名前が広く知られ、国内での上映につながっていった監督としては、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督やロウ・イエ監督が有名ですね。ウィーラセタクン監督は2004年 『トロピカル・マラディ』で東京フィルメックス最優秀作品賞、’10年『ブンミおじさんの森』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得。ロウ・イエ監督は2000年『ふたりの人魚』でグランプリ、’08年には 『スプリング・フィーバー』でカンヌ国際映画祭脚本賞受賞しました。

近年ですと、2011年に『ふゆの獣』でコンペティションの最優秀作品賞を受賞した内田伸輝監督でしょうか。日本映画としては初めての受賞でしたからインパクトも強く、その後、すぐに2本の長編映画を監督されるなど、注目が集まったかと思います。

また、今年審査員の1人として来日する中国のイン・リャン監督は、2005年に『あひるを背負った少年』を『東京フィルメックス』ワールド・プレミアで上映し審査員特別賞を受賞、翌年も『アザー・ハーフ』で同賞を受賞しました。昨年はロカルノで監督賞を受賞し、フィルメックスが見出した監督が世界に羽ばたいた一例かと思います。

今年のコンペティション10作品の傾向
子どもたちの抱える問題、内容の多国籍化。

全体的な傾向として、まったくの偶然ですが、少年や少女が登場する映画が多いですね。作家主義的な作品が多いので、監督たち自身の実体験にもとづいたストーリーが多いのかもしれませんが、今年は特にその傾向が強いです。ただの想像ですが、おそらく様々な社会問題が露わになってきた現代社会では、いちばんその影響を受け易いのは子どもたちなので、真剣に時代に向き合おうとすればするほど、そこを描きたくなるのかもしれません。「いじめ」や「移民問題」にしても、子どもが直面している問題は大人たちの課題ですからね。

さらに、現代の社会情勢を背景として、描かれる内容が多国籍化していることもあげられます。例えばフィリピンの監督が撮った『トランジット』は、イスラエルで出稼ぎ労働者として働くフィリピン人を主人公に描いた物語です。フィリピン映画だからといって国内で撮られるというわけではありません。また、シンガポール映画の『ILO ILO(英題)』は、フィリピン人のメイドとシンガポール人の家族との交流を描いた作品で、私たち日本人からすると、自分たちの知らない世界のさまざまな姿が垣間みられます。フィルメックスのような映画祭に関わっていると、改めて「映画とは世界への窓」なのだなと気づかされます。

『東京フィルメックス』コンペティション部門の審査委員
モフセン・マフマルバフ監督。

審査委員長のモフセン・マフマルバフ監督は本映画祭で何度も作品をご紹介している監督の1人です。意外にも審査する側としては初めての依頼だったのですが、サミラやハナなど家族の他の誰かの作品がコンペに入っていることも多く、審査員をお願いしづらかったという事情もあります。今回は満を持して審査委員長としてフィルメックスにいらして頂きます。また、新作『微笑み絶やさず』も特別招待作品枠の中で上映します。

特集上映
中村登監督について。

特集上映のうち、ひとつは今年のヴァネチア国際映画祭でも『夜の片鱗』が上映された中村登監督です。

中村登監督得集する理由については、まず1つに今年が生誕100年だからということがあります。実は、松竹さんにも残っている作品が少なく、DVDも発売されていないため、まとめて観られる機会がありませんでしたので、これをチャンスに広く知られればと考えています。
 
2つめに、中村監督の作品そのものの特徴があります。しばしば良質なホームドラマの代名詞でもある“松竹大船調”の正統的な後継者として語られる監督ですが、その作品をよく見直してみると、いわゆる定番のホームドラマとは一線を画していることが分かります。中村作品は単純に“善意の心を持って慎ましく日々を過ごしていれば必ず天の助けがある”という夢にはとどまらない現実の不条理さをも描いています。先行きが不透明な今の世界の状況だからこそ、新たな視点で観られる作品として、再評価を集めているのかもしれません。

今回は11/23(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町にて連動企画としまして「中村登監督生誕100年記念特集上映」も開催します。中村の10作品がニュープリントで楽しめる大変貴重な機会になると思います。

特集上映『生誕100年 中村登』より『我が家は楽し』 1951年/91分 ©1951 松竹 脚本:柳井隆雄、田中澄江 原作:田中澄江 出演:笠智衆、山田五十鈴、高峰秀子、岸惠子、佐田啓二

DVD化の少ない幻の監督
ジャン・グレミヨン特集も。

ジャン・グレミヨン監督に関しては、今年のエジンバラ国際映画祭で特集が組まれました。残念ながら現在、日本では1本もDVDが発売されておらず、海外ですら入手できるものは極めて限られているという状況です。しかし、彼の映画にはジャン・ギャバンを筆頭とする当時の名優たちが多数出演しており、決してマイナーな作家というわけではありません。現に、同時代の巨匠として日本でも広く親しまれているジュリアン・デュヴィヴィエやマルセル・カルネらと共通の脚本家でもあるシャルル・スパークやジャック・プレヴェールなどとも仕事しており、常々紹介されるべき作家だと考えていたことがあります。

確かに評価が遅れた作家ではありますが、こちらも中村登と同様に、むしろ今の視点からみて新鮮であると同時に、凡百の映画にはない豊かさをもっている作品群です。今回はフィルメックスで3作品を上映した後、2014年1月下旬から2月末まで、飯田橋のアンスティチュ・フランセ東京にて特集上映が予定されていることもあり、こちらもグレミヨンの魅力をたっぷりと堪能していただけることと思います。*11/28(木)18:40〜のジャン・グレミヨン監督特集上映『高原の情熱』招待チケットプレゼントあり。


『第14回 東京フィルメックス』ジャン・グレミヨン監督特集上映『高原の情熱』より。11/28(木)18:40〜の上映招待チケットプレゼントあり。

また映画の現在進行形、気鋭の監督たちのとびきりの新作10本を特別招待作品として紹介します。カンヌ映画祭で脚本賞を受賞 ジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』、ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映されたアニエスベー監督『わたしの名前は……』など。こちらもお楽しみに。*11/28(木)18:40〜の特集上映『わたしの名前は……』招待チケットプレゼントあり。


『罪の手ざわり』監督:ジャ・ジャンクー 配給:ビターズ・エンド、オフィス北野、中国、日本 / 2013 / 129分

第14回 東京フィルメックス

開催期間:2013年11月23日(土)~12月1日(日)
開催地:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11F、9F)、
ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F)
問い合わせ:ハローダイヤル info. Tel:03-5777-8600(8:00~22:00)

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