伊藤静香の南仏留学日記 - 3 - エラスムスという名の飲んだくれ集団。

(2010.03.10)

セドリック・クラピッシュ監督の『L’auberge espagnore(ローベルジュ・エスパニョール)』、邦題『スパニッシュ・アパートメント』という映画を見たことがありますか? フランスからスペインに留学した主人公が、バルセロナのアパートの一室で、各国から集まった学生との共同生活や体験を通して、成長していく姿と、ヨーロッパの様々な国の違いや共通性がコメディータッチで描かれた、とても面白い映画です。

ヨーロッパで大ヒットしたこの映画の主人はもちろん「エラスムス」。「エラスムス」とは欧州間の学生と教授の交流促進、また異文化間の相互理解を目的として作られた留学生奨学金制度ですが、同時に、この制度を利用して留学している学生のことも指します。

国や大学によって違いがあるようですが、「エラスムス」の場合、留学期間が半年という学生が多いようです。なので、後期が始まった今、前期から来ていた「エラスムス」のほとんどが帰ってしまいました。彼らの思い出をちょっとだけ書こうと思います。

「エラスムス」の仲間たちと。左から、アンドレア、ゆか、ゆき、ヌーノ、マルコス。

9月に私がフランスに来た頃、まだ学校自体は夏休みで、スタージュ(フランス語の語学研修)のみが留学生向けに行われていました。
2週間完結のプログラムは、私たちアジア人(韓国、日本)は朝から夕方まで授業が組まれており、そのうち午前中の授業は「エラスムス」やオーストラリア、カナダからの留学生も一緒でした。午前中の授業が終わると、必然的に同じクラスのみんなで食事をし、夜飲みに行く約束をし……、という日々を重ねていくうちに「エラスムス」と仲良くなり、スタージュが終わったあとも、夜出かけるときは必ず私たちにも声をかけてくれるようになりました。

エックスのカフェ”Le Festival (ル フェスティバル)”で待ち合わせ。ラース、マリーナ、アンドレア……と、ひげ剃ったヌーノ。剃った途端年相応に。意外とさわやかなやつだった……

こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、やはり欧州の人々の中には、アジア人に対してなんとなく距離を置いている人もいるのがちょっと悲しい現実です。が、最後まで一緒に過ごした「エラスムス」のメンバーは本当に本当にいいやつらで、彼らと出会えたことで、国や言語の違いなんて関係ないって心から思わせてくれた、かけがえのない友達です。

ただし。

彼らは狂ってます。フランス語でいうと、”Ils sont fous.”(イル ソン フー)です。

彼らの生活の中心は完全に夜といっていいでしょう。
学校が終わり、家に帰って、夕飯を食べたあたりで、集合の連絡が入ります。

“à 22h, devant l’office de tourisme. (ア ヴァンドゥザー ドゥヴァン ロフィス ドゥ ツーリズム) “=「夜10時に観光局の前で。」

集合場所にはお酒を片手に向かうのはもはや暗黙の了解。時間通りに集まることはまずありません。たいていが30分を過ぎたあたりでいつものメンバーが集合。そこからは公園で歌を歌ったり踊ったり、クラブに行ったり、あるいは誰かの家の “fête”(フェット)=パーティーに行きます。そんな日々がほぼ毎日続きます。

最初は喜んで行っていたフェットも、こう毎日だと体力も限界に。……後半は断る時は断るという事を覚えました。
二日酔いで学校に行くと、フランス人の友達には”encore?!”(アンコール?!)=また?! と言われ、「エラスムスと。」だというと、納得されました。

ここでいつものメンバー紹介。
イタリアはミラノ代表アンドレア。長身にブロンドの長髪。無精ひげとにくめない笑顔をもった心優しいムードメーカー。酔うと振り付きでポーポー歌いだす。
ドイツ代表ラース。彼は本当に優しい。周りに目が行き届いているし気も遣えます。そしてドイツ人はやはり真面目なのでしょう、テスト前には範囲の確認とノート集めも怠らないしっかりもの。
ポルトガル代表ヌノ&マルコス。今年二十歳を迎えたとは思えないもじゃもじゃひげと体格、威圧感、、、その外見とは裏腹に本当に純粋でお茶目なヌノ。マルコスはしゅっとしていてオシャレ。人見知りですがいつしか仲良くなれました。二人はいつも一緒。
スペイン代表イーマ&マリーナ。スペイン女性は、本当にセクシー。強気なところもありますが、彼女たちが笑うと花が舞うようです。美人。盛り上げ役もお手の物。

全員紹介していると長くなるので、私の周りのエラスムスの国別の印象を独断と偏見で書きたいと思います。あくまで私個人の勝手な意見なので流してください。

イタリア人  基本明るい。よく歌う。優しい。
ドイツ人   まじめ。親切。気が利く。
スペイン人  ラテン。よく踊る。女の子ちょっと気が強い。
ポルトガル人 飲んだくれ。意外と真面目。
ベルギー人  保守的。おとなしめ。
ギリシャ人  不思議。
メキシコ人  優しい。パーティー好き。
スイス人   親切。
・・・・

毎日出かけて騒いで、バカンスには旅行をして、バーベキューをして、フェイスブックにたくさんの写真をアップして……半年という限られた期間で、少しでもたくさんの思い出と、学生最後のバカ騒ぎを! というのが多くのエラスムス達が持っている願望なのかもしれないという印象を受けました。もちろん、勉強をやるときはやるし、遊ぶ時は遊ぶというけじめの基に、ですが。

そうしてあっという間に半年が過ぎて、彼らは去って、また新しいエラスムスがやってきて……楽しそうな彼らを見ていると懐かしさでちょっとだけ切なくなると同時に、私もあと半年なんだと、身の引き締まる思いです。




上段・chez belge!!! ベルギー人宅にて。彼らは”Colocation”(コロカション)=ルームシェアして住んでます。中段・楽しいエラスムスとの一夜、夜中の2時とか。歌って踊って数十メートルの大行進。実はこの日がみんなが集合できる最後の日。話も積もります。下段・バーを移動するたびに別の知り合いの集団に会います。友達も増えます。最下段・アンドレアの家の庭でBBQ。日本人の焼く肉を即行でたいらげるエラスムス。食べずにひたすら焼くゆかとゆうき。半年間ありがとう。本当に楽しかった!!!!