田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》
根津美術館・特別展『燕子花図と藤花図』5/18(日)まで開催中。
光琳の燕子花と応挙の藤花を、
東京青山で堪能する。

(2014.04.25)
  • 浅い紫、暗い紫、花の色の微妙な違いを現物を見て知った(国宝 燕子花図屏風 尾形光琳筆 6曲1双、日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵)
    浅い紫、暗い紫、花の色の微妙な違いを現物を見て知った(国宝 燕子花図屏風 尾形光琳筆 6曲1双、日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵)
  • 屏風絵は立てて、折り曲げて見るべきなのだ。(国宝 燕子花図屏風 尾形光琳筆 6曲1双、日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵)
    屏風絵は立てて、折り曲げて見るべきなのだ。(国宝 燕子花図屏風 尾形光琳筆 6曲1双、日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵)
光琳、応挙 美を競う

今年の東京の桜は満開になる頃から花冷えの日が続いたせいか、長く楽しむことが出来てラッキーと、なんだか得した気分の春だった。せわしない花見も終わると一気に新緑、街の風景は初夏モードに切り替わる。この美しい季節に呼応するように、燕子花(カキツバタ)と藤の花の屏風絵が見られるというので、友人に誘われて南青山の根津美術館へ出かけた。

  • 美術館正門の竹林にも、どこか琳派の趣が
    美術館正門の竹林にも、どこか琳派の趣が
  • kakituba_02
    気持ちのいいロビーには西アジアの仏像も
屏風絵は江戸時代の3Dだ

尾形光琳の『燕子花図屏風』は、子どもの頃の教科書や美術書などで、もう何度見たことだろう。図柄や色彩を記憶するほどにアタマの中に入っていたのだが、今回初めて実物の屏風を見て、驚いた。

記憶の絵は屏風を平面に延ばした状態の写真で、抽象化された花のパターンが楽譜の音符のように上下に変化する構図が心地よかった。

いま、折り曲げて立てた状態の屏風を正面から見ると、山折りと谷折りの面で絵が屈折したように遠近法が強調され、不思議な立体感で眼前に迫る。さらに斜めから見ると隠れて見えない面もあって、全く違った図柄になり、記憶の絵とは別物だ。いろんな角度から眺めると千変万化、見飽きない。

屏風絵のマジック? 同時に展示された「伊年」印(俵屋宗達工房)の『四季草花図屏風』も、谷折りの部分に描かれた草花がまるでブーケのようにアレンジされ、屏風の折りの3D効果を計算したかのようで興味深かった。

  • 藤の花は、薄い紫のようにも白くも、いろんな見え方をする。(重要文化財 藤花図屏風 丸山応挙筆 6曲1双、日本・江戸時代 安永5年/1776 根津美術館蔵)
    藤の花は、薄い紫のようにも白くも、いろんな見え方をする。(重要文化財 藤花図屏風 丸山応挙筆 6曲1双、日本・江戸時代 安永5年/1776 根津美術館蔵)
  • 「伊年」印の『四季草花図屏風』 菊、南天、水仙など
    「伊年」印の『四季草花図屏風』 菊、南天、水仙など
  • 喜多川相説筆の『四季草花図屏風』 芥子、夕顔など
    喜多川相説筆の『四季草花図屏風』 芥子、夕顔など
印象派の先駆け
今年、光琳の『燕子花図』と美を競うのは、応挙の『藤花図』だ。それぞれ6曲1双の絢爛豪華な金屏風に目がくらむ。緑と青紫の高価な絵の具を厚く塗り、装飾的な衣裳デザインのような『燕子花図』はクリムトの絵の先駆けのようでもあるし、曲線的な藤の枝を一筆で一気に描く斬新な技法に、藤の花房を印象派さながら点描で描いた『藤花図』はモネの睡蓮を連想させる。屏風を襖に仕立てて四方を藤の絵で囲んだ座敷を作ったら、さながら和風オランジュリー美術館、と夢は膨らむ。それにしても、両者ともに空間の取り方が絶妙だ。原寸大の実物を前にすると、描かれていない空きスペースに圧倒される。間合いは、すべての日本の芸の神髄かもしれない。
都会の中の森
この展覧会のもう一つの目的は、絵を見た後に美術館の広い庭園を散策することで達成される。都心にいることを忘れてしまう静かな深い緑の森に迷い込み、緩く傾斜した小径を下ると木々の間から藤棚が見える。上からも眺められるように立派なベンチも設えてあった。さらに下って池の端を巡るとカキツバタが群生しているスポットがある。残念ながら花はまだ数えるほどしか咲いてなかったが、剣のような勢いのある葉と膨らんだ莟が直前に見た『燕子花図』を想起させ、咲き誇る青紫の花をイメージして幻視するには、やっぱりちょっと無理があるか。庭を巡ったら、『NEZUCAFE』で一休みする。3面の窓から庭の緑が眩しい。迷わず窓際の席に陣取ってカプチーノとケーキをいただく。目の前に広がる森を眺めながら至福の時間を過ごすことができた。1ヶ月の展覧会が終わると屏風絵は収蔵庫で永い眠りにつくそうだ。来年の花の季節にも、また美しい姿を見たいと思う。
  • 庭と言うより森の中に咲く藤は野趣にあふれる
    庭と言うより森の中に咲く藤は野趣にあふれる
  • カキツバタの膨らんだ莟と葉先に初夏のエネルギーが漲る
    カキツバタの膨らんだ莟と葉先に初夏のエネルギーが漲る
  • 弘仁亭(茶室)前のカキツバタは根津美術館八景のひとつ。GW一番の見頃だという
    弘仁亭(茶室)前のカキツバタは根津美術館八景のひとつ。GW一番の見頃だという
  • 斑鳩庵(茶室)前の池には待ち合いの舟が浮いて、いいなあ
    斑鳩庵(茶室)前の池には待ち合いの舟が浮いて、いいなあ
  • 『NEZUCAFE』にて。東京の南青山にいることが信じられない
    『NEZUCAFE』にて。東京の南青山にいることが信じられない

特別展『燕子花図と藤花図』 光琳、応挙 美を競う
2014年4月19日〜5月18日(日)
会場:根津美術館 東京都港区南青山6−5−1 Tel. 03-3400-2356
開館時間 10:00〜17:00(最終入館16:30)
夜間開館 5月13日(火)〜18日(日)〜19:00(最終入館は18:30)
休館日 月曜日〈5月5日(月・祝)は開館〉
入館料 一般1,200円 学生 1,000円

NEZUCAFE  
美術館庭園内 営業は午前10時〜午後5時
『燕子花図と藤花図』開催期間中に限定メニュー「パフェ・アイリス」あり

*展示室の写真は許可を得て、開館時間外に撮影しています。