from 金沢(岩本) – 1 - いわゆる「ザ・金沢」じゃない金沢。

(2009.03.10)

金沢なんて、冬は寒いし暗いし、いい映画もやってないし、「あー早く出たい!」なんて、高校生のころは思っていたけれど、一度はなれてあらためて住んでみれば、こんなにいいところだったのか、と、はじめて気づいた数年前。川あり、山あり、渋い建物あり、古い町並みあり。ふらりと散歩するだけで目に留まるものがあちこちにある。寂れた商店街や路地裏の小道を歩いてきょろきょろするだけで、軽くこころがおどる。ほどよいサイズの街なので、自転車もよいのですが、やっぱり歩くのが一番おすすめ。何より歩く速度でないと見過ごしてしまうものがたくさんあります。

古い建物に遭遇することもしばしば。
バッタリ出会うドームとか。
何年も前から気になっている建物。
洋風レトロというのでしょうか。
細部もおもしろい。
建具も気になります。

とはいえ金沢は観光地。来たことのない人でも「ザ・金沢」なイメージがあるんじゃないでしょうか。「カニと甘エビと兼六園!」「和菓子と茶屋街と武家屋敷!」などなど。それはそれでよいとして、金沢に住む私のおすすめはちょっと違いました。そして、意外と多くの人がよくあるガイドブックを手に観光しているのを見てはちょっとがっかりし、「えーそこに行くのー!」、「それ、金沢産じゃないですよー!」と声をかけたい場面も、正直なところ、ままありました…。

で、そんなきもちで(ちょっとおせっかい心こみで)作った本が『乙女の金沢』。乙女にも乙女じゃない人にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。金沢に住む私にとってはいつもの、そして同時にとっておきの金沢をぎゅぎゅーっとあつめてあります。いわゆる「観光客向け」ではないモノや場所。ふだん行くところ、ふだん食べているもの。金沢の人にとってはあまりにあたりまえで、「えっ、これ全国にあるものじゃないん?」と思うようなモノまで。

『乙女の金沢』(マーブルトロン刊)。装丁はセキユリヲさん
こちらが表紙の原画。刺繍画は霜田あゆ美さん
かわいいお菓子もいろいろ。写真はおもに森本美絵さんと鈴木朱紀子さん
全国各地でときどき開催する『乙女の金沢』展。4/18~5/17は福井県の金津創作の森で。今秋には東京・高島屋玉川店にあるSAKE SHOP 福光屋にて開催予定。

また、金沢の個性的なお店の店主たちが、広告を入れずに、年四回刊行している『そらあるき』という冊子もあります。制作に携わるのは、アンティーク・フェルメール、benlly’s & job、collabon、ギャルリ・ノワイヨ、宇吉堂、BISTRO YUIGA、ギャラリートネリコ、ブックカフェあうん堂など、小粒でピリリなお店ばかり。この人が言うなら間違いないと思わせる曲者たちであり、おそらく、気に入った店やモノにお金を落とすことの意味を身をもって知っている人たちでもあります。詳しく且つわかりやすい地図付きで、薄くて軽いので持ち歩くのにも便利。事前に『乙女の金沢』で予習して、『そらあるき』を携えて、いざ金沢の奥地へ。

『そらあるき』1号から4号まで。奥深い金沢に分け入りましょう。
『そらあるき』5号から最新号の8号まで。表紙写真はアメリカ生まれで金沢在住の写真家、マーク・ハモンドさんによるもの。金沢の風景を絵のように切り取ったモノクロ写真です。
まち歩きにぴったりの地図もついて、1冊330円(5号までは300円)とお買い得!

そうは言っても、行き当たりばったりもまた旅の醍醐味。スケジュールぎゅうぎゅうであわただしくまわるよりも、行った先々で地元っ子のおすすめをきいてみるのもよいかと思います。なんといっても街は人ありき。人との出会いが何より旅の思い出を濃く彩るはず。かく言う私も、たくさんのよい出会いがなければ、今も金沢に住んでいたかどうか…。

「ザ・金沢」じゃない部分に焦点を当てたこれらの本をきっかけに、有名どころばかりをちゃちゃっと回るのではない、自分だけの旅をして、とくべつな思い出をつくってもらえたら、すごくうれしい。金沢の街を、旅にきた人は住んでいる人のように、住んでいる人は旅をするように、ぷらぷら歩いてみてはいかがでしょう。