Alexandre Andrés『Macaxeira Fields』リリース楽団を率いるのは23歳の天才
音楽家アレシャンドリ・アンドレス。

(2013.05.27)

充実するミナス新世代とその土壌

ミナス新世代の音楽が面白い。音楽が好きで、いろいろな音楽を聴いているような方であれば、そういう話をどこからか耳にする機会が増えていることでしょう。ミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタ、ロー・ボルジェスらを輩出したことでも有名なミナスことミナス・ジェライス州。しかし今話題になっているのは、音楽家としては若手にカテゴライズされる20代から30代のアーティストばかりです。2013年の初来日が発表されたばかりのアントニオ・ロウレイロや、ミストゥラーダ・オルケストラ、グルーポ・ハモなど実験性の強い楽団でも中核を担うハファエル・マルチニといった名前がその中心に挙げられるでしょう。彼らは形態にとらわれないゆるやかなコミュニティを形成しており、ときにはミナスだけでなく近郊のリオやサンパウロ、更には隣国アルゼンチンなどの若手、中堅、ベテラン問わず優秀なアーティストとも交流。その成果としてお互いの作品にゲスト参加するなど、インターネット世代らしい実に風通しの良い関係性で、それぞれの音楽的探究心を刺激しあっている様子が見て取れます。

そんな自由な音楽コミュニティのなかでも、今回紹介するこの『マカシェイラ・フィールズ』を作り上げたアレシャンドリ・アンドレスは最年少の部類でしょう。2ndアルバムとなる本作を制作した時点で、まだ21歳。しかし、ここで聴ける音楽は22歳のそれとはとても思えません。ウアクチの一員でもある父アルトゥール・アンドレス、ピアニストである母ヘジーナ・アマラル、高名な画家である祖母マリア・エレナ・アンドレスといった芸術家の家系に生まれ育った彼は、先述したような優れた音楽仲間に囲まれたことも手伝い、若くして既に完成された音楽家です。
 

「21世紀版クルビ・ダ・エスキーナ」が生まれた要因とは?

自由で風通しの良いコミュニケーション、飽くなき音楽的探究心、純粋かつポジティブなエネルギー、気鋭の音楽家が大挙参加したスケールの大きさ、そしてビートルズへの憧れ。これらの要素において『マカシェイラ・フィールズ』は、ミルトン・ナシメントを中心に制作されたミナス音楽の金字塔的名作『クルビ・ダ・エスキーナ』と実に似通っています。

しかし、クルビ・ダ・エスキーナと同様に、このアルバムの成功もけっしてアレシャンドリ一人の力で獲得したものではありません。タチアーナ・パーハ、モニカ・サルマーゾ、フアン・キンテーロ、ウアクチ他、優れたアーティスト達のゲスト参加も見逃せませんが、ここでは最も重要な力添えをしている二人の人物に焦点を当てましょう。

まずは1stアルバムからのパートナーであり、全ての歌詞を担当している詩人のベルナルド・マラニャオンです。『マカシェイラ・フィールズ』の共作者であるとアレシャンドリが語るベルナルドは、アレシャンドリのほか、アンドレ・メマーリ、クリストフ・シルヴァといった音楽家にも歌詞を提供する若手最高の詩人の一人。人間や自然の機微を捉えた繊細な彼の詩が、楽曲のイメージを形成するうえで大きな影響を与えたことは、本作を聴けば想像に難しくありません。

そしてもう一人がプロデューサーを務めたアンドレ・メマーリです。現在最高の作曲家として孤高の域に達しつつあるメマーリですが、その万能さゆえ、常人を寄せ付けないようなところも時々見受けられます。しかし本作では、その超然とした顔は影を潜め、複雑なアレンジを施した小さなオーケストラのための楽曲を実に見事に纏め上げています。その才能に惚れ込むアレシャンドリ、そして自らも共作を重ねるベルナルド・マラニャオンという気心の知れた後輩たちからのオファーということもあるのかもしれません。シーンのポジティブな雰囲気をそのまま収めた本作は、メマーリにとっても自身のキャリアにおけるベスト・ワークのひとつとなったことでしょう。

才能あふれる若き音楽家と、良き仲間が作り上げた「21世紀版クルビ・ダ・エスキーナ」。約40年前に生まれたミルトンたちの音楽が今もたくさんの人々に聴かれているように『マカシェイラ・フィールズ』もこれから何十年と聴き継がれていくことを願っています。

『マカシェイラ ・ フィールズ(Macaxeira Fields)』
アレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)
2013年5月29 日発売 2,415円(税込) NKCD-1008 (qb005)
レーベル:NRT / quiet border

【Track List】
1. Um som azul 青色の音
2. Aguaceiro スコール
3. Macaxeira Fieldsマカシェイラ・フィールズ
4. Menino 息子
5. Ala pétalo 花びらの翼
6. Ao meu velho 親父へ
7. O canto da formiga蟻の唄
8. Entre Águas 水のあいだ
9. Niña少女
10. Em brancas nuvens 白い雲の中で
11. A voz de todos nós 僕らみんなの声
12. Sem fim 果てなき

Alexandre Andrés アレシャンドリ・アンドレス

1990年3月生まれ、ブラジル・ミナス在住。ミナスを拠点に世界的に活動する創作楽器グループ UAKTI のメンバー、アルトゥール・アンドレスを父に、ピアニストのヘジーナ・アマラルを母に、そしてブラジルを代表する画家マリア・エレナ・アンドレスを祖母にもつアーティスト一家に生まれる。若干18歳でリリースした『Agualuz』にてデビュー。アンドレ・メマーリ、モニカ・サルマーゾらを迎えた、ミナスらしい繊細さと高度な音楽性を併せ持つシンガーソングライター作品で、日本でも大型CDショップ等で話題となる。主にフルート奏者として、アントニオ・ロウレイロやハファエル・マルチニなど多数の作品やライブに参加。ミナス郊外の農園小屋にレコーディング環境をつくり、仲間たちと寝食をともにしながら録音を行うなど、ゆるやかな音楽的コミューンを形成。