橋本徹さんの最新コンピレイション『Free Soul~2010s Urban-Sweet』『Urban-Sweet FM 81.4』週末の恋人たちのためのサウンドトラックUrban-Sweet

(2014.10.09)
Photo by Leanne Boulton
Photo by Leanne Boulton
週末の恋人たちのためのメロウネス。

10月に入り、本格的に秋の風を感じるようになってきました。村上春樹の『羊をめぐる冒険』には、「十月の第二週、都会がいちばん都会らしくみえる季節だ」という一節がありますが、秋物のファッションを楽しみながら、公園を散歩したり映画館や美術館へ足を運んだり、という暮らしを満喫できる時期。橋本徹さんの最新コンピレイション『Free Soul~2010s Urban-Sweet』『Urban-Sweet FM 81.4』は、そんな今の季節にもぴったりです。

タイトルからも想像できるように、この2枚はひと組でペアになっているような、恋人同士のような関係になっています。さらにジャケットに倣って言うなら、“週末の恋人たちのためのサウンドトラック”というキャプションが浮かびますね。キーワードは、“ロマンティック”と“メロウネス”。もちろん、橋本さんのコンピレイション、特に「FM」シリーズでは一貫してメロウネスが通奏低音を奏でてきましたが、今回のコンピレイションには特にそれが顕著です。

それぞれに収録された、ジャズとソウルが理想的な融合を見せる名トラックが、その象徴です。ホセ・ジェイムスのバックを務めるなど活躍中のピアニスト、クリス・バワーズのワルツ・ナンバー「Wonderlove」。一方は、来日公演も記憶に新しいテイラー・マクファーリンの「My Queen」。J・ディラ~クリス・デイヴ以降のビートの上で、クリス・ターナーとヴィンセント・パーカーが艶やかな情感をこまやかに表現、どちらも新たなるスタンダードとなりそうな予感です。

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『Free Soul~2010s Urban-Sweet』のハイライトを挙げていくと、ブライアン・オウエンスによる、マーヴィン・ゲイの作品集からの「What’s Going On」、アニタ・ウォーデルのハートウォームなスティーヴィー・ワンダー「Superwoman」、テラス・マーティンのマイケル・ジャクソン「I Can’t Help It」(作曲はスティーヴィーです)、「Wonderlove」で客演していたクリス・ターナーのシャーデー「Kiss Of Life」など、カヴァー・ナンバーの充実ぶりが光ります。また、ドンテイ・ウィンスロウがディアンジェロ直系のサウンドを鳴らす「Summer Cockout」や、アンソニー・ヴァラデスが夏の終わりの風景を描き出したような「Searching For〈Adi Dick Remix〉」も味わい深い魅力にあふれています。

続いては『Urban-Sweet FM 81.4』で耳を惹かれる曲を。ブルガリア出身の歌姫、ルス・コレヴァの「Better」は、エレクトロニックな感覚を持ったジャジー・ソウル。ドラムはリチャード・スペイヴンが担当しています。スカンジナヴィアン・ソウルの新星、グレガーズ・L.モグスタッドの「Friday Vibes」は、金曜の夜の胸の高まりが表現された、グルーヴィーなブルー・アイド・ソウル。選曲コンセプトやライナーノーツ、“Moonlight Friday Vibes”というサブタイトルのインスピレイション元にもなった心躍るナンバーです。『Free Soul~2010s Urban-Mellow』で世界初CD化されたダフト・パンク「Get Lucky」の素敵なカヴァーで注目された、フランスのハイリーン・ギルも期待の逸材。TOTO初期の哀愁名曲が、ジャジーで浮遊感漂うスムース・メロウ・チューンに変身しています。ヴィンテージ・フィーリング色濃いサウンドが持ち味のスペインのバンド、ブラクサウンド「Unlovable」も聴きもの。原曲は80年代イギリスの名バンド、スミスによるものですが、ここではミッド・テンポのアコースティック・グルーヴに乗せた好カヴァー。他にもディーン・グレッチのAOR的なムードもまとったアーバン・ソウル「We Got Lost」など、週末の夜を彩る素敵な曲が満載です。

2010年代のニュー・センシティヴィティー。
2枚を聴いて感じるのは、過去のアーティストへのリスペクトと憧憬、さらには自分たちの世代ならではの表現ということでしょうか。例えばマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、カーティス・メイフィールドにプリンス、女性ならシャーデーやミニー・リパートンらの名前を連想される方も多いと思います。また、『2010s Urban-Sweet』に収められた、インディー・ソウル・シーンで注目されるジェイムス・ティルマンやクリス・ターナー、ジェシ・ボイキンスⅢ世、DaleyらのセンシュアルなR&B曲に代表されるように、繊細でメランコリックな感性=2010年代のニュー・センシティヴィティーと呼ぶべきそれが息づいているのも、印象に残ります。それはビラルやドゥウェレといったネオ・ソウル勢や、ロバート・グラスパーを迎えたリル・ジョン・ロバーツの「It’s Your Time (Interlude)」に表れているような、ディアンジェロ~J・ディラを起点とする新しいビート解釈とも共振するものであることは言うまでもありません。しなやかなスムースネス、エレガントな陶酔感は、2010年代のアーバン・ミュージックを語る上で重要なキーワードであり、『Urban-Sweet』はその現在進行形を伝える、見事なショウケースになっています。
 
感度の高いメロウなコンピレイションが続々と。
フリー・ソウル20周年のアニヴァーサリー・イヤーも後半に入り、いよいよ佳境を迎えているリリースから、上記2枚に近いメロウなテイストを持つ、もう何枚かも紹介しておきたいと思います。『Free Soul Decade Standard』は、バーニーズ・ニューヨーク銀座店10周年を記念した、“Free Soul×BARNEYS”ダブルネームのスペシャルな企画。感度の高いセレクト・ショップにふさわしく、スタイリッシュでクラッシーな内容です。この10年に橋本さんの心を掴んだ、ジャズ~ソウル~ビート・ミュージックを中心とした音楽シーンの精髄とも言えるラインナップは、『Urban-Sweet』のお兄さんお姉さんというような存在感。故J・ディラの音楽的盟友であったコモンとディアンジェロが素晴らしい客演を聴かせる「So Far To Go」に始まり、新世代SSWの旗手として登場し、現在では他アーティストからのリスペクトも厚いホセ・ゴンザレスの傑作「Heartbeats」、LAシーンの重鎮であるカルロス・ニーニョ率いるプロジェクト、ビルド・アン・アークによる、ファラオ・サンダースの魂を受け継いだかのような「You’ve Got To Have Freedom」カヴァー、デトロイトのムーディーマン・プロデュースによる漆黒のミッドナイト・ソウル、ホセ・ジェイムスの「Detroit Loveletter」などなど、コンセプト通り“10年聴ける”セレクションになっています。音を聴けば、先ほど書いたような、2010年代的なセンシビリティー(感性)との直接的な連続性を感じることができるはずです。NYの摩天楼の風景も美しい、スリーヴ付きのバーニーズ限定パッケージは、ギフトに最適ですね。
  • V.A.『Free Soul Decade Standard』(P-VINE)
    V.A.『Free Soul Decade Standard』(P-VINE)
  • V.A.『Free Soul origami PRODUCTIONS〜Mellow Mellow Right On』(origami PRODUCTIONS)
    V.A.『Free Soul origami PRODUCTIONS〜Mellow Mellow Right On』(origami PRODUCTIONS)
  • スモーキー・ロビンソン『Free Soul. the classic of Smokey Robinson』(ユニバーサル)
    スモーキー・ロビンソン『Free Soul. the classic of Smokey Robinson』(ユニバーサル)
続く『Free Soul origami PRODUCTIONS』は、ブラック・ミュージックへの深い愛情に貫かれた、メロウな生音グルーヴと繊細なビートの心地よさが、CD2枚にわたって(ボーナス・ディスクを入れると3枚!)たっぷりと味わえる絶品コンピレイション。どの曲のどの部分を切っても、自然に身体と心に入り込んでくるようなヴァイブレイションは、ドライヴ中や親密でリラックスした時間のBGMとして、より輝きを増すかもしれませんね。ロイ・エアーズやマイゼル・ブラザーズ、J・ディラやディアンジェロ、エリカ・バドゥ、さらにはNujabesといった名前に反応する方は必聴。また、ラストに収録されたthirdiqの「4a.m.」のように、心を鎮めてくれるようなアンビエンスを持つクワイエット系ナンバーの存在も強調しておきたいところです。

そして最後になりますが、モータウン55周年を祝ってのスモーキー・ロビンソンのフリー・ソウル・ベスト『Free Soul. the classic of Smokey Robinson』(「Going To A 55」というわけらしいです・笑)。彼のシルキー・メロウなファルセット・ヴォーカルはもちろん、ボブ・ディランやジョン・レノンが影響を受け讃辞を寄せた、そのリリシストとしての才能も存分に堪能できるスウィートな名作集。60年代ミラクルズ期の輝かしいモータウン・ヒットの数々とともに、彼のソロ時代の代表曲「Quiet Storm」「Cruisin’」はもちろん、アーバン・ブリージンなスティーヴィー・ワンダーとの共作「I Love The Nearness Of You」や、心温まる爽やかな「Just Passing Through」などは、メロウネスという意味で『Urban-Sweet』のルーツとも言えるもの。深まる季節を感じながら、芳醇なサウンドが詰まったこれらのコンピレイションを、ぜひ味わってみてください。

V.A.『Urban-Sweet FM 81.4』
選曲・監修:橋本徹(SUBURBIA)
2014 年10 月12 日発売 ¥2,300(税別)RCIP-0207 レーベル : アプレミディ・レコーズ

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【Track List】
01. Better / Ruth Koleva
02. My Queen / Taylor McFerrin feat. Vincent Parker
03. Friday Vibes / Gregers L. Mogstad
04. Dance With You / Bashiri Asad feat. Shinda Ewell
05. Natural Sista / Quentin Moore
06. It’s Your Time (Interlude) / Lil John Roberts feat. Robert Glasper & Muhsinah
07. Take The Time / Ev Jones & Juscawz
08. Georgy Porgy / Hyleen Gil
09. Tom / Meshell Ndegeocello
10. Unlovable / The Blaxound
11. I Just Wanna Give It / Electric Empire
12. By My Side / Kwesi K
13. Trace / Jeremy Passion
14. Divine / Eric Lau feat. Fatima
15. We Got Lost / Dean Grech
16. Ask Me / Joan As Police Woman
17. Live It Up / Chris McClenney
18. What Cha’ Gonna Do For Me〈Freeformer Toddy T’s Smooth Dub feat. Josh Aguilar〉/ The Decoders feat. Alex Isley
19. Prototype / Computer Jay & Orfeo

V.A.『Free Soul〜2010s Urban-Sweet』
選曲・監修:橋本徹(SUBURBIA)
2014 年9月27日発売 2,000 円(税別)VICP-65237 レーベル:ビクターエンタテインメント

プリント

【Track List】
01. WHAT’S GOING ON / BRIAN OWENS
02. SUPERWOMAN / ANITA WARDELL
03. WONDERLOVE / KRIS BOWERS feat. CHRIS TURNER
04. SHANGRI LA / JAMES TILLMAN
05. I CAN’T HELP IT / TERRACE MARTIN feat. QUINCY JONES
06. LOOK UP / DALEY
07. KISS OF LIFE / CHRIS TURNER
08. KISSING GAME / DWELE
09. ALL WE DO FOR LOVE / BENNY SINGS
10. US THEORY / SLAKAH THE BEATCHILD
11. AMOROUS / JESSE BOYKINS Ⅲ
12. NEVER BE THE SAME / BILAL
13. SUMMER COOKOUT / DONTAE WINSLOW & WINSLOW DYNASTY feat. AHMIR “QUESTLOVE” THOMPSON, ROY HARGROVE & JK
14. SEARCHING FOR <ADI DICK REMIX> / ANTHONY VALADEZ feat. MILES BONNY
15. LOVE FOR SALE / Elizabeth Shepherd
16. THE MAN I LOVE / GREGOIRE MARET feat. CASSANDRA WILSON
17. RAINDROPS KEEP FALLING ON MY HEAD / EMILIE-CLAIRE BARLOW
18. SWEET DREAMS / LAURA HOLDING
19. SMILE / CYRILLE AIMEE