『Quiet Moments – Piano Tone』発売。十人十色のピアノの音に耳を澄まして。

(2015.04.01)
Photo by Mika NAKASHO
 
『Quiet Moments』6作目は、ピアノにスポットライトを。

Quiet Momentsは「都市生活者のサウンドトラック」をテーマに日常生活に寄り添うような楽曲をイメージし編成したコンピレーション・シリーズ。全体のトーンに統一感を持たせながらも1枚ごとに異なるテイストで選曲をしています。

たとえば1作目の『Narrow Daylight』は女性ボーカル曲で構成し、癒しや安らぎ、寛ぎを感じさせるイメージ。4作目は『Winter Promenade』はフォーキーで温かみのある味わい、など。このシリーズ6枚目となる今作は、ピアノの音に焦点を当てました。

ピアノという楽器そのものの特性や種類、個体差、そしてそれが弾き手の才能や個性と出会うことによって生まれる様々な表情の魅力はまさに十人十色。

Quentin Sirjacqの光を感じさせるような透明感あるピアノのトーン、André Mehmariが奏でるメロディの瑞々しさ、中島ノブユキ氏の優雅さと憂いを湛えたメロディ。

Nils Frahmの「You」は、彼が親指を骨折していた時に残りの9本の指で演奏、録音した曲を集めたアルバム『SCREWS』からの一曲で、丁寧にゆっくりと慈しむように弾かれる優しいメロディが絶品で、キース ・ジャレットの名作『The Melody at Night,with You』を思い起こさせたりします。

haruka nakamuraさんの楽曲は、消音ペダルを使った演奏で独特の音色。このコンピレーションのために未発表だったものを提供してくださいました。記憶の中で鳴っているような懐かしさと優しさ、涙を誘うような叙情性を持つこの曲の旋律が、即興で奏でられたものだというから驚きです。

Akira Kosemuraさんの切なくも美しい名曲「Light Dance」とFabrizio Paterlini「Still traveling」は、どちらも情感たっぷりといえる楽曲ですが、趣を異にします。

ひとくちに情感といってもその表現はプレイヤーによって様々。日本のアーティストも三者三様の個性を発揮しています。ところがまったく違う世界で、それぞれの音楽をつくり続ける彼らには目に見えない共感があるのではないだろうかと思わせてくれます。ピアノの響きや揺らぎ、美しいメロディと共に、十人十色のヴァリエーションと共感を楽しめるコンピレーションになったと思います。

ちなみに、ここに収録した楽曲が必ずしもそのアーティストの代表曲、というわけではありません。今回選んだ楽曲以外にも心に訴えかけるたくさんの素晴らしい演奏を残しており、そして、これからも届けてくれるだろうアーティストばかりだからです。このコンピレーションをきっかけに、オリジナル・アルバムを辿ってみたり、ライブ会場に足を運んでその演奏に生で触れてみたりと、このアルバムを聴かれた方の音楽生活が豊かになるきっかけとなればという思いも込めています。

上段左から、Quentin Sirjacq、André Mehmari、Henning Schmiedt、Olafur Arnalds、Akira Kosemura 下段左から、Fabrizio Paterlini、Sonicbrat、、中島ノブユキ、Nils Frahm、haruka nakamura
上段左から、Quentin Sirjacq、André Mehmari、Henning Schmiedt、Olafur Arnalds、Akira Kosemura
下段左から、Fabrizio Paterlini、Sonicbrat、中島ノブユキ、Nils Frahm、haruka nakamura
Quiet Momentsシリーズが生まれたのは。

CDショップ・バイヤーとして作品紹介をするなか、限られたスペースに「これは!」という作品を集めるためには、従来のジャンル括りがとても窮屈でした。そこで「テイスト」によってセレクトして共感を得られないものかと模索しながら、2008年ごろタワーレコード渋谷店に立ち上げたセレクト ・コーナーから生まれました。

「どんなのを聴くの? 何が好き? 誰が好き?」というよくある会話の中で、ジャンルで言うとバラバラだけれど、具体的なアーティスト名や作品を挙げて説明しているうちに「ああ、そういう感じね。僕もそのへん好きだよ」と感覚的には伝わる。そんな経験はないでしょうか? 同じような趣味や傾向で音楽を聴いているリスナー同士にとって共感できるものとなれば、とおもいながら選曲しています。

ここでいうQuietとは、音の大小を表したかったわけではなく、ささやかだけど愛おしい楽曲や心の奥深くに沁み入る繊細な音楽、また、じっくりと耳を傾けることで気づきがあったり、その音楽の世界観にどっぷりと入り込んだり。そんなふうに音楽と接するひとときや贅沢な時間も表現したくて、そんな場面を連想させるタイトルにしました。日常生活の中でBGMとして愉しんでいただけるように、とも意識していますが、収録した楽曲それぞれにじっくりと耳を傾けていただけたら、さらにうれしいです。

 

『Quiet Moments – Piano Tone』 V.A.
発売日: 2015年3月29日(日)発売 1,500円(税別) PDIP-6554
レーベル : Quiet Moments 監修/選曲 : 吉村健

PDIP-6554_jacket

【Track List】
01.Quentin Sirjacq / Memory 2
02.André Mehmari / E Daí?
03.Henning Schmiedt / Ganz Weiß
04.Olafur Arnalds / Ljósið
05.Akira Kosemura / Light Dance
06.Fabrizio Paterlini / Still travelling
07.Sonicbrat / Temporal *ピアノ・ソロver.
08.中島ノブユキ/ 忘れかけた面影
09.Nils Frahm / You
10.haruka nakamura /別れの挨拶 *未発表曲