Water’s Edge / [.que]、ライブ「We lcome Stranger 」開催。情景を音にして描いていく[.que]の音世界。

(2014.11.24)
Photo by 馮 意欣
Photo by 馮 意欣
[.que]のサウンド。

[.que]というアーティストをご存知だろうか?

[.que]と記して「キュー」と読む。1987年生まれ。徳島県出身神奈川県在住の音楽家、柿本直によるソロ・プロジェクト。ギターやピアノのアコースティックな響きと繊細なエレクトロニクス音を織り交ぜた、柔らかで清涼感溢れる音楽を奏で、エレクトロニカ/アンビエント・シーンを中心に人気を集めるアーティストだ。

エレクトロニカ/アンビエントとは、端的にいうと電子楽器やパソコンを使用して制作された音楽のジャンルのひとつ。ライブではラップトップ・パソコン、つまりノート型パソコンが使用されることも多いことからラップトップ・ミュージック等と呼ばれることもあり、パソコンの普及とともに90年代以降一気に広がりを見せたジャンルである。

エレクトロという言葉の響きからは、機械的で無機質で冷たい印象を受ける方も少なくないと思うが、彼の場合その用い方はむしろその逆で、電子音を取り入れることで、サウンドをより柔らかで広がりのあるものにしている。アコースティック楽器が、少なからずそれそのものの形状や演奏するプレイヤーの姿を連想させるのに対して、電子音は姿形が捉えにくいぶん、より抽象的に、感覚的に色彩感や温度感等を表現することが可能である。その特性を存分に活かしているといえるのが、[.que]のサウンドの大きな特徴であり持ち味。

彼のようにアコースティック楽器の温かみとエレクトロニクスがもたらすイマジナティヴな音像を融合させた音楽スタイルは、ジャンルの細分化の中でフォークトロニカとも称され、エコやスロウ・ライフ、オーガニックというキーワードとともに新たなライフスタイルの提案や生き方の見直しがされることが多くなった世の風潮にもリンクして、’00年前後からシーンのなかでもひとつの大きな潮流となり、暮らしに寄り添う音楽として人気を集めている。

  
  
写真や映像に触発され音楽を綴る。

以前、曲作りの過程に関して彼に直接訊いてみたところ、情景、そしてそれらを収めた写真や映像に触発され、そこに感情移入しながら制作していくことが多いと語っていた。

目にした景色そのものの印象や、自分がそこに相応しいと思うような音、そこで鳴らしたいと思う音を綴っていくのだと。光や風、水、空、それらの色や音、そこにいるひとたちの姿やその場で沸き起こった感情。そういったものを、ギターやピアノ、エレクトロニックな音像を絵筆のように使い分け、まるで水彩画におけるにじみやぼかし、重ね塗りの手法のように用い、織り交ぜながら曲として仕上げ、表現する。このあたりは先日紹介したアーティスト、akisaiにも通じるものがある。

[.que]はこれまでに4枚のアルバムをリリースしている。自主制作でリリースした1st,2ndを経て、ブレイクのきっかけとなった3rdアルバム『drama』と最新リリース作である4thアルバムをSCHOLEからリリース。

SCHOLEとは、エレクトロニカやアンビエント、また近年“ポスト・クラシカル”や“モダン・クラシカル”と呼称されるピアノを主軸とした音楽等、静謐で穏やか、優しく温かみのある音源のリリースを得意とする名門レーベルである。

akisaiのアルバムもこのSCHOLEからリリースされており、[.que]とakisaiはレーベル・メイト。サウンドに相通ずるものがあることにも納得である。

Photo by Shin Kikuchi
Photo by Shin Kikuchi
広島、大阪を経て、東京へ持ってきたもの。

ところで[.que]は、幼少期を地元徳島で過ごした後、音楽活動を始めてからは比較的短いスパンで広島〜大阪〜東京と移り住んできている。

音源のやり取りがデータででき、SNS文化も発達しているこのご時世。4枚目のアルバムであり目下の最新作『Water’s Edge』が故郷への想いをテーマにしたコンセプト作であるほど地元愛も強く、ましてPCでの音楽制作にも精通した音楽家である彼にとっては、それがどこであっても制作やリリースに不自由はないとおもうが何故だろう。

その理由をたずねると、アルバムごとに住む場所や暮らす街を変えることでゼロから始められる、新しい作品をイチから作る事ができるから、との答えが返ってきた。また、大阪の次に東京を選んだのは、音楽を取り巻く環境としても日本のど真ん中である東京で自分の音を鳴らしたい、届けたい、可能性を追求してみたいという強いおもいも口にしていた。たくさんの人が集まる東京では、出会いも多く、会いたい音楽家にもすぐ会える。観たいライブにも行きやすい、そんな環境に身を置いてみたかったのだという。

物腰柔らかな振る舞いと音楽に対する真摯な姿勢。人間的な魅力にも溢れる彼のこと。今後益々たくさんの人々と交流を重ね、自身のライブ出演の機会にも恵まれるに違いなく、彼の名を目にする機会も増えそうだ。

今年の春、彼が上京時に言っていた「いやー、夢しか持って来てないですよ。」という言葉をよく覚えている。持ち前の爽やかな笑顔と共に、はにかみながらも真剣さが伝わる口調でそんなストレートなことを言ってのける。穏やかな中にも熱く込み上げるようなものを感じさせるところは彼の生み出す音楽そのものにも良く似て。名は体を表すということわざがあるが、彼の音楽は、彼の人となりも表出させているのだ。[.que]のサウンドが、人肌感覚の温もりを感じさせ我々の心に訴えかけてくるのは、
そんなところにも理由があるのだろう。

Photo by 馮 意欣
Photo by 馮 意欣
環境の変化がもたらす今の[.que]をライブで。

現在レコーディング中で来年初頭にも届けられるであろう新作は、彼の希望通り他者との関わり合いのなかで曲作りがおこなわれている。SCHOLEレーベルの主宰者であり自身も音楽家である小瀬村 晶氏を中心に、曲作りの段階から音楽的パートナーと意見やアイディアを出し合い制作を進めているのだ。

環境の変化が彼の音楽にもたらした影響は、音楽的知識や技術的なことだけではない。上京を機に人に会うことが増えたことで、明るさが増した、メロディ感とでもいうようなものが増したという。主に大阪でひとりで曲作りをしていたこれまでの作品に対して、次回作はそこが大きな違いとして出てくるのではないかと語っていた。どんな作品が届けられるのか楽しみである。

新作のリリースに先がけ、12月に彼の自主イベントが開催される。イベントの名は”Welcome Stranger” 。理由は想像するに難くない。彼が敬愛するバンド、ストレイテナーで活動するミュージシャン、ホリエアツシ氏のソロ・プロジェクト、entの作品と同タイトルを冠したのであろう。[.que]が今のようなスタイルの音楽をやるようになったきっかけは、そのentに大きく影響されてのことだと聞く。

自身の過去、ルーツと現在を交錯させるような主旨を感じさせるそのライブ。音楽のスタイルも彼を取り巻く環境も日々変化しているなか、きっと今しか観られないものになるに違いない。私は、絶対に観逃したくないと思っている。

Water’s Edge / [.que]

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2014年9月15日発売 2.200円(税別)
レーベル:スコーレ
【Track List】
1. Departure
2. Halfway
3. Wave
4. Clear Water
5. Summer Memory
6. After Sunset
7. Homeward
8. See You

“Welcome Stranger”

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2014.12.14 (sun) at 渋谷 7th FLOOR
渋谷区円山町2-3 O-WESTビル7F
OPEN 18:30 / START 19:00
adv 2,800円 / day 3,300円 (共に1drink代別)
出演:[.que] / organic stere / Chris Van Cornell